動物の神経機能と神経系の形態学的特徴,特に神経系のサイズがどのように関係しているかを述べ,機能と進化を推察するための形質として利用することが妥当であることを主張する.またチョウ目昆虫の嗅覚中枢に注目し,フェロモン選好性などの生態学的要因が神経系を変化させるプロセスを,神経細胞のレベルで具体的に検討する.
脳は環境への高度な適応を可能にすると同時に,最もエネルギーを消費する器官であると考えられている(Aiello and Wheeler, 1995; Attwell and Laughlin, 2001).高等とされる動物はしばしば大きな神経系をもつが,その維持に多くのエネルギーを消費している.神経系のサイズの意味するところについては議論が続いているが,高度な脳機能を反映すると考えられており(Deaner et al., 2007),神経系の機能や多様性を調査するための,簡便で有用な手掛かりである.
これまでにさまざまな動物種の適応と神経系の性質との対応関係が明らかにされてきた.多くの動物は精巧な器官を有し,脳ではしばしばこれに対応した脳領域の拡大が起こっている.ヒトの手は高度に発達した器官であるが,脳内の体性感覚野をマップした脳地図にみられるように,手に対応する情報を処理する領域が,身体の他の部分に比べて拡大している.ホシバナモグラCondylura cristataは,周囲の環境を把握するための,発達したピンク色の星形の触覚器官である星鼻を持っているが,この器官からの触覚情報を処理する大脳皮質領域が,同様に拡大している(Catania and Kaas, 1995).また,楽器の演奏に関わる技能の学習に伴って,聴覚皮質とともに,運動皮質のサイズも拡大する(Hyde et al., 2009).これらの例は,特殊化した感覚機能・運動機能の発達が,脳領域の拡大と関係することを示唆する.
有蹄動物・肉食哺乳類・霊長類などで見られるように,感覚機能に限らず,社会性や認知能力などの高次機能の発達によっても,神経系のサイズが増大すると考えられている(Dunbar and Shultz, 2007).スズメ目カラス科・シジュウカラ科の鳥類などでは,秋に種子を集め,複数に分けて貯蔵して冬を越し,子育てにもこれを用いる.このために数千個以上もの隠し場所を記憶する.海馬は学習・記憶に重要な役割を持つ領域であるが,こうした鳥類では,貯食を経験した個体で,海馬の容積が相対的に大きくなることが報告されている(Clayton and Krebs, 1994).また,ロンドンのタクシー運転手の後部海馬の容積は相対的に拡大していることが報告されている(Woollett and Maguire, 2011).ライセンスを取得するためには,通常3,4年かけて歴史あるロンドンの複雑な街並み(2万5千以上のストリート)を覚えなければならず,こうした空間記憶の獲得が,海馬の容積増大と関連すると考えられている.
昆虫は地球上で最も繁栄している種群であり,環境に応じた適応の形式を比較検証するには最適な研究対象であると思われる.昆虫と哺乳類は,同じ環境中で生活しており,その適応形式には比較できる部分が多い.昆虫の脳も脊椎動物のように,機能的にある程度独立した領域で構成されており(図1),例えば,嗅覚系・視覚系など感覚系は,構造的・機能的に類似しており,また,いくつかの脳領域は分子発生学的に対応している(キノコ体と皮質(Tomer et al., 2010),中心複合体と大脳基底核(Strausfeld and Hirth, 2013)).
図1.神経系の構造.A.カイコガの中枢神経系の配置.B.脳構造.C.神経叢の例.
キノコ体は,その普遍性・顕著な構造から,早くから脳の高次機能を司るのではないかと考えられてきた.哺乳類の海馬との類似性も多く,神経系のサイズと脳機能を探る上でよいモデルとなっている.キノコ体の拡大は,ゴキブリ亜目,コウチュウ目,チョウ目,ハチ目などいくつかの系統で観察され,進化の過程で独立して起こったと考えられている.原始的な種群であるイシノミ目昆虫は,嗅覚中枢である触角葉をもつが,キノコ体の構造が消失している(Strausfeld et al., 2009).
ウエストバージニア大学のサラ・ファリス博士らは,コウチュウ目コガネムシ科のキノコ体を観察し, 2つの形質を記述している(Farris and Roberts, 2005).1つは,ビロウドコガネOnthophagus hecateなど,生涯を通じて同じ種類の食物を採餌する単食性コウチュウのキノコ体に見られる比較的シンプルな形状であり,もう1つは,エンマコガネMaladera castaneaなど,状況に応じて食物を変えるコウチュウのキノコ体にみられる脳溝を持つ形状である(脳に「しわ」がある).実際にはこの変化は,細胞数の増大に伴うキノコ体容積の増大を反映している(Strausfeld, 2002; Strausfeld et al., 2000).環境に応じて食物を変えるグループでは,採餌に関連した学習・記憶能力が要求され,これがキノコ体の拡大を引き起こすと考えらえている.
機能の特殊化が脳の大きさと関係することを述べた.これ以外の神経系のサイズに影響を与える要因について整理する.
