操作変数法は,未観測交絡因子が存在しても適用可能な統計手法であるが,生存時間アウトカムに適用できる方法は限られる.特に,生存時間アウトカムでよく利用されるCox比例ハザードモデル (CPHM) に適用可能な方法は,現在も検討段階の状況である.
本研究では,操作変数や曝露 (治療) 変数の変数型に依らず,幅広い場面で適用可能な,新たなCPHMに適用可能な操作変数法を提案した.その理論的背景は,frailty modelとlimited information maximum likelihood法に由来しており,先行研究と同等の正則条件の下で,ハザード比の有効推定量を構成可能である.Two-stage residual incrusion法を拡張した先行研究と比較し,提案手法は安定的にハザード比を推定可能であることが分かった.
しかし,提案手法では未観測交絡因子の分散パラメータを事前に設定しておく必要があり,この特定を誤ると,ハザード比の推定結果にバイアスが生じる.また,未観測交絡因子に正規性の仮定が必要である.つまり,未観測交絡因子の分布の設定を誤ると,同様にハザード比の推定結果にバイアスが生じる.前者の仮定については,例えば他研究の事前治験を利用する方針や,感度パラメータの解釈可能性を議論しているが,根本的な解決はできていない.今後の研究では,この2つの仮定を回避・解決することが肝心になると考えている.