Annelida (環形動物)
ミミズやヒル,ゴカイ(釣り餌のイワムシなどの仲間)などが含まれる動物群です.海域から陸域,自由生活性から寄生性と,空以外のおおよそ考え付く生物の利用可能環境に進出し,採り得る限りの生き様を採ります.近年,ゲノム情報を用いた研究から,独立の動物門と考えられていたグループの環形動物への合流が複数例起きているように,おそらく様々な意味で最も多様な動物群だろうと思われます.私は冨岡森理さん,自見直人さん,Katrine Worsaaeさんと以下の研究を行いました.
ミミズやヒル,ゴカイ(釣り餌のイワムシなどの仲間)などが含まれる動物群です.海域から陸域,自由生活性から寄生性と,空以外のおおよそ考え付く生物の利用可能環境に進出し,採り得る限りの生き様を採ります.近年,ゲノム情報を用いた研究から,独立の動物門と考えられていたグループの環形動物への合流が複数例起きているように,おそらく様々な意味で最も多様な動物群だろうと思われます.私は冨岡森理さん,自見直人さん,Katrine Worsaaeさんと以下の研究を行いました.
Cosmopolitan or cryptic species?―A case study of Capitella teleta (Annelida: Capitellidae).
【論文PDF】
生物には我々ヒトのように,世界中に生息する汎存種(cosmopolitan species;コスモポリタン種)と呼ばれる種の存在が知られています.しかし近年,DNA配列情報を用いた研究が進むにつれ,汎存種だと考えられていた種が実は形態では区別できない隠蔽種(cryptic species)と呼ばれる種の集まりであった,つまり1種が広く分布しているのではなく地域ごとに異なる隠蔽種が生息している状況であったという例が報告されるようになりました.本論文はCapitella teletaという種の示す広域分布,つまりC. teletaが汎存種であるか否かについてDNA配列情報を用いて検証した研究になります.
日本2地点(宮城と愛媛)から採集し形態情報からC. teletaと同定した個体と,大西洋西岸マサチューセッツ(C. teletaの記載に用いた個体が採集された場所)から得られたC. teletaのDNA配列を解析した結果,愛媛産の個体はC. teletaであること,宮城産の個体はC. teletaと遺伝的に異なる別種であろうことが明らかとなりました.本研究によりC. teletaが汎存種であることが示されたと同時に,隠蔽種も存在するだろうことがわかりました.なおC. teletaは浮遊幼生期間が数時間と短い(分布拡大能力が低い)ことから,本種の広域分布の形成には海運など人の営みが関係しただろうと考察しました.(2016年頃記)
A new species and the shallowest record of Flabegraviera Salazar-Vallejo, 2012 (Annelida: Flabelligeridae) from Antarctica.
【論文PDF】
当時国立極地研究所にいらっしゃった辻本惠さんと始めた南極多様性解明プロジェクトの関連成果です.1981年に第22回南極地域観測(JARE22)の一環で昭和基地周辺で実施された潜水調査で採集され,国立極地研究所に保管されていた標本の観察により,1新種Flabegraviera fujiae(和名:フジキブクレハボウキ)と,昭和基地周辺から報告のなかった1既知種Flabegraviera mundata (Gravier, 1906)(和名:キブクレハボウキ)を記載しました.なお新種の種小名「fujiae」は,砕氷船「ふじ」に献名したものです.
ついでに和名について.Flabegraviera属は南極周辺のみから知られる属で,体の周りに分厚い寒天質の被膜をまとっています.寒い場所で分厚いものをまとっているという状況から,着膨れた人が思い浮かんだので,所属科名のハボウキゴカイとあわせてキブクレハボウキという和名にしました.無難な和名を提唱しがちな私にしては,すこしひねりつつも分かりやすい和名が付けられたのではないかなと思っています(どうでしょうか).(2017年頃記)
Molecular phylogeny of the family Capitellidae (Annelida).
【論文PDF】
イトゴカイ科Capitellidae全体を対象とした分子系統解析です.18S rRNA, 28S rRNA, Histone H3, COIの4遺伝子を用いて解析を行い,イトゴカイ科が前口葉と囲口節の形態で区別できる2つのグループに大まかに区分されることを明らかにしました.ただ,各属の単系統性はほぼ棄却されました.
イトゴカイ科の観察経験が少ない私の個人的な印象ですが,上記分子マーカーがイトゴカイ科の系統関係の解析において不適である可能性が考えられます.とはいえ,今回用いたマーカーは,海産無脊椎動物においてアプローチしやすい分子マーカーの代表的なものなので,不適だとして,次の一手はなかなか打ちにくいというのが実際のところです.
系統解析が比較的行いやすい(形態情報にもとづく直感と矛盾しすぎない)動物群がある一方,系統解析が難しい動物群がある印象を持っています.イトゴカイ科は残念ながら後者なのだと思います.(2018年頃記)
南西諸島の下地島の海底洞窟から採集されたホラアナゴカイ科Nerillidaeの環形動物を,新属新種として記載した論文です.といっても私は共著者として参画させていただきましたが,新属新種の命名者ではありません(著者の多い論文で新分類群を記載する場合によくあることです).
新属名と新種名はそれぞれNipponerilla,Nipponerilla irabuensisで日本と伊良部島(下地島の向かいの島.調査でお世話になった船長さんの出身の島)に因んだものになっています.和名がとてもよくて,属名・和名それぞれ「ニッポンウサミミゴカイ属」と「イラブドウクツウサミミゴカイ」といいます.側感触手が外れてしまって副感触手だけになった姿はまさにウサ耳.おそらく藤田喜久さんが付けられた和名だと思いますが,いやー,いい和名です.ここから論文を見ることが出来るので,ぜひ図1Aを見てみて下さい.(20210724記)
20210817追記:ウサミミはWarsaae博士が「rabbit ear worm」と呼んでいたことに因むようです.みんな思うんですね.(参考)
イトゴカイ科の1種の前半部(固定前)
コブゴカイ科の1種(固定前)