高速化.多くの脊椎動物では,髄鞘化による跳躍伝導によって高速化を実現している.多くの無脊椎動物では,軸索の径を大きくする方法を採っている.軸索径の拡大は,高速かつロバストな信号伝達に寄与すると考えられる一方で,エネルギー消費のコストが大きくなるデメリットがある.多くの動物は逃避行動のための,脳と身体を接続する専用の拡大した軸索径を有する下行性ニューロン群を持つ.アメリカザリガニの巨大ニューロンや,魚類のマウスナー細胞,ハエ目昆虫の巨大介在ニューロンなどがあり,いずれも一発の活動電位で逃避行動を解発することができる.軸索の巨大化のパターンは,近縁種の間でも多様であり(Bullock and Horridge, 1965) ,進化の過程で複数回独立して起こったと考えられている.
集積化.多くの哺乳類のニューロンでは,樹状突起の一部が肥大し,棘状の構造を形成しており,樹状突起スパインと呼ばれる.電気魚のエレファントノーズフィッシュやマウスの小脳プルキンエ細胞の樹状突起を分析した研究では,スパインは樹状突起に沿ってらせん状に配置されていることが報告されている(O’Brien and Unwin, 2006).遺伝子にも見られるらせん状の配置は,空間上に物体を最も高密度に配置する最密充填構造であり,神経系が採用した適応的な戦略であるという見方もある(Yuste, 2010).異なる動物種の大脳皮質のさまざま領野を比較すると,そのシナプス密度はとてもよく似ており(Schüz and Demianenko, 1995),神経配線のパターンが,多くの系統群においてある程度最適化されているのではないかと思われる.
この方式は昆虫においても一部認められるかもしれない.ハチは未知の環境を探索する際に,旋回行動を繰り返すような軌跡をともなった飛翔を行う.この飛翔経験後にキノコ体のニューロンのスパインの形態が変化することから,学習能力との関連が示唆されている(Brandon and Coss, 1982).カイコガのフェロモンを処理するニューロンにおいてもスパイン構造が観察される(図2)(Namiki and Kanzaki, 2011).哺乳類において想定されているように,ニューロンが大量のシナプス入力を受け取る際に,スパイン構造が観察されるようである.
図2.嗅覚系ニューロンの樹状突起スパイン.A. カイコガ触角葉大糸球体における投射ニューロンの形態.白はニューロン,灰色透明色は触角葉,緑透明色は大糸球体のトロイドの概形を示す.B. A中破線部領域の三次元再構築像.文献(Namiki and Kanzaki, 2011)を改変.
ケンブリッジ大学のマルコム・バロウズ博士らのサバクトビバッタSchistocerca gregariaの胸部神経節の神経細胞を対象とした研究によって,無脊椎動物では活動電位を発生しないノンスパイキングニューロンを比較的多く有し,これらの細胞が局所的な計算を行う機構が提案されている.脊椎動物の多くのニューロンでは,ひとたび活動電位が発生すれば,基本的には全てのシナプス部に等しく信号が伝達されるが,ノンスパイキングニューロンでは,入力量に応じて信号が伝わる範囲が変わり,局所的な処理を行うユニットの集合体であり,ノンスパイキングニューロン一つで,複数のスパイキングニューロンと同様の処理を行っているとする見方もある.
小型化.昆虫などの動物がどのように小型化しながらも,その機能を維持・あるいは洗練させたか,という点について記述する.多くの動物種を比較すると,小型の動物ほど身体に対して,脳が相対的に大きくなることが知られており(Rencsh, 1956),小型化のための何らかの設計指針の存在をうかがわせる.但し小型化にも限度があり,例えば生物物理学的には,イオンチャネルなど,一分子レベルのノイズが影響するスケール(~0.1 µm)以下の神経突起は機能しないと考えられている(Faisal et al., 2005).
昆虫ではほとんどのニューロンの細胞体がシナプス形成の場である神経叢(Neuropil)と分離して,その周りを囲むように配置されているのに対し(分離型),脊椎動物では,ほとんどの場合神経叢の中に細胞体が分散して配置されている(埋込型).ジャネリアファーム研究所のディミトリ・コクロブスキ博士は,神経回路の配線が,信号の伝達効率を最大化するように構成されているとする仮説を提案している(Chklovskii et al., 2002).細胞体が神経突起の容積より大きい場合には,細胞体を外側に配置したほうが,配線距離を節約できる.逆に神経突起が細胞体より大きい場合,埋込型の方がコストが小さくなる.種に依存して決まるのではなく,それぞれの神経回路における細胞体と神経突起の太さの関係によって,レイアウトが決まるとするルールでこれまでのほとんどのデータが説明できる(Rivera-Alba et al., 2014).例えば,脊椎動物の神経回路でも皮質領域は埋め込み型であるのに対し,細胞体と神経突起の相対的な大きさが昆虫の神経系に近い,海馬の歯状回では,昆虫と同様に分離型の配置となっている.
