授業開始前に

(以下はコロナ禍で授業開始が遅れた2020年度入学生向けに書かれたものです。すでに古くなった情報が含まれていますが、さしあたり参考までに掲載しておきます。)


新入生の皆さん、改めておめでとうございます。

さて、新入生の方々に限りませんが「授業をよこせ」「学知をよこせ」「このままでは知に餓えて死んでしまう」と今にも反乱が起きそうだと耳にしました(嘘)

でも、機会として利用することもできるはず。

授業を延期している全国の大学も、教職員一同、一心不乱に授業開始のため努めていますので、それまでを有意義に使ってください。

参考までに、ぼくの専門に近い分野で目についた、利用して欲しいリソースを少しずつ紹介してみます(より目端の利く方々が補足してくださるのを期待しつつ…)

なお、以下で紹介したのは未だ学内リソースを使うことができない新入生を主たる対象としたものです。 在学生は学外からでも利用できるリソースがあります。これらのリソースもコロナの影響でアクセスが拡大されています。

都立大生向けアクセス拡大情報:https://lib.tmu.ac.jp/news/11642.html

【シラバス】

まずは大学のシラバスです。

なんだよそれ。そう言わないでください。特に新入生の入学直後はバタバタしてシラバスを読み込む時間がありません。けれど、事前に課題文献や参考文献に目を通しておけば、授業や教員の性格がよく分かって外れが減りますし、何より学習効果が桁違いです。

元ダメ大学生の私見ですが、講義でも演習でも、それが面白く、有益なものになるかは、初回(イントロを除く)の授業の予習にかかっています。予習課題はもちろん、参考文献に目を通したり、その先生はどんな専門でどんな本を書いているのか調べているだけでも、入りは全く違います。

後ではなかなか取り返せません。結局「可」が取れればいいやとモチベーションが落ちることもあるかもしれません(実際あった、泣)。学期が始まれば、みんなバイトしたり、パーリーパーリーしたり、しようとしたりで初回授業が来るんです。今回は、その前に充分に準備できる貴重なチャンスです。

それだけじゃないんです。実はシラバスの多くは学外にも公開されてます。他大ではどんな授業をしてるか。どんな文献が重要か。中高生にとっても学問の雰囲気を知るには便利です。研究者でも他の研究者の問題関心をスパイするため、他大学のシラバスを覗くことは珍しくありません(よね?)。

たとえば泡沫候補を扱った畠山理仁さんのノンフィクション『黙殺』、うちの学部でも谷口功一先生が激推ししていましたが、シラバスを見ると、うちの河野有理先生の演習でも、北大・空井護先生の演習でも挙がっていたりします。調べてると飽きないですよ。國學院・坂本一登先生の演習とか、東大・前田健太郎先生の「行政史」とか…

本来なら筋道立てて基礎的なものから紹介すべきなんでしょうが、期間限定のものを先に紹介します。ciniiとか、デジコレとか、アジ歴とか、メジャーなのは各自調べてください。日本近代史については、もはや紹介するまでもありませんが、長尾先生の以下のサイトを。

https://twitter.com/negadaikon/status/1161550730467131392?s=20

【ざっさく】

近現代史の人の鼻血が止まらなくなっているのは、「ざっさく」の期間限定無料公開のせいです。通常、ライセンス契約のある機関でしか利用できません。都立大は契約してません(たぶん)。それを家から使えるなんて…どういう異世界ですか、ここは。

https://twitter.com/zassakuplus/status/1244822303663243265?s=20

「ざっさく」では近現代の雑誌に掲載されていた多くの記事・論文がヒットします。なんでもいいんですが、たとえば結婚適齢期っていつ出来て、どのようにその意味を変化させたのか、調べたいとしましょう(何調べてんだ、俺)

