昆虫は,完全に遺伝的にプログラムされ,規則的に行動するマシーンである,と考える研究者は多いです.しかし種が違えば,そのつくり様も異なり,その動物がどのように「感じ」ているのかは,われわれ人間の常識では,分からないのではないでしょうか.チャールズ・ダーウィンは1872年刊行の著書「人間と動物における感情の表現」“The expression of the emotions in man and animals”において,虫でさえも怒り・恐れ・妬み・愛情を示す,と述べています.現在でも,虫やその他の無脊椎動物が,感情のようなものをもっているのかどうか議論が続いています.
「感情」は,主観的なものですが,その言葉の使われ方もあいまいなものです.動物の感情を研究するにはどのようにすればよいのでしょうか.一つの方法は,難しいながらも,「感情」に,科学的に検証が可能な定義をさだめ,感情が観察されるときの動物の,生理学・行動学的な変化を,客観的に評価することです.科学的な検証をおこなうための定義は,操作的定義(operational definition)と呼ばれます.最近の研究から,人間の感情を特徴づける重要な性質として,快適性(好きか嫌いか,Valence),覚醒の程度,持続性などがあげられています.こうした特徴は,感情を決める基本的な要素,という意味で「感情プリミティブ」と呼ばれます.
別の操作的定義として,感情は報酬・罰などの経験によって定まる内部状態である,とするものです.この場合,報酬は動物の行動をうながし,罰は動物にその行動を避けるようにする性質をもちます.この定義は,われわれが本来抱く「感情」とイメージが異なりますが,動物においても感情を観察することができ,科学的に検証することができます.
ニューカッスル大学のメリッサ・バートソン博士とジェラルディン・ライト博士の研究グループは,ミツバチを対象に,ヒトの実験でも用いられている,認知的な状態の有無を検証しました(Bateson et al., 2011).これは,ある刺激を用いて学習を行った後,もともとの刺激に似た,不確かな刺激を与え,動物がどう解釈するか,と分析するものです.
実験ではまず,報酬となる匂い,罰を与える匂いをそれぞれ覚えさせました.そして,第3の刺激として,これら2つの匂いを同時に与えました.ヒトの研究でも指摘されているように,悲観的な動物は,こうしたあいまいな刺激に対して,悪い結果をもたらすとみなすことが多いようです.こうした効果は,ヒトに加えて,ラットや犬などで確認されています.このテストはヒト以外でも実施することができるので,「認知」の様子を動物どうしで比較することができます.
悲観的な状況として,外敵の攻撃を演出するために,研究者らは巣をゆさぶること(シェイク)を行いました.シェイクを施したミツバチたちは,砂糖がもらえる匂いに対して反応を示しますが,シェイクされていないミツバチよりも消極的でした.シェイクされたミツバチの脳を調べてみると,ドーパミン・セロトニン・オクトパミンなどいくつかの物質の量が変わっていることがわかりました.この変化は,うつ病の際の変化と似ているものでした.認知的なバイアスが感情の指標として適切であるかどうかという議論もされています.バートソン博士らは今回行った悲観的な状況に加え,今後さらに,幸福感など他のアプローチを検討するとしています.
バートソン博士らの研究は、ネガティブな感情にかかわるお話でした.これと反対に, 2016年にサイエンス誌に発表された論文では,マルハナバチが,幸せを感じるといったようなポジティブな感情をもつ可能性が提案されています.イギリス・ロンドン大学クイーンメアリー校の生物学者,クリント・ペリー博士がこの仮説を検証する実験を行っています(Perry et al., 2016).彼らは,マルハナバチに対して,箱の中の左側にある青い花と,右側にある緑の花を区別できるようにトレーニングをしました.青い花にある水は糖分を含んでいますが,緑の花には甘くない水がおいてあります.この時,含まれる糖分の量を30%・60%の2種類の条件を試しておきます(後の実験に必要になります).こうしてマルハナバチは青い花という視覚情報と,甘い食べ物の報酬の情報を覚えます(先ほどの「連合」に当たります).