コウチュウ目・ネジレバネ目の小型昆虫や一部のクモでは,神経系が頭部以外の体節に,ある種のクモでは,脚節まで拡大している例がある(はみだしている)(Beutel et al., 2005; Quesada et al., 2011).クモでは,営巣能力に複雑な機能が要求されることが神経系を拡大している要因ではないかという仮説がある.
モスクワ大学のアレクセイ・ポリロブ博士は,おそらく最小の飛行昆虫と考えられている小型の寄生バチMegaphragma mymaripenneの神経系を観察し,成虫の脳ではほとんどの細胞に明瞭な核構造が存在しないことを報告している(350個程度が核有り,7000個程度で脱核) (Polilov, 2012).脳全体の大きさは0.16-0.33 mmで,ヒトのある種の運動ニューロンよりも多少大きい程度であるが,飛行・採餌など,少なくとも外見上は,他の昆虫と同じように行動する.これは自然界における究極の省エネであるといえるかもしれない.
現生動物の神経系は,シナプス密度や伝達速度の観点からある程度最適化されており,神経系に割くリソースのサイズが種間の差となって観察されることが多いようである.しかし続いて紹介するように,サイズから推し量ることが難しくなる場合もある.
脳のエネルギー効率が異なるケース.サメやエイなどの軟骨魚類は,通常の魚に比べて脳が大きいことが知られている.ノルウェー・オスロ大学のゴラン・ニルソン博士は,14種の魚類のニューロンの電気的活動に必要なエネルギー消費を分析し,軟骨魚類では,単位体積あたりの脳のNa+/K+-ATPaseの活性が低いこと(1/3程度)を報告している(Nilsson et al., 2000).神経細胞の密度に顕著な差異は無く,何らかの未知の経済的な神経機構を用いている可能性もある.いずれにせよこのような場合,神経系のサイズのみに基づいた議論は難しくなる.
神経系サイズはさまざまな因子の影響を受ける.脳のエネルギー消費量は必ずしも容積と相関するわけでない.これは特に系統関係の離れた種間の比較において問題となることが多い.近縁種間で多系統の比較ができる昆虫などの種群では,神経系のサイズを形質としてみることが有用であると考えられる.チョウ目昆虫のフェロモン情報の処理系は好例であると思われる.
脊椎動物では,匂いは鼻腔粘膜の嗅上皮で受容され,嗅球という部位へ情報が伝達される.嗅球は糸球体(glomerulus)とよばれる構造の集合体である.それぞれの糸球体へは同一タイプの嗅覚受容体から入力が収束し,情報処理の場となっている.嗅覚系の基本的な回路構造は,種間で広く共通性が見られ,収斂進化の結果であると考えられている(Ache and Young, 2005).昆虫でも40-400個程度の糸球体から構成される嗅覚中枢(触角葉, antennal lobe)が存在する.
チョウ目昆虫では糸球体の周囲をグリア細胞が囲んでおり,糸球体の境界を比較的容易に判別できる.同一の嗅覚受容体を発現する嗅受容細胞は一般的には特定の糸球体に収束する.このため,糸球体は構造的な単位であるのみならず,機能的な単位として捉えることができる.糸球体の内部では,嗅受容細胞から他の細胞へのシナプス伝達が行われる.局所介在ニューロンは,通常多数の糸球体に分枝し,触角葉における匂い情報の変換に重要な役割を果たす.処理された情報は,投射ニューロンによって上位中枢へ伝達される.
バッタなど,いくつかの昆虫では、糸球体が1,000-3,000個存在するが、多くの昆虫においては,糸球体の数はおおむね種が持つ嗅覚受容体の数と相関する.厳密な比較は難しいが,近縁種間では,糸球体の数には生態学的な要因(適応度を高める嗅覚機能)が関係するといえそうである.複雑な匂いの識別を行うためには,多くの糸球体ないしは嗅覚受容体を持っていた方が有利であると考えられる.
種に固有の匂い物質で構成される性フェロモンは,多くの種における個体間コミュニケーションに重要な役割を持つ.フェロモンを含む情報化学物質は,これまでに7,000以上の種で約3,500種類以上が同定されている(El-Sayed, 2011).特にガ類では,これまでに1,500種のガ類昆虫でフェロモンとして用いられる化合物が同定されている.また,およそ8,000件のフェロモンに関連する研究論文のうち38%がチョウ目を対象とした研究である(Symonds and Elgar, 2008).ガ類はフェロモンとして主に,炭素数が10-23で,1箇所以上の二重結合をもつ脂肪族アセテート,アルコール,アルデヒドを用いており(Ando et al., 2004),これらは植物由来の匂い物質と比較して分子量が大きく揮発性が低いなど,異なる物理化学的特徴を持つ(図3).約100,000種類の化合物がフェロモンとして使われうるという予測もある(Byers, 2006).
