研究テーマ / Research topics
温暖期における熱帯有孔虫の生存戦略:現場観測とメソコスム実験によるアプローチ
Survival strategy of tropical foraminifers under warming periods: field observations and mesocosm experiments
地球温暖化(海洋の温暖化・酸性化)によるサンゴ礁生態系の劣化・消滅が危惧されています。これまでの飼育実験研究によると、将来の温暖化・酸性化環境はサンゴ礁に生息する単細胞生物有孔虫の代謝や成長に負の影響を及ぼすとされています。一方、地球生命史を紐解くと、現在よりも高い水温・二酸化炭素濃度下だった始新世の温暖期にはサンゴは温帯域へ移動しましたが、熱帯域では有孔虫が繁栄し、主な炭酸塩堆積物生産者でした。この飼育実験結果と地球生命史の事実との矛盾は、自然環境下において有孔虫には温暖期を生き延びる「したたかな生存戦略・適応力」があることを示唆します。私たちは「底質(海藻・サンゴ礫)との相互作用が有孔虫への温暖化・酸性化影響を緩和する」仮説に基づいて、現場微小スケール観測、温暖化・酸性化環境を模したメソコスム実験と底質表面上の有孔虫の代謝・成長測定によって、温暖期における熱帯有孔虫の生存戦略を明らかにしていきます。
第四紀におけるサンゴ礁島嶼環境変動
Quaternary environmental changes of coral-reef islands
関連研究:科研費基盤B 2021-2023年度研究課題(分担研究者、研究代表者:マーク・ハンブレ)
関連論文:Fujita et al. (2018) Island Arc, doi:10.1111/iar.12247
第四紀に琉球列島のサンゴ礁とその周辺浅海域で堆積した石灰質堆積物からなる琉球層群石灰岩(通称“琉球石灰岩”)は、第四紀の気候変動(海水準変動)と地殻変動に呼応して形成されました。その中でも比較的新しい時代に形成された港川層(港川石灰岩)は、通称“アワ石石灰岩”とも呼ばれる、主に粒径の揃った有孔虫石灰岩からできています。また港川層には、陸化したときに形成される古土壌層が挟まれており、当時の海進・海退の記録が残されています。私の研究室では、この有孔虫石灰岩がいつどのような場所に堆積したのかを研究することで、第四紀後期の海水準変動・琉球列島の地殻変動・当時の古地理分布を明らかにすることを目指しています。
礁性微生物岩:サンゴ礁の陰の立役者
Reefal microbialite: Key players in the dark side of coral reefs
関連論文:Fujita et al. (2020) Galaxea, Journal of Coral Reef Studies, v. 22, p. 9-25
礁性微生物岩 (Reefal microbialite) とは、底生微生物マットがサンゴ―石灰藻の死骸上や空隙内を被覆し、砕屑粒子を捕獲・固結させたり、炭酸塩沈殿を誘導することで形成された微生物性炭酸塩岩です。高マグネシウム方解石からなるペロイド(糞状凝集体)と砕屑粒子(生砕物や珪酸塩鉱物)の集合体から構成されています。サンゴ礁地下空間の最大80%を占めるとされ、サンゴ礁の枠組み構造を固めるセメントの役割があります。以前は海成無機セメントと考えられてきましたが,1990年代に微生物性炭酸塩岩として認識されてから研究が進展しました。これまでカリブ海、タヒチ、グレートバリアリーフ、ハワイ等世界各地の第四紀サンゴ礁堆積物中で発見され,私の研究室によって琉球列島でも確認されました。しかし,いまだに礁性微生物岩がいつ(形成時期),どこで(形成場の環境条件),どうやってできるのか(形成メカニズム)についてはっきりと分かっていません。私の研究室では、この第四紀礁性微生物岩の時空分布、形成要因、形成過程を詳細に明らかにすることを目標としています。
琉球弧のパレオファイブ:古気候・古環境・古黒潮・古地理・古生態系
Paleo-Five analyses of the Ryukyu Island Arc: Paleo-Climate, Paleo-Environnment, Paleo-Kuroshio, Paleo-Geography, and Paleo-Ecosystems
気候変動下におけるサンゴ礁海岸の過去・現在・未来
Past, Present and Future of coral-reef coasts under climate changes
沖縄をはじめとする世界各地のサンゴ礁域には、サンゴ礁を造る石灰化生物(サンゴ、石灰藻、有孔虫など)の殻や骨格の破片から形成される、美しい白い砂浜海岸が広がっています。しかし今、気候変動による海水面上昇や人為影響等によるサンゴ礁の劣化により、これらの海岸が消滅するのかしないのかが議論されています。この問題を考える上で、これらの海岸が過去にどのように形成されたのか、そして現在どのように維持されているのか、さらに将来の環境変動に対してどのように変化すると予測されるかを明らかにする必要があります。そこで私たちは、沖縄で最も長い砂浜が広がる久米島のハテノハマ海域で、サンゴ礁の詳細地形、流動環境、堆積物、生物分布などを調査しています。特に私の研究室では、有孔虫などの生物生産と環境変動との相互作用が鍵を握ると考えています。