夜尿の病因
夜尿症の病因についての論考は、時代により幾らかの変遷があるものの、心理的因子やストレスなどの精神的因子が夜尿と密接に関連すると考えられてきた。しかし、夜尿が精神的ストレスになると報告されてはいるが8)、心理的または精神的問題と夜尿が、どちらが原因でどちらが結果なのか「卵と鶏」の論争のごとく、その解決には至っていない9)。本邦では、簡便に治療方法を選択するために、多尿型または膀胱型と夜尿症が分類されていた時期があった。確かに夜尿症患者に膀胱容量が小さい症例が多く、また夜間多尿である症例も少なくない。しかし、昼間の過活動膀胱による症状がなくとも、夜間だけ蓄尿機能が不十分になる症例や、夜間多尿がある患者でも、デスモプレッシンの投与に反応しない症例も少なくないことは、病態が単純に分類できないことを示している10)。単一性夜尿症患者の50%弱にバソプレッシンの分泌不全による夜間多尿を認める一方で11)、夜間多尿や多飲傾向があっても中途覚醒して夜尿をしない児童も少なくない。また、デスモプレッシン抵抗性のグループに、睡眠中の排尿筋過活動が少なくないことも報告されている12)。理論的には、夜間の蓄尿機能や覚醒障害がなければ夜尿は出現しない。つまり、膀胱伸展という強い刺激に抵抗するような覚醒閾値の亢進がなければ夜尿は起こらない。近年の傾向として、夜尿症のメカニズムを考える上で、このような多尿、蓄尿、覚醒という3つの症候が注目されるようになった。現在では、これらの症候が相互に関与することで、夜尿が起こると考えられている。これらの症候の元になる病因が相互に関連していることを理解するために、モデルの構築が行われてきた(図1)。図1に示すようなスリーサークルモデルは、病因を単純に理解するのに役立つ13,14)。夜間多尿、夜間排尿筋過活動と睡眠覚醒閾値の上昇を夜尿症の3つの病因とし、病因の組み合わせで単一症候性夜尿と非単一症候性夜尿のメカニズムを説明しており、夜尿の病因を患者又は家族に説明する場合にとても便利である。しかし、残念ながらこのモデルもまた、幾つかの誤解を生む可能性や、病態を説明できないなどの問題点が残る。蓄尿障害は膀胱容量が小さいからと認識されやすく、膀胱訓練が必要と言われてきた。しかし、膀胱容量が小さく、昼間遺尿があっても夜尿をしない患者もいれば、昼間の膀胱容量が正常の夜尿患者もいる。覚醒閾値の亢進についても、深い眠り、または熟睡が原因と結びつけられやすいが、同一であるわけではない。また、夜尿が治った症例でも、夜間覚醒できない子供も少なくない。このようにスリーサークルモデルには問題点が残るものの、夜尿症の病因と睡眠覚醒の関連性について明確に提示したモデルである。
参考文献
8) Naitoh Y, Kawauchi A, Soh J, Kamoi K, Miki T: Health related quality of life for monosymptomatic enuretic children and their mothers. Urol 88:1910-1914, 2012
9) Nevéus T: Pathogenesis of enuresis: Towards a new understanding. Int J Urol 24):174-182, 2017.
10) Dossche L, Vande Walle J, Van Herzeele C: The pathophysiology of monosymptomatic nocturnal enuresis with special emphasis on the circadianrhythm of renal physiology. Eur J Pediatr 175:747–754, 2016.
11) Kim JM, Park JW, Lee CS: Evaluation of nocturnal bladder capacity and nocturnal urine volume in nocturnal enuresis. J Pediatr Urol 10:559–563, 2014.
12) Nevéus T: Oxybutynin, desmopressin and enuresis. J Urol 166:2459–2462, 2001.
13) Nevéus T, Läckgren G, Tuvemo T, Hetta J, Hjälmås K, Stenberg A: Enuresis - background and treatment. Scand. J Urol Nephrol 202(Suppl 206):1–44, 2000.
14) Butler RJ, Holland P: The three systems: a conceptual way of understanding nocturnal enuresis. Scand J Urol Nephrol 34: 270–7, 2000.