図3.一般的な匂い物質とフェロモンの物理化学的性質の比較 .匂い分子の物性の指標として,計算化学で用いられる分子記述子を求めた.分子量・電気陰性度・極性などの分子記述子(計2,827個)を計算し,主成分分析を行った.黒丸,白丸はそれぞれ一般的な匂い物質(n = 108, 文献(Hallem and Carlson, 2006)より),昆虫のフェロモンとして用いられている物質(n = 26, pherobaseを参照(El-Sayed, 2011))を示す.
フェロモンを処理する糸球体群を大糸球体,フェロモン以外の一般臭を処理する糸球体群を常糸球体と呼ぶ.大糸球体における各領域は,それぞれ異なるフェロモン成分を処理することが知られている(Hansson et al., 1992; Kanzaki et al., 2003; Vickers and Christensen, 2003; Vickers et al., 1998). 大糸球体内には,異なるフェロモン成分への選択性をもつ糸球体が存在する(常糸球体と比較して構造がしばしば複雑であるため,区画(Compartment)として呼ばれることもある). おおむね,大糸球体中の糸球体の数はフェロモンとして用いるフェロモンの成分数と相関するが,常に知られているフェロモンの数よりも糸球体の数の方が多い.ガ類オスの脳嗅覚中枢では,通常フェロモンの処理に関わる糸球体の体積は,常糸球体と比較して大きく,数は少ない.その相対的な単純さと,行動と直接対応が取れることから,神経系の機能を行動と対応付けて分析を行う神経行動学の重要なモデルとなってきた.性的二型はこれまでに4つの目で観察されている(Strausfeld and Reisenman, 2009).ハワイに生息するハエ目ショウジョウバエ科の体系的な比較によって,性的二型の発達が,進化の過程で何度も独立して起こっていることが示唆されている(Kondoh et al., 2003).
糸球体が無いケース.糸球体構造を形成している種とそうでない種を比較することでその機能が考察できる.例えば,カゲロウ目・カメムシ目セミ上科や,水棲の甲虫目の昆虫では,明瞭な糸球体構造が存在しない.カゲロウ目,カワゲラ目,トンボ目を含む旧翅下網の原始的で,嗅覚があまり使われていないとされている種群においては,明瞭な糸球体が存在しないことから(Strausfeld et al., 1998),糸球体構造の形成と嗅覚機能に関連があると思われる(注.明瞭な構造が無いだけで,よく誤解されるように,嗅覚中枢が無いとは限らない).キイロショウジョウバエDrosophila melanogasterのヒトパーキンソン病の原因候補遺伝子のホモログを欠損した変異体では嗅覚応答性が低下するが,この際,触角葉の糸球体構造も消失している(Poddighe et al., 2013).
フェロモンを処理する大糸球体が形成されたプロセスを理解するために,さまざまなチョウ目昆虫の嗅覚中枢を比較するプロジェクトを進めている.これまでに日本産のチョウ目昆虫約40種類の嗅覚中枢の分析をおこなった(https://invbrain.neuroinf.jp/modules/newdb13/).ヤママユガ科・スズメガ科・カイコガ科などのカイコガ上科において,ヤガ科・ツトガ科・ヒトリガ科・シャクガ科・アゲハモドキガ科と比較して嗅覚系全体に対する大糸球体の占める容積が大きいことが分かった(図4).脳全体のサイズが似ている種同士での比較でもこの傾向が観察された.またタテハチョウ科などのチョウではいずれも顕著に拡大した糸球体は観察されなかった.ヤガ科などでは,サテライト糸球体が球形に近く,サイズも常糸球体とそれほど変わらないため,区別が難しい.例えば,ハマキガ科のLobesia botranaオスの触角葉では,拡大した顕著な大糸球体が観察でき,フェロモン主成分に対応すると考えられていたが,現在では,新たな成分を加えた3フェロモン成分の混合物に対し,よりよく応答することから,常糸球体と区別のついていない糸球体がフェロモンを処理するのではないかと考えられている(Masante-Roca et al., 2005).こうしたケースでは,メスの触角葉との比較や,糸球体の機能的な解析を並行して行う必要がある.
顕著な大糸球体の拡大は,カイコガ上科でよく観察されるが,(1) カイコガ上科において観察される形質で,進化的な系統関係を反映している,(2) 触角が発達すると,大糸球体が拡大する,という2つの可能性が考えられる.ドクガ科・イラガ科など,発達した触角を持つカイコガ上科以外の昆虫を調べることで,これらを検証できるであろう.1節で述べた,脳領域の拡大は機能の特殊化に伴う神経系の発達を反映する,という動物界によく見られるルールに従うと,(2)の可能性を検討する価値があると思われる.この機構として,細胞数の増加,個々の細胞の容積の拡大(Acebes and Ferrús, 2001)の2通りが考えられるが,本稿では特に細胞数について扱う.
図4.チョウ目昆虫の大糸球体容積の比較.(A)3種の昆虫の触角(上段)および触角葉の比較(下段).大糸球体に相当する性的二型を示す糸球体をカラーで示す.(B)3科17種ガ類の大糸球体容積の比較.全ての糸球体の容積に占める大糸球体の割合を求めた.(ANOVA with Scheffe’s F test; 有意水準: *p < 0.05; **p < 0.005; ***p < 0.5 × 10-4).
