メンデルランダム化 (MR) では,ヒトの一塩基多型 (SNP) を操作変数に用いることで,未観測なものも含めて交絡因子の影響を調整する.二値アウトカムに興味がある場合でも,通常の二段階最小二乗法 (2SLS) を適用可能であるが,二段階目のモデル誤特定に伴い,因果効果の推定結果にバイアスが入る可能性がある.この状況では,2SLSの他にも二段階予測値代替法 (2SPS),二段階残差投入法 (2SRI),制限情報最尤法 (LIML) などの適用を検討できるが,各方法を包括的に比較検討した研究は限られる.本研究では,MRでよく利用される逆分散重みづけ推定量 (IVW) も合わせて,あるシミュレーションデータを利用していくつかの操作変数法の性能の比較検討を行った.
2SPSは,曝露変数との相関が比較的強い操作変数が利用できる状況では,精度よく・偏りの少ない因果効果の推定結果を導出することが分かった.先行研究では,2SPSよりも2SRIを推奨する報告もあるが,2SRIは観測された共変量を調整するのが適切であること,及びバイアスが入る可能性も報告されていることから,この状況では2SPSの利用が無難ではないかと考えられる.一方,MRの文脈で問題となる,曝露変数との相関が弱い操作変数しか利用できない状況では,IVWやLIMLが適切ではないかと考えられる.いずれも因果効果の推定結果にバイアスは生じるが,他の操作変数法よりも比較的推定結果が安定的していること,及びバイアスが保守的な方向に入りやすいことが分かった.
本研究では,Orihara et al. (2023) よりも現実のデータに近い状況を模倣したシミュレーションデータを利用したが,本研究結果はあくまで一つの事例での結果であるため,より広範な状況での検討が待たれることになる.