層別推定量は,傾向スコアを利用する因果効果の推定方法の一つとして知られている.層別推定量では,得られた標本を(推定された)傾向スコアの大きさに従って並べ,ある区間毎に区切ることで層を定義するが,その層数は5層とすることが慣例的に多い.しかし "最適" な層数はデータに依存するため,状況によっては5層以上の層数を利用すべきであることが近年分かってきた.本研究では,先行研究よりも簡便な方針であり,かつ層別推定量の平均二乗誤差を最小化するという意味で最適な,新たな層数選択基準を導出した.提案手法は,先行手法よりも短い計算時間で同等のパフォーマンスを示すことを,シミュレーションベースに確認した.また最適な層数は,サンプルサイズが増大するに従って大きい層数が選択される傾向にあることが分かり,本研究のシミュレーション結果を通して,5層以上の層数を選択すべき状況があることが改めて判明した.
なお提案基準の適用に際して,想定される最大層数を事前に規定する必要があり,最大層数の設定次第では結果が変わりうることには注意が必要である.また,最適な層数を "選択する" ことが因果効果の推定において重要であるかは不明であり,続く議論が待たれる状況であると考えられる.