大きな触角は,その形成のコスト(Emlen, 2001)に見合う,何らかの適応的な役割を持つのではないかと考えられる.例えば,大きな触角はより多くの嗅受容細胞を配置する上で有利であると思われる.発達した触角を持つ種においては,触角が長いほど環境中での個体数が少ないことが報告されている(Symonds et al., 2012).個体数が少ないほど,同種由来のフェロモンに遭遇する確率は小さくなり,より高感度の検出機構が要求され,このような適応に至ったのかもしれない.
触角の大きさと嗅受容細胞の数の関係について述べる.昆虫が,餌など特定のリソースに大きく依存している場合,より多くの感覚受容細胞を持つことが多い.完全変態昆虫では,多くのケースで触角の長さと嗅覚感覚子の数に相関がある(Chapman, 1982).したがって大きな触角はより多くの嗅受容細胞を持つことと関連すると考えられる.雌雄の差異は好例である.ガのオスはメスよりも大きな触角を持つが,感覚子の数も多い.カイコガ科やヤママユガ科などの顕著に発達した触角をもつ種では,他の種で得られた回帰直線による予測値よりも多くの嗅受容細胞を持ち(Chapman, 1982),分枝をもつ触角は,同じ長さで分枝が無い触角よりも多くの嗅受容細胞を含むと考えられる.祖先的とされる種や,チョウなど昼行性の種では側枝があまり発達していない.
次に嗅受容細胞の数と糸球体の拡大の関係について述べる.糸球体のサイズは入力する嗅受容細胞の数と相関すると考えられている(Anton and Homberg, 1999).ヒメミツバチApis floreaは,セイヨウミツバチApis melliferaと同様に,9-oxo-2-decenoic acid (9-ODA)を女王物質として用いている.ヒメミツバチでは,9-ODAを含め性フェロモンを受容する感覚子の数はセイヨウミツバチの約1/16,9-ODA を処理する糸球体MG2 (Wanner et al., 2007) の容積は約1/18になっており,感覚子の数と糸球体容積の間に対応が認められる(Brockmann and Brückner, 2001).
以上より,嗅受容細胞数の増加に伴い触角および大糸球体の拡大が起こるというプロセスが想定される.大糸球体の拡大は,具体的にどのような利点があるのだろうか.また,どのような細胞レベルの変化を反映しているのだろうか.大糸球体が拡大するプロセスとして、ここでは(1)検出感度の増大,(2)空間情報の処理,(3)フェロモンブレンドの識別能の獲得,の3つの可能性を以下に述べる.
検出感度の増大.多くの嗅受容細胞が少数の投射ニューロンに収束することで,信号の増幅が起こると考えられている(Boeckh and Boeckh, 1979; Mustaparta, 1990).実際に嗅受容細胞よりも投射ニューロン群において匂いの識別能力が高い(Bhandawat et al., 2007).
空間情報の処理.大糸球体へ投射する嗅受容細胞の数は,常糸球体と比較して多い.フェロモンを処理する糸球体への嗅受容細胞の軸索投射は,常糸球体に比べてより限局している(図4)(Christensen et al., 1995).常糸球体ではほとんどの嗅受容細胞が糸球体内部の半分ほどの領域に分布するのに対し,大糸球体では,糸球体全域に占める嗅受容細胞の投射の割合は小さい.そのため,触角上の位置情報をより精確に伝達している可能性がある.
図5.カイコガ嗅受容細胞の神経形態.(A)大糸球体キュムラスへ投射する嗅覚受容細胞.(B)トロイドへ投射する嗅受容細胞.(C)常糸球体へ投射する嗅受容細胞.
続いて大糸球体の出力を担う触角葉投射ニューロンの数が増えることによって、全体の容積が増大する可能性を検討する.カイコガでは,触角葉投射ニューロンの形態学的な多様性が最も詳細に調査されている.常糸球体では,単一糸球体当たりの投射ニューロンの数は約3.5個であると推定されるが(Namiki and Kanzaki, 2011),カイコガの性フェロモンのボンビコールを処理するトロイドについては,約40個程度の投射ニューロンが存在する(Seki et al., 2005).通常糸球体内における投射ニューロンの樹状突起は全域にわたり,比較的一様な密度で分布する(図6).しかしトロイドの投射ニューロンでは,樹状突起は糸球体内で限局して分布し ,さらに分布する位置に偏りが見られる(図5).こうした特徴は他の昆虫でも共通している(Hösl, 1990; Kanzaki et al., 1989).カイコガで見られるニューロン間の入力領域の差異は,フェロモン情報の入力(嗅受容細胞の軸索投射)と対応しているようである.触角の内節と外節に対応する神経線維からの順行性染色を行った実験から,内節の嗅受容細胞は大糸球体全体へ,外側の嗅受容細胞は外側のみに投射することが報告されている(Ai and Kanzaki, 2004).機能的な役割については未知であるが,この観察は,触角上の空間的な差異を維持した情報が触角葉内でも処理されることを示唆する.