「適齢期」で検索するとこんな具合。戦前からかなりあるんですね。

索引ですから、わかるのは記事の書誌存在だけ。それでも最近は再婚適齢期とか、離婚適齢期とか、話題なんだなとか面白いですが…次は中身を確認しなければなりません。各記事にはリンクが付いていますが、国会図書館は来館サービスは休止、4月15日から遠隔複写サービスの新規受付も停止中です。

もっとも、遠隔複写の可否に拘らず、「ざっさく」は滅茶苦茶ヒットするので全部コピーするのはお薦めできません。この機に読みたい文献の一覧を作成して、いずれ東京本館に行くことが可能になれば必要なものだけ複写するのがいいでしょう。

興味本位でも構いません。日本が誇る(とりわけ戦後日本が誇った)雑誌文化の広がりを体感してみてください。

【web OYA】

こちらは期間限定無料トライアルしてます。めちゃ雑誌集めて、めちゃ整理して、めちゃ書いた大宅壮一という化け物がいて、八幡山にその雑誌コレクションを引き継いだ大宅文庫@OyaBunkoがあります。国会図書館も所蔵しない不真面目な(?)雑誌も集める化け物コレクションです。

Web OYAはこの大宅文庫のウェブ版記事索引で、戦後の週刊誌などが多くヒットするのが特徴です。都立大は契約していますが学外アクセスできません。大宅文庫は4月8日から休館になりましたがまだ資料配送は可能です。が、国会図書館同様いつ難しくなるかわからないので、「ざっさく」同様、将来訪問のために文献一覧を作るのが吉。

https://twitter.com/OyaBunko/status/1243035790550024192?s=20

【Project MUSE】

欧米での爆発的な感染拡大の影響で、多くのE-bookやE-journalが無料公開をしています。おそらくProject MUSEから入るのが一番わかりやすいかと。興味があるテーマで検索をかけてみてもいいですし、title listから公開中の書籍・雑誌の一覧が見れます。

https://about.muse.jhu.edu/resources/free

Cornell UPやJohns Hopkins UP、MIT Pressなどが全ての書籍を無料公開しており、どうですかね、専門分野によって目玉はさまざまでしょうが、国際政治周りではIkenberryやLakeもありますし、日本の章もある@ALanoszka

のAtomic Assuranceなんかも。

もちろん救済のための企画ですし、どうせ読み切れないので、大量ダウンロードはやめてくださいね。そして、面白かったら買ってあげてください。

けれど、いろいろ検索して、ななめ読みして、自分の興味関心を開拓・深化させるにはピッタリな機会です。


【JSTOR】

洋ジャーナルのオンラインサービス・JSTORもアクセスを拡大していますが、無料公開は公衆衛生分野が中心です。それ以外のものとしては…

・大学でのアクセス範囲が拡大

・オンライン閲覧のみの無料会員での閲覧が月6→月100

https://about.jstor.org/covid19/?utm_source=jstor&utm_medium=display&utm_campaign=dsp_jstor_home_right_covid19_03_2020


【J-STAGE】

Ciniiでも検索はかけられますが、J-STAGEは日本全国の論文の全文データベースを用意しているサイトです。年報政治学や年報行政学はここで公開されています。これは期間限定ではなく、コロナ後も使えます。

年報政治学を例にとると現時点で2016年度までしか開いていません。新しいのは購入したり、複写したりということになります。

とはいえ、膨大な量の論文が自由に読めるのはかつては考えられなかったこと。そして、最新公開の2016年度Ⅱ号(待鳥先生編集)の特集「政党研究のフロンティア」は必読です。

さしあたり、特集論文の日本政治に関するものだけ紹介しますね。

清水唯一朗先生の「日本の選挙区はどう作られたのか」は、第一回衆議院議員選挙の1889年の区割りを取り上げる。なぜ300人なのか、選挙区間の人口格差にも拘わらず郡を選挙区の構成単位としたのはなぜか…それはまさしく日本の代表のあり方と結びついています。

