触媒とは自分自身は変化せず化学反応を促進する能力(触媒作用)をもつ物質である。そして触媒作用を持つタンパク質のことを酵素と呼ぶ。酵素は生物にとって非常に重要な役割をしている物質であり、酵素無くして我々は生きられない。これまでにおよそ7500種類の酵素が発見されているが、その中には人間の役に立ち、商品として売られているものも数多くある。この酵素市場は年々増加しており、この原因には研究者らによる新しい酵素の発見と酵素の改良があると考える。
今回は“触媒”をキーワードとして、2つのトピックスを話す。
①GABA(g-アミノ酪酸)は抑制性の神経伝達物質で、近年は摂食することでリラックス効果が謳われ、チョコレート、トマト、米などの食品のトレンドとなっている。GABAの測定は大型機器で行われるが、私は生産者がその場で簡便にGABA測定できることを目指し、酵素を使った測定キットづくりを行った。このキットには5種類もの酵素が含まれており、いくつもの化学反応を触媒することでGABAを測定している。そこでの開発の実態をご紹介する。
②酸化酵素(オキシダーゼ)は特定の物質を測定するバイオセンサーとして用いられる酵素である。例えばグルコース酸化酵素は糖尿病患者の血糖値センサーとして活躍している。そこで私も目的物を測定する酸化酵素の発見を目指して研究を始めた。そして、その過程で放線菌からL-アスコルビン酸(ビタミンC)の酸化活性を持つ菌を発見したため酵素精製を行った。しかし何度行っても酵素が得られず、まさかの菌が生産する低分子化合物が触媒である結果にたどり着いた。このように触媒作用を有し、金属原子を含まない低分子有機化合物を有機触媒と呼ぶ。これまで生物が有機触媒を生産している報告は無く、我々の研究によって有機触媒が酵素、リボザイムに次ぐ第3の生体触媒であると発見された。この有機触媒の研究についてお話する。