図6.カイコガ触角葉投射ニューロンの形態.Namiki and Kanzaki, 2011を改変.
形態学的な多様な投射ニューロン群は,機能的にも多様な集団である可能性が高い.機能の特殊化が脳容積の増大の主たる要因のひとつであると述べたが,ここでもその仮定に基づくと,空間情報の異なる局面を処理できる多様なニューロンが備わり,結果としてニューロン数が増大したと考えられないだろうか.
ワモンゴキブリPeriplaneta americanaでは,投射ニューロンにおける樹状突起の「構造機能相関」が報告されている(Hösl, 1990).ゴキブリでも同様にフェロモンを処理する糸球体は拡大しており,性的二型を示す.広域の樹状突起を持つ投射ニューロンは,触角上で匂いが当たる位置に依らず,広く応答性を示すが,局所的な樹状突起を持つグループでは,触角上の特定の位置への匂い刺激に対してのみ応答性を示す.このタイプの投射ニューロンの樹状突起は特に糸球体の外側に局在する.局所的な分布を持つタイプでは,樹状突起分布の位置と,嗅受容細胞の触角上の位置が対応する機能的な構造を持つ可能性がある.
タバコスズメガManduca sextaでも触角の位置依存的な応答が報告されているが,樹状突起形態との関連は明らかでない(Heinbockel and Hildebrand, 1998).触角の背側,腹側に位置する感覚子からの嗅受容細胞はそれぞれ大糸球体の内側・外側に投射する(Christensen et al., 1995).広い受容野をもつ投射ニューロンは,刺激への時間追従性も高い(Heinbockel and Hildebrand, 1998).
ショウジョウバエにおいて性的二型を示し,フェロモンcis-vaccenyl acetateを処理する糸球体DA1は,チョウ目昆虫の大糸球体に相当し,同様に他の糸球体よりサイズが大きく,より多くの投射ニューロンを有する(Datta et al., 2008; Marin et al., 2002).チョウ目昆虫と異なり,ショウジョウバエの嗅受容細胞は両側の触角葉へ軸索投射を持ち,左右触角への嗅覚入力は,触角葉の段階で統合される.特に DA1では,左右の入力の時間差を識別する機能が高いことが分かっている(Agarwal and Isacoff, 2011).投射ニューロンの糸球体内における分布は,一様ではなく (Marin et al., 2002),こうしたニューロンの多様性が,DA1における空間情報処理に寄与している可能性がある.
ブレンド識別能.フェロモンブレンド識別機能の特殊化によって,投射ニューロンの数が増え,糸球体が拡大する可能性について述べる.多くのガは,複数のフェロモン成分を持ち,両者を同時に受容することで初めて配偶行動が解発される.ここでは,フェロモンのブレンドの識別能に対して特殊化することで,糸球体が拡大する可能性を検討する.フェロモン成分は大糸球体中の特定の糸球体で処理され,上位中枢である前大脳側部に伝達され,行動の解発に至る.投射ニューロンの多くは,単一の糸球体に樹状突起分枝をもち,情報を前大脳側部に伝達する単一糸球体型であるが,少数の複数の糸球体に樹状突起分枝をもち,それらの情報を統合して伝達する多糸球体型が存在する.単一糸球体型投射ニューロンは,無変態・不完全変態昆虫に多くみられ,原始形質であると考えられる.進化のプロセスにおいて,複数情報の統合を行う多糸球体型の投射ニューロンを獲得することで,複合臭をフェロモンとして利用することが促進されたと考えられる(図6).
図7.多糸球体型投射ニューロン.(A) 嗅覚系一次中枢の触角葉と,高次中枢である前大脳を示す。単一糸球体型の投射ニューロンのみの場合では(左),フェロモン成分a,bは個々の糸球体で独立して処理され,より上位の中枢のニューロンによって情報が統合されうる。多糸球体投射ニューロンを持つ場合には(右),樹状突起上における空間加算によって,触角葉の段階で,フェロモン成分の情報の統合が可能となる.(B) 多糸球体型投射ニューロンの形態.Namiki et al., 2008を改変.
これまで調査された多くのガ類の大糸球体において,複数の糸球体に分枝をもつ多糸球体型投射ニューロンが観察されている.カイコガでは,多糸球体型投射ニューロンは,常糸球体よりも(17%),大糸球体において比率が高く(51%) (Namiki and Kanzaki, 2011),フェロモン情報処理との関連が示唆される.フェロモンの各成分いずれの単体に対して,すべて応答を示すタイプ(OR型),複数成分が同時に受容されて初めて応答を示すタイプ(AND型)など,さまざまなケースが報告されている.実験的な証拠はこれまでにないが,複数成分が配偶行動に必要な種においてAND型,単一成分で行動が解発される種においてOR型の割合が高いことから,フェロモンブレンドの識別に寄与する可能性が考察されている(Christensen, 1996).
