操作変数法では,操作変数の3つの要件を満たす "妥当な操作変数" を選択する必要がある.先行研究では,操作変数の候補変数集合に対してある条件を課すことで,妥当な操作変数を選択し,適切な統計的推測を可能にしていた.しかし,先行研究の少ない領域では,操作変数の候補変数集合自身に条件を入れることが難しい.そこで本論文の提案手法では,操作変数の他にnegative control outcomeなどの曝露変数から直接的な影響を受けない補助変数を利用することで,操作変数の候補変数集合自身に条件を課すことなく,妥当な操作変数を選択する方法を提案した.本論文の提案手法は,先行研究とは異なる妥当な操作変数を選択するための十分条件を発見した,と捉えることも可能であると考えている.
提案手法は適切な補助変数があれば,適切な統計的推測を可能になることを理論的・数値実験的に証明し,またメンデルランダム化のデータにも適用して,既存の事実と整合した結果が得られることも明らかにした.
提案手法のメリットの一つは,操作変数の選択の手順と統計的推測の手順を分けていることであり,二値アウトカムなどにも自然に拡張可能である.しかし,実は補助変数の選び方次第では妥当な操作変数を全て選択することは難しいため,今後は複数の補助変数を選択可能な手法を開発し,さらに大規模なメンデルランダム化のデータに適用していきたいと考えている.