このトレーニングが終わった後,青でも緑でもない中間の色の花を,箱の真ん中に置いておきます。この操作によりミツバチに不確かな情報を提示しています。この時,60%の糖分でトレーニングを行ったマルハナバチのグループは,30%の糖分でトレーニングを行ったグループに比べ,素早く中間色の花に移動しました.このことは、より高い報酬を経験したハチは、不確かなてがかりに対し、報酬を期待する傾向が高いことを示しています。
ハチにとって,中間色の花が甘いのかどうかは分かりません.こうした不確かな状況で,報酬を期待する性質のことを楽観バイアス(Optimism bias)と呼びます.この例では,ペリー博士らの実験によって,ハチがポジティブな状態に変化し,花が報酬を持っている,楽観的に捉える,と解釈されます.似たようなことがヒトでも起こります.新生児が甘いお菓子を与えられた場合,泣く時間が少なくなるそうです.また大人でも飴はポジティブな感情を促し,悪いムードを改善するそうです.
こうした変化は虫の行動の他の局面についてもあらわれます.ペリー博士らは,先ほどと反対に,動物が危険にさらされる場合についても検討を行いました.自然では,クモの一種(カニグモ,club spider)がしばしばマルハナバチを捕食します.クモによる襲撃を真似するために,ハチを3秒間ジェントルにつかむという操作を行ったところ,砂糖水でトレーニングされたマルハナバチは,そうでないグループよりも長く食事を続けました.ハチに起こった,外敵の警戒という点においても「楽観的」になり,注意力を低下させたのではないか,と考察しています.
ほ乳類の研究においては,報酬や動機づけには,神経伝達物質の一種であるドーパミンが重要な役割をもつことが知られています.研究グループは最後に,ハチの脳のドーパミンの作用を阻害することで,今回観察した楽観バイアスの現象が消失することを報告しています.
情動(emotion)と感情(feeling)という言葉は似ていますが,科学者には厳密な区別があり,例えば情動は,世界の変化に対応する身体に備わるメカニズムのこと,感情はこれらを感じる主観的な現象のことを意味します.とても危険な外敵と遭遇し,脈拍が上昇するといった情動的な変化がみられても,これが必ずしも恐れなや悲しみなどの感情と同様に起こっているかは分かりません.今回のペリー博士の研究も,昆虫における感情の存在を示すものではありませんが,昆虫が情動という機能を実現させるために,必要なしくみのいくつかを備えていることが分かります.
感情(feeling)の存在は,心(mind)の存在と心的表象(mental experience),そして意識(consciousness)の存在を示唆することになります.アントニオ・ダマシオ博士は昆虫を含めた無脊椎動物が情動をもつだけでなく,情動を感じる「感情」をもつのではないかと述べています(Damasio, 2003).もし昆虫が感情をもつことがわかったら虫への接し方は変わってくるのでしょうか?
C.J. Perry, L. Baciadonna, L. Chittka Unexpected rewards induce dopamine-dependent positive emotion-like state changes in bumblebees Science, 353 (2016), pp. 1529-1531
Bateson, M., Desire, S., Gartside, S. E., & Wright, G. A. (2011). Agitated honeybees exhibit pessimistic cognitive biases. Current biology, 21(12), 1070-1073.
Damasio, A. (2003). Feelings of emotion and the self. Annals of the New York Academy of Sciences, 1001(1), 253-261.
参考:https://www.scientificamerican.com/article/i-ll-bee-there-for-you-do-insects-feel-emotions/
小型ロブスターといった感じの淡水産甲殻類、ザリガニに関する新しい研究により、この甲殻類は未発達な形の不安、つまり、より発達した人間の感情と進化上の起源が一部共通すると推測される不安を感じることが判明した。その上、甲殻類は、人間の不安感に対する治療に使用されるクロルジアゼポキシド(CDZ)という薬によって精神的安定を取り戻せるという。Pascal Fossat らは、複数のザリガニに弱い電気ショックを繰り返し与えてストレスを感じさせ、それらのザリガニの行動がストレスを感じていない他のザリガニの行動と比較してどうかを調べている(Fossat et al., 2014)。ザリガニは通常、暗い水の中を好むことから、Fossat らはプラス型(+型)の水槽を考案した。中央から伸びるアーム(筒状の部屋)のうち、2 本は明るく、残り2 本は暗くしておき、ザリガニをこの新しい環境に入れて観察したところ、ストレスを感じていないザリガニは水槽の暗いアームで過ごす時間は長いものの、明るいアームの方も探索していた。しかし、ストレスを感じているザリガニのプラス型水槽での行動はかなり異なり、見事に水槽の明るいアームには入らなかった。Fossat らは、ストレスを感じているザリガニの光を避ける行動は脳内のセロトニンレベルの上昇に起因することを確認し、この神経伝達物質を脳に注入するだけでどんなザリガニにも不安を抱かせることが可能だと発見した。ところがストレスを感じているザリガニに CDZ を投与すると、ザリガニは水槽の明るいアームの探索を始め、それほど神経質な行動はなくなった。Fossat らはこれらの研究結果を踏まえ、罪悪感や感謝といった複雑な感情は結局、哺乳類や複雑な認識機能を持つその他の脊椎動物特有のものではないかもしれないと述べている。
Fossat, P., Bacqué-Cazenave, J., De Deurwaerdère, P., Delbecque, J. P., & Cattaert, D. (2014). Anxiety-like behavior in crayfish is controlled by serotonin. Science, 344(6189), 1293-1297.