カイコガでは,単一糸球体型の投射ニューロンが糸球体の中心部にのみ分枝するのに対し,多糸球体型は糸球体の表層部にも分枝をもつため,表層部に入力する嗅受容細胞とシナプスを持つ可能性がある.この形態学的特徴は,他のガ類の多糸球体型投射ニューロンとも共通しているようにみえる. また,多糸球体型投射ニューロンは,単一糸球体型とは異なる神経路を通り,高次中枢である前大脳のより広範な領域に投射する(Namiki & Kanzaki, 2011).
またフェロモン成分同士の相互作用を実現しうる仕組みの一つとして,局所介在ニューロンによる相互抑制機構があげられる.タバコスズメガでは,2成分の受容が配偶行動の解発に必須であるが,これらのブレンドを受容した際,トロイド・キュムラスの単一糸球体型投射ニューロンが同期して発火する(Lei et al., 2002).同種メスから発せられる2:1のブレンド比の際に,最も同期が効率よく起こる(Martin et al., 2013).投射ニューロン同士の同期活動は,局所介在ニューロンが担うため,ブレンド比を精確に識別する種では,異なるフェロモン成分を処理する糸球体同士の相互作用を促進するために局所介在ニューロンの数が増え,より糸球体が拡大するのかもしれない.
図8.局所介在ニューロン.
遺伝子解析技術の進歩に伴って,分子系統学は進化を研究する上で欠かせないツールとなっている.しかし配列の差異は必ずしも進化速度を反映せず,また絶滅した動物に対しては遺伝情報が利用できない.アリゾナ大学のニコラス・ストラスフェルド博士らは,カンブリア紀の化石中の節足動物の脳構造を分析することで,神経解剖学的に系統関係を推察する試みを行っている(Ma et al., 2012).ミジンコなどの鰓脚類(Branchiopod)は,比較的シンプルな脳構造を有しており,この脳構造が複雑化することで現生昆虫の脳に変化したのではないかと考えられていた.中国雲南省の澄江動物群では,酸性の地質のおかげで化石の保存状態がよい.博士らは,ここで発掘され,ロンドン自然史博物館に保存されていた化石標本中の生物Fuxianhuia protensaの脳構造を分析した.この化石は脳構造を確認しうる最古の標本であるが,鰓脚類よりは現生昆虫に近い構造を持っていた.現生昆虫の祖先は鰓脚類型ではなく,カンブリア紀初期から現在と同様の脳構造を有していたことが推察される.神経系の細胞構築を形質として系統を推測する試みは神経系統学(Neurophylogeny)とよばれ,分子系統とは別の観点から示唆が得られることを期待されている(Harzsch, 2006).
ここでは,カイコガ科の近縁種5種における嗅覚中枢の比較の例を紹介する.カイコガ科の昆虫のうち,イチジクカサン・テンオビシロカサンは,ボンビコール・ボンビキールアセテートの2成分をフェロモンとして用いる(両者が受容されて初めて行動が解発される).一方,ウスバクワコはボンビキールアセテート,クワコ・カイコガはボンビコールの単独成分で配偶行動を発現する.脳を分析したところ,これら5種は大糸球体中にそれぞれ2つの顕著に拡大した糸球体を持つことが分かった(図7).カイコガ科などの昆虫では,その特徴的な形状からキュムラス(積雲)・トロイド(環状体を意味する数学用語)と呼ばれるので以下これに従う (Namiki et al., 2014).さらに腹側の糸球体は同じくその馬蹄型の形状からホースシューと呼ばれる.
カイコガの匂いの地図.トロイド,キュムラスへの嗅受容細胞はそれぞれボンビコール,ボンビカールに選択的な応答を示す.トロイド,キュムラスからの投射ニューロンはそれぞれ同様にボンビコール,ボンビカールに選択的な応答を示す.ホースシュー投射ニューロンは,ボンビカールへの応答性が一例報告されている(Kanzaki et al., 2003).判別がしばしば困難であるが,投射ニューロンの樹状突起分枝を分析すると,ホースシューとされる糸球体はカイコガに少なくとも2つあり,それぞれボンビコール,ボンビカールに応答性を示す.しかしその応答強度はトロイド・キュムラス投射ニューロンに比べて弱い.ホースシューは野生のクワコでも存在するので,おそらくより選択的に応答する未知の匂い物質の存在をうかがわせる.
近縁種の匂いの地図.ボンビカール-キュムラス,ボンビコール-トロイドという関係は,クワコでも観察される(並木と神崎,未発表).他のカイコガ科近縁種においてフェロモン成分-糸球体の関係は未知である.今回紹介した5種の全てでキュムラスがボンビカールへの応答性を示す,という仮説が最もシンプルであるが,ボンビカールは全ての種でキュムラスで処理される訳でもない.例えばタバコスズメガでは,フェロモンの主成分であるボンビカールはトロイド(背側から2番目の糸球体,同じ名前を使っているが少なくとも相対的な位置のみが共通している)で処理をされ,副成分はキュムラスで処理される.
