研究概要

研究についての解説にする予定(まだ工事中です)

・私が主体となって行っている研究

<日本の温帯林群集についての複合的アプローチによる歴史生物地理学的研究>

後で書きます。

Takaya Iwasaki, Kyoko Aoki, Akihiro Seo, Noriaki Murakami. 2012. Comparative phylogeography of four component species of deciduous broad-leaved forests in Japan based on chloroplast DNA variation. Journal of Plant Research. Springer. 125: 207-221. http://www.springerlink.com/content/02157gj062382356/

日本の温帯林構成樹種4種(ウワミズザクラ、ツリバナ、ホオノキ、アカシデ)について全国からサンプルを採集し、葉緑体DNAの変異に基づいて遺伝構造を調べました。その結 果、日本海側地域、関東地域、西日本地域の3地域間での遺伝的分化が、全ての種で共通して存在することが分かりました。地域ごとの遺伝的固有性の結果とも 合わせ、温帯林は、最終氷期最盛期に前述の3地域を更に細分化した6地域に分断され、氷期後にそれらから周囲へ分布を移動させることで現在の分布域を形成 した、という分布変遷の歴史が強く示唆されました。

Takaya Iwasaki, Akitaka Tono, Kyoko Aoki, Akihiro Seo, Noriaki Murakami. 2010. Phylogeography of Carpinus japonica Blume and Carpinus tschonoskii Maxim. growing in Japanese deciduous broad-leaved forests, based on chloroplast DNA variation. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica. Shin Nihon Process Co. Ltd. 61: 1-20. http://ci.nii.ac.jp/naid/110007681504/

太平洋側型温帯林に多く分布する樹種クマシデとイヌシデについて、葉緑体DNAの変異に基づく遺伝構造を明らかにしました。そ の結果、東日本、中央日本、西日本という3地域の間の遺伝的分化が共通してみられ、太平洋側型温帯林の構成樹種に共通する分布変遷の影響の存在が示唆され ました。日本海側地域の遺伝的まとまりがみられなかったことから、太平洋側型温帯林は最終氷期最盛期に上述の3地域の太平洋側に分断されて生き残り、氷期後に北へ分布を拡大することで現在の分布域を形成した、という独自の歴史の存在を初めて示しました。

Takaya Iwasaki, Kyoko Aoki, Akihiro Seo, Noriaki Murakami. 2006. Intraspecific sequence variation of chloroplast DNA among the component species of deciduous broad-leaved forests in Japan. Journal of Plant Research. Springer. 119: 539-552. http://www.springerlink.com/content/p6825771j0733322/

日本の温帯林構成樹種34種それぞれについて地理的に離れた複数の場所からサンプルを採集し、葉緑体DNA非コード領域に おける種内変異量の大きさを調べました。その結果、その変異量には種間で大きな違いがみられ、クマシデやアカシデ、ホオノキ、ツリバナなど10種で比較的 高い値が得られました。これらの種について分子系統地理学的研究を行えば、比較的容易に遺伝構造の検出が可能であることが示唆され、実際にその後の分子系 統地理学的研究の発展の土台となりました。

・Shin-Ichi Morinaga*, Takaya Iwasaki*, Yoshihisa Suyama* (*equal contribution). Eco-evolutionary genomic observation for local and global environmental changes. In: S.-I. Nakano, T. Yahara, and T. Nakashizuka (eds.) The biodiversity observation network in the Asia-Pacific Region: Integrative Observation and Assessments of Asian Biodiversity. Springer-Verlag, New York. (in press)

分担執筆です。ゲノム情報を活用することで、環境変化に対する生物の反応について生態・進化的な視点から調べる3つの新しいアプローチを提唱しています。その中の生態ゲノムニッチモデリング「Ecological Genome Niche Modelling」というアプローチについては私が中心となって執筆しました。

