人間の体は37兆個もの細胞からできている。そして毎秒200万個の細胞が新たに作られている。その細胞の設計図を担うのが染色体である。染色体は主としてDNA とタンパク質からできている。一つの細胞中のDNAをつなげると2mにも及ぶ細胞分裂時には細胞核内に分散している染色体は凝縮し棒状の形をとる。この際にはDNAは約1万分の1の長さにまで折りたたまれる。分裂期は全体で約1時間である。各細胞は分単位で核内に分散していた染色体を凝縮し、真ん中に並べ、2つの娘細胞に移動させ、さらに逆凝縮させるという複雑な工程を間違いなく繰り返す。
この現象は19世紀の終わり頃から知られていたが、その仕組みはよくわかっていなかった。今回3つの研究室がその専門性を発揮して、その謎に挑戦した。私たちイギリス(スコットランド)のエジンバラ大学のにEarnshaw研究室は遺伝子工学の技術をいかし、細胞系の確立とHi-C 法のよる解析のサンプル作り、そして顕微鏡やマススペクトロメトリーによる解析をおこなった。そしてアメリカのマサチューセッツ大学医学部にあるDekker研究室はHi-C法による解析を、マサチューセッツ工科大学のMirny研究室はコンピューターによるシュミレーションとモデリングによる検証を行った。このプロジェクトの発想から論文発表にいたるまでの経過を含めて、細胞がどうやって、染色体を作ったかをお話ししたい。