図9.カイコガ科昆虫の嗅覚中枢の形態.(A)カイコガ科昆虫5種の三次元再構築像.文献(Hansson, 1996)に従い背側から腹側に向かってアルファベット順に命名した.カイコガ科やスズメガ科などでは,a糸球体・b糸球体はそれぞれキュムラス・トロイドに対応する.(B)キュムラスとトロイドの容積比の比較.テンオビシロカサン,イチジクカサンでこの値が有意に高かった(p < 10-15, ANOVA followed by Scheffe’s F test).Namiki et al., 2014を改変.
2成分をフェロモンとして用いるイチジクカサン・テンオビシロカサンでは,キュムラスが最大容積を有し,ガ類に一般的に見られる形質を持つといえる.反対に,単一成分が配偶行動の解発に十分であるウスバクワコ・クワコ・カイコガの3種では,キュムラスに対してトロイドのサイズが拡大していた.フェロモン処理系におけるこれら形態学的特徴が,進化のプロセスを反映しているのではないかと考え,ありえるシナリオを次に記述する.同じくカイコガ上科に分類されるスズメガ科の多くの昆虫ではボンビカールがフェロモンとして用いられている.ここでカイコガ科の共通の祖先を仮定する.ボンビカールを単独成分のフェロモンとして,単一の糸球体からなる大糸球体を有するとして,現在以下のプロセスが最もシンプルに変化を説明できると思われる.
(1) 原始的な糸球体.原始的な昆虫では,性的二型が見られないことから,大糸球体は常糸球体の一つが拡大したものであると考えられている(Hansson, 1996).おそらくフェロモンを利用し始めたころのチョウ目昆虫は,単一の拡大した糸球体(多くの種ではキュムラスと呼ばれる)を有する比較的シンプルな構造を持っていたのであろう.
(2) 2成分系.少なくとも現在では,単一の化合物をフェロモンとして用いている種は少ない.触角神経の入り口に位置し,最大容積を持つキュムラスに加えて,比較的小型の糸球体(サテライト糸球体)が位置する構造を持つ(Hansson, 1996).これまでに調査されたすべての昆虫において,最大容積を示す糸球体でフェロモンの主成分が処理されている.例えば,ニセアメリカタバコガHeliothis virescensとHeliothis subflexaは,主成分が同じで副成分が異なるフェロモンブレンドを用いているが,糸球体構造は同一で,最背側の糸球体で主成分が処理され,サテライト糸球体の処理する化合物が異なる(Vickers and Christensen, 2003).糸球体のサイズの変化と,フェロモン選好性が関連している例がある.ヤガ科で,同じ化合物の組み合わせで成分比が異なるフェロモン成分を持つ,タバコガHelicoverpa assultaおよびオオタバコガHelicoverpa armigeraを比較したところ,フェロモンを処理する神経構造の相対的な配置は同じであるものの,各構造のサイズが変化することが知られている(Zhao and Berg, 2010).テンオビシロカサン・イチジクサンの糸球体構造はこの多くのガ類に見られる形質と一致している.
(3) 祖先型と異なる化合物の単一成分系.(2)で想定される状態から,祖先型のフェロモンとは異なる方の成分単独で,フェロモン交信を行うようにフェロモン選好性が変化する場合を想定する.サテライト糸球体が拡大して,カイコガ・クワコ・ウスバクワコで観察されるように,トロイドがキュムラスよりも拡大する構造が説明できる可能性がある.
カイコガ科以外では,容積の完全な逆転は起こっていないものの,タバコスズメガなどでは,大糸球体内の糸球体のサイズは比較的類似していることもある(Huetteroth and Schachtner, 2005).
こうしたプロセスを検証するために,それぞれの昆虫における匂い応答性の地図を明らかにする必要がある.また,外群で一成分をフェロモンとして用いるガ類の分析からも有用な示唆が得られるであろう.
図10.大糸球体の変化のプロセス.大糸球体中の糸球体数は種によって異なるが,簡単のために2つの糸球体のみを示す.祖先種におけるフェロモンを処理する糸球体が一つ存在する原始的な糸球体を仮定する(1).(2)サテライト糸球体が加わり,最背側の糸球体が最大容積を有する糸球体構造.現生のガ類で最も顕著であると思われる.(3)腹側の糸球体の容積が,最背側の糸球体の容積を上回る糸球体構造.この構造を持つ種の報告は少ない.
神経系の形状からどこまで機能を推察することができるかということを,チョウ目昆虫を例として記述した.神経系の構造を形質として進化を推察するためには,チョウ目のように,多様な近縁種をもち,特定の感覚器官に生態学的特徴が大きく依存しているグループが適していると思われる.近年の遺伝子操作技術の発展のおかげでこれまでにない精度で神経回路の構造を調査できるようになってきている.計測の自動化や,解析手法の発展に伴って,神経構造を基盤とした神経系統学の方法論は飛躍的に発展すると予想される.
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