実際にそのアプローチを野生生物で行う研究計画を既に立案し、現在進行中です。

<房総丘陵の絶滅危惧ヒメコマツ個体群についての保全遺伝学的研究>

Takaya Iwasaki, Tadashi Sase, Shohei Takeda, Takeshi A. Ohsawa, Kemrio Ozaki, Naoki Tani, Hiroyuki Ikeda, Masanori Suzuki, Ryota Endo, Kazuo Tohei, Yasuyuki Watano. 2013. Extensive selfing in an endangered population of Pinus parviflora var. parviflora (Pinaceae) in the Boso Hills, Japan. Tree Genetics and Genomes. Springer. 9: 693-705. http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11295-012-0585-5

千葉県房総丘陵には、氷河期の影響で遺存的に残ったと考えられるヒメコマツ Pinus parviflora var. parviflora の個体群が他から80km以上も隔離されて分布しています(2009年の千葉県レッドデータブックでは、最重要保護生物に指定されています)。ところが近 年、マツ材線虫病などによって個体数が100以下にまで急激に減少し、若木や新たな実生もほとんどみられない危機的な状況にあることが先行研究で報告され ていました。

本研究では、遺伝マーカー(SSR)を用いて自殖率や遺伝構造の推定など行い、この個体群の状況を詳しく調べるとともに、有効と思 われる保全策の提案を行いました。また、ヒメコマツなどの大量の花粉を生産する風媒の樹木において、集団のサイズ減少や分断化がどのような影響をもたらす のかについても考察を行いました。

親樹の遺伝解析の結果、遺伝的多様性は健全と思われる両神山と遜色ないレベルで高く、集団内の遺伝構造もそれほ ど強くないことが分かりました。また、任意交配を示すハーディ・ワインベルク平衡からも有意にずれておらず、特に不健全な状態ではないように思われまし た。ところが、親樹と種子の遺伝子型から推定した自殖率は、針葉樹では例外的に高い70%という値でした。針葉樹は他殖と自殖の両方を行うことができるの ですが、一般的に種内には強い近交弱勢が存在することが知られており、ほとんどの場合には他殖を行っています。比較のために解析した両神山の集団では高い 他殖率が推定されており、ヒメコマツという種で近交弱勢の効果が弱くなって自殖できるようになっているわけではないようです。これらの結果から、房総丘陵 のヒメコマツでは、高い自殖率とそれに伴う近交弱勢の効果によって次世代に貢献できる種子をほとんど生産できていない状況にあることが示唆されました。親 樹にその影響がみられないことを考慮すると、数十年前に存在した健全な個体群から、個体が歯抜けのようにあちこちで急激に枯れていくことによって現在の状 況になったと思われます。また、次世代がほとんど生産されていないため、このままでは地域絶滅に向かう可能性が極めて高いです。

また、景観生態 学的解析の結果、その高い自殖の原因として極端に低い個体群密度(1haにわずか0.2本)が示唆されました。マツなどの針葉樹は大量の花粉を風で散布す るため、個体群密度の低下にはそれほど影響を受けないとされることが多かったのですが、どうやら限度を超えると深刻な影響を受けるようです。他の研究で報 告されている個体群密度と自殖率の関係についても調べて比較したところ、どうやら「1haに1本」というレベルを超えてしまうと、自殖が大半になってしま うということが分かりました。保全のためには、この集団由来の苗木を植え戻すことによって個体群密度を改善し、まずこのレベルを超えるようにすることが重 要ではないかと思われます。

・共同研究

<絶滅危惧の藻類についての分子系統地理学・保全遺伝学的研究>

・大西舞, 菊地則雄, 岩崎貴也, 河口莉子, 嶌田智. 2013. 絶滅危惧Ⅰ類に指定されている紅藻アサクサノリの集団遺伝構造. 藻類. Volume 61, Issue 2, pp 87-96. http://sourui.org/sorui.html (別刷り希望の方はメールをください)

お茶の水女子大学の嶌田智准教授らのグループとの共同研究です。私は主にマイクロサテライトマーカーを用いた集団遺伝構造解析について、手法や考察のアドバイスなどで関わりました。