けがや炎症の信号は,侵害受容器の興奮の信号が中枢で伝えられることで処理が行われます.こうした痛覚を処理する仕組みは虫も含め,多くの動物に備わっています(Sneddon 2004).この痛覚の処理に伴る「痛み」(pain)は,多くの脊椎動物で存在することを支持する知見が蓄積されつつあります.しかし実際にわれわれが感じるような痛みを虫をはじめとした,「背骨」をもたない無脊椎動物が感じているかどうかについては,現在も議論が続いています.脊椎動物と無脊椎動物で痛覚にかかわる分子・生理機構の類似性も,虫が痛みを感じる可能性を検証するモチベーションとなっています.
動物の感じる痛みを直接測ることはできないので,痛みは,行動学・生理学的な手法による間接的な指標によって評価されます.研究者によく用いられる手法の一つに,鎮痛剤や局所麻酔に用いられる薬であるオピオイドへの反応性,というものがあります.哺乳類では,動物が本来持っているオピオイドの増加や,オピオイド系化合物であるモルヒネの注射は,痛みの行動指標の評価値を小さくします(痛みが減る).この現象は,昆虫にもみとめられ,痛覚刺激に対する防衛行動はモルヒネの注入によって減少し,オピオイド拮抗薬であるナロキソンを注入することでこの効果が表れなくなります.また,ミツバチは電気ショックに対して,お腹の針を突き出す,という防衛行動を示しますが,モルヒネの注入によってこの行動が弱まります.
スリニバッサン博士らは,さらに異なる行動指標で虫の痛みを検証しています.TBA
手の届かない場所にある餌を、糸を手繰り寄せて取る行動は「糸引き」(string-pulling)とよばれ、動物の認知能力の指標として、という実験課題がよく用いられています。
この行動の記載は、動物心理学の歴史よりも古く、古代ローマの文献にも、鳥が水中から小さなバケツをとりあげるという観察の記録が残っています。
Jacobs, I. F., & Osvath, M. (2015). The string-pulling paradigm in comparative psychology. Journal of Comparative Psychology, 129(2), 89.
例えば,ハチはきわめて素早く色を覚えることができますが,これはミツバチが高い知能をもつためではなく,色という情報がハチにとってとても重要な役割をもつことに由来します(花から餌).ミツバチやマルハナバチは,ほかのハチが進化の過程で経験してこなかった課題を解く際に,驚くべき能力をみせることがあります.例えば,ミツバチは4つまで,数を数えることができます.これは脊椎動物では,昆虫よりははるかに大きな脳をもつ,魚類の能力に相当します.動物の能力は,動物が生きる環境において,遭遇する状況に対応できるように進化していきます.動物の知能をはかるための指標として,行動の柔軟性(Flexibility)を調べることがありますが,生得的なものであるという可能性をなるべく除くため,動物がふだん遭遇しないような状況を用いるべきとする考えがあります.
こうした考え方の元に,イギリス・ロンドン大学クイーンズメアリーのラース・チッタ博士は,虫の「知識の伝承」について興味深い報告をしています.チッタ博士らは,マルハナバチにユニークな課題を取り組ませました.図のように,花をイメージした青色の物体に,砂糖水をいれておき,上に透明の板をかぶせます。この際、ひもを外側に伸ばしておき、ひもを引っ張ると餌にありつける,という状況を作り出します。マルハナバチが自然で生きていく中で,自然には遭遇することがない,人工的な環境を用意しています.多くのハチは,手順を見せるか,仲間のハチの成功例を「観察」することで,タスクをこなすことができるようになります.また稀にですが,試行錯誤したのち,自身で餌を獲得する個体もいます.面白いことに,一度手順をマスターした個体が巣にいると,その知識は,他の働きバチに素早く拡散するそうです.