そして、藤村直史先生の「政党の選挙戦略と党内の資源配分」。

総理って選挙期間中、いろんな候補のとこ回りますよね。で、総理が来ると、選挙カーの前に人だかりができたりするわけです。候補者は確かに嬉しい。でも、総理の体って一つしかないわけです。じゃあ、どういう候補のとこに行くのか。結論は、要約にも明確に書かれているので、是非ご覧ください。ちなみに去年の参院選、定数2に自民が2人を擁立した広島選挙区では、河井案里議員(自民)のところに安倍総理が1回、菅官房長官が3回入りました(総理は同時に溝手顕正氏(自民)のところにも応援しに行った)。

さらに奥健太郎先生の「自民党結党直後の政務調査会」。事前審査制の起源など自民党政治の歴史的形成過程を解明する研究を陸続と発表されている奥先生が、自民党医系議員の代表格であった加藤鐐五郎の日記を用いて自民党結党直後の政調会の実態を検討した論文。事例が健康保険法改正なので、じっくりと腰を据えて読む必要があるけれど、その政調会の役割の評価はもちろん(本文読んでください)、加藤ら医系議員が「厚生省の走狗」たる社会部会主流派と舞台を変えて闘っていく活劇としても面白い。

と、ここまで紹介して、もう力尽きました。あとは自分で読んで。

網谷先生とか、西川先生とか、松尾先生とか、もうTwitterでも知名度抜群の政治学者たちのオンパレードなのだ。そして、われらが三谷くん論文も。

正直、この一号だけでもじっくり読んでたら、そのうちに授業は始まっちゃう気がする…

【古地図】

いや、そんな文字ばっか無理や!わかります。画像のデータベースは今やいろんなとこにあるんですが、近現代の都市に興味津々のあなたに、日文研所蔵地図データベースー(ドラえもんの口調で)

http://lapis.nichibun.ac.jp/chizu/menu.html

こちらもずっと無料で利用できます。近世の都市が中心ですが、近代もかなりあります。たとえば明治初期の皇城周りには有力者の名前がよく現れます。「こんなとこにこんな人が住んでたんだー」とか思いを馳せていると、近現代史の理解が捗ること間違いなし(但しヤツらはしょっちゅう転居するんで、それは注意)

【朝日新聞デジタル】

朝日新聞デジタルに無料登録すると1日1本まで有料記事が読めるのですが、現在は(一部記事を除き)無制限に読むことができます。提携するNYTはアメリカの教師・高校生向けに無料公開していますが、より幅広で太っ腹ですね。

https://digital.asahi.com/info/information/free_member/?iref=covid19_0407_info_free


【官邸ウェブサイト】

そろそろ終わります。

みなさん、コロナを巡ってはいろんな観測が流れてきて、なにが正しいのか迷ったりしますよね。そんなとき、いつでも基本は一次資料に当たることです。たとえば対策本部のような最前線で配られている資料を、われわれも容易に見ることができます。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/taisaku_honbu.html

確かにこんな資料を読むのは面倒です。でも見渡してみるだけで、どんな状況で政策決定が行われるのか少しはわかります。たとえば専門家会議って何人いるか知ってますか?西浦先生は委員ではないけれど、どういう立ち位置で参加されているか知ってますか?

ニュースの見え方も変わってくるはず。

現下の政府の公文書への態度には、ぼくも他の研究者同様憤っていますけれども、情報公開を十分に担保するためには、わたしたちがその意義をしっかりと理解することは不可欠です。そしてまた、この情報過多の時代、公開情報の在処をしっかり把握し、読み解くことはとても大事です。

こんな事態、人生でも滅多にありません(あっては困ります)。授業開始の暁には講義でも今回のコロナ対策の政策決定過程について扱いたいと思いますが、せっかくの授業開始前、目をかっと見開いていてください。

力尽きたので、さしあたり以上です。また思いついたら補足します。

少しでも参考になれば嬉しいですが、どれも体力を削ります。まずは健康第一で。