Alem, S., Perry, C. J., Zhu, X., Loukola, O. J., Ingraham, T., Søvik, E., & Chittka, L. (2016). Associative mechanisms allow for social learning and cultural transmission of string pulling in an insect. PLoS Biology, 14(10), e1002564.
昆虫のような小さな脳をもつ動物の行動は,あまり柔軟ではなく学習能力も限られている,という伝統的な見方を覆えす報告が,同じくロンドン大学クイーンズメアリーのオリィ・ロウコラ博士のグループから発表されました.研究グループは,マルハナバチに等身大の黄色いボールを転がさせ,プラットフォームの中心にあるゴールに,5分以内に移動させると砂糖水をもらえるような課題を行いました.ここで,「3つのボールのうち,もっとも遠いボールを中央に移動させる」という行動を,同じプラットフォーム中の別のハチが実演するようにデザインしています.もしハチがうまくボールを動かせなかった場合,透明な棒をつけられたダミーのハチで課題を実演します.これを繰り返すと,ハチは課題をこなせるようになり,ボールを中心に移動させるまでの時間も徐々に短くなります.この課題には,青い物体と報酬の条件付けに加え,物体を転がす,という動作が要求されます.
他の個体の行動から,学習することを社会的学習(social learning)といいます.今回の学習課題における,社会的学習の効果をさらに詳しく検証するために以下の3つの条件を用意します.
(1) すでに学習した他の個体による実演(社会的提示,Social demonstration).
(2) ボールのみを移動させる行動(プラットフォームの下から磁石で操作)
(3) 実演なし,トレーニングとしてボールを中心に置いた状態で報酬を与えておく.
この中で,(1)他個体による実演を提示された個体は,最も成績が良く,また素早く課題を達成することができました.これは,マルハナバチが他の個体の行動を観察することによって学習を行っていることを示しています.
興味深い点は,報酬を獲得する戦略は,必ずしも実演した個体と同じとは限らない点です.例えば,実演では,もっとも遠い位置にあるボールを動かしますが,観察した個体はまず一番中心に近い位置のボールを動かすことがほとんどです.また,一番近い位置にあるボールの色を黄色から黒に変えた実験においても,ハチはやはり一番近くの黒のボールを転がすことがわかりました.この結果は解釈が難しいのですが,マルハナバチは,少なくとも他個体の行動を完全に模倣しているわけではなく,自分なりのアレンジを行っていることが期待されます.
「行動の柔軟性」は,長い間,大きな脳に支えられていると考えられてきました.しかし,最近の研究からは,こうした複雑な学習も比較的小さな神経系によっても実現しうる,ということがわかってきました.神経回路のわずかな変化によっても,行動に劇的な変化を起こしうることが知られています.こうした変化は,生得的な行動について,よく研究が行われていましたが,サッカーにみる運動学習の例についても,同様であると考えられています.生物の遺伝子を使いまわす(別の用途で用いられる)ことを,コ・オプション(co-option)と呼びますが,脳の進化研究においてもこの言葉が取りいれられており,同一の神経回路が別の行動に用いられる事例が知られています.新しい行動に用いられるコ・オプションとなりうる神経回路を保有している状態は,適応の前段階という意味で,前適応(preadaptation)と呼ばれます.ミツバチの場合は,認知能力や社会性,協同する営巣構造を担う神経回路の獲得が,自然にはない,人工的な課題を解く能力の前適応となっているのではないかといわれています.
なぜミツバチは,自然には起こり得ない状況に対しても対応することができるのでしょうか.そのしくみはまだわかりません.自然の変化は一般的に予測することは困難であることが多く,「知的」な動物は環境の不確実性に対応する能力が優れているといえます.
虫がみせる高度な能力については,これまでの数多くの報告があります.そうしたについては,昆虫が自然に行っている行動と関連することが明らかでした.今回の研究では,全く新しいことでも学習できる可能性を示すものです.
Loukola, O. J., Perry, C. J., Coscos, L., & Chittka, L. (2017). Bumblebees show cognitive flexibility by improving on an observed complex behavior. Science, 355(6327), 833-836.
虫がものを数える能力をもつのかどうか,最初に取り組んだのは,アメリカ・オーガスターナ・カレッジのレピック博士が,1953年にハチを使った報告であるとされています.博士は,ミツバチが訪れるときに,花のまわりについている‘やく’の数を覚えているを覚えているのではないかと考えました.花のやくを切り取った場合に,花への訪問が減ったことから,ハチには数える能力があるとしています.ただし,この実験だけでは,数ではなく,切り取られたやくの形や,やくを切り取られた花が何か匂いを発し,これを虫が検出している可能性などを否定することはできません.
虫が数をカウントする最初の証拠は,1995年にベルリン自由大学(当時)のラース・チッタ博士とカール・ギーガー博士によるミツバチの実験によって示されました.最初,ミツバチには,巣から260メートル離れた場所に餌場を用意します.この時,巣から餌場まで,一定の間隔で,目印のランドマークとなる,黄色いテントを置いておきます.餌場は,3つめと4つめのテントの間にあります.予備実験として,2つめと3つめのテントの間に餌をおいた場合でも,ミツバチは元の餌場(3つめと4つめの間)に飛んでいきます.ここで,テントの間隔を短くします.餌場の位置は変わりませんが,テントを移動した後,餌場は4つめと5つめのテントの間に位置しています.さらに,3つめと4つめのテントの間には新たに餌を置いておきます.ここで,ミツバチは元の餌場か,テントとの位置関係が同じ,新しい餌場のどちらを選ぶのでしょうか.実験ではおよそ75%のハチが元の餌場(4つめと5つめの間)へ,残りの25%のハチは新しい餌場に訪れました.この25%のハチは,餌場までの距離でなく,テントの数を参考にしていると考えられます.博士らは,ミツバチが原始的な形で、数をカウントしているのではないかと考えています.同様の現象は,後にレーダーを使った研究でも確認されています.ミツバチは,基本的に巣と餌場の距離をたよりに,飛行しますが,いくつかの個体は通過したランドマークの数に応じて,餌の探索をすることとが分かっています (Menzel et al., 2010 Naturwiss).
オーストラリア国立大学のマリー・ダッケ博士とマンダイラム・スリニバッサン博士は,数をカウントする能力について,さらに詳しく調べました.博士らは,ミツバチが巣から餌場に移動する行動を観察するための風洞を用意しました.ランドマークの位置に合わせて,餌を置きます.ランドマークの間隔は毎回異なるようにすることで,餌場までの距離は毎回変えています.この操作をすることで,ミチバチが通常用いる,距離によるナビゲーションが通用しない状況をつくり出し,カウントする能力をより細かく調べることができます.実際に,ランドマークの間隔を狭くしたり,ランダムに配置した場合でも,ミツバチは餌場で餌を探索する行動を示します.この風洞を使って,ランドマークの数を変えていったところ,ミツバチは,4つのランドマークまで数えることができるこが分かりました.実際には,餌場までに遭遇する木,林や建物をランドマークとして認識し,利用しているのではないかといわれています.
Menzel, R., Fuchs, J., Nadler, L., Weiss, B., Kumbischinski, N., Adebiyi, D., ... & Greggers, U. (2010). Dominance of the odometer over serial landmark learning in honeybee navigation. Naturwissenschaften, 97(8), 763-767.
The Ability of Insects to Distinguish Number E. E. Leppik The American Naturalist Vol. 87, No. 835 (Jul. - Aug., 1953), pp. 229-236
他の多くの言葉と同じように、だれもが納得する認知の定義はありません。2019年のCurrent Biology誌では、認知の定義や、どのような現象を認知的であると見なすのか、といった話題に関して、11人の生物学者がコメントを寄稿しています。そのなかで、オーストラリア・モナシュ大学のベイン・ティム博士は、認知に関係する現象として、思考、推論や感覚などをあげ、これらすべてに共通するキーワードとして、概念(concept)に注目しています。博士は、概念のもつ確かな性質として、外部の刺激に依存しないこと、をあげています。このことから、認知的であるかどうかは、その現象に概念の利用が伴っているか否か、で判断できるのではないかと提案しています。われわれは、りんごの赤い色や甘い香りがなくとも、りんごを概念として認識することができます。いいかえると、動物は、外部の環境かの情報が無くても、概念をイメージすることができます。
動物が概念をもつかどうか、調べることはできるのでしょうか。TBA