これらの写真は祖父(野間佐吉)が87歳の時に、鎖骨骨折の整復と処置をしている様子です。
ごらんのように祖父は白衣を着用しませんでした。
おそらく若い頃は着ていたと思いますが、私が物心ついた時にはもうすでに白衣は着ていなかったように思います。
白衣はもちろんユニフォームですから機能的にも優れているのですが、もうひとつ重要(?)な意味があります。
それは先生と患者という差別化です。
なるほど白衣を見ただけで泣き出す子供がいるように、白衣には患者さんとは違った存在感があります。
正直私自身この仕事を始めた時には、白衣を着ることが楽しみでした。
そしていかにも先生になった気分に満足していました。
しかし、若い先生になっても白衣だけは着ないで欲しいという患者さんがいました。
そしてその患者さんは、白衣を着るんだったらもうここへは来ないと言って、それっきり二度と来院はしませんでした。
何故でしょう。
おそらくその患者さんは、白衣を着用していなくても先生としては尊敬するけれど、同じ目線の高さで接することができることに安心感や親近感を持つことができていたのだと思います。
それは即ち、白衣という見せかけの立場を超えた、患者さんと施術者との信頼関係であるといえます。
信頼関係があってこそお互いに良い結果が得られます。
私はこの域に達するまで、まだまだ時間がかかりそうです。
将来いつか白衣を脱げるように、これからも修行を重ねていくつもりです。
祖父佐吉は明治27年生まれ、十二支は午そして十干は甲、したがいまして干支は甲午(きのえうま)になります。
私はといえば昭和29年生まれの甲午。
祖父と同じ干支生まれです。
同じ干支はちょうど60年ごとになっていて、私が祖父のあとを継いだのも何かの運命なのかなと感じないではいられません。
祖父がこの仕事を始めたのが昭和8年(西暦1933年)です。
祖父が50年、私が50年。
2032年の100周年までは頑張るつもりでいます。
『周囲に左右されずにどっしりと構えて自分の仕事をやれ』
祖父が生前私に言った言葉です。
受け継いだ技術と施術理念を持っていれば、どんな困難でも乗り越えることができるという意味です。
言い換えれば良い施術をしなさいということです。
良い施術を行おうとすればそれだけ手間ひまがかかり効率性は悪くなります。
しかしあえて私にそのことを伝えたということは、長年この仕事に携わってきて培った祖父の知恵であると思います。
私は多くの患者さんをこなす(適切な表現ではありませんが・・・)ために、流れ作業的に施術を行ってきた時期が長くありました。
しかし少子高齢化社会による財政難の時代を迎えて、このようなやり方ではいけないと思うようになりました。
一人ひとりに手間をかけて施術することの大切さです。適切な施術回数で早期治癒に至ることができれば、保険財政の節約にも一役買うことができると共に、患者さんには信頼を得ることができます。
地元今治市には日本食研という優良企業の本社があります。
その会社にはケーオークラブという会があり、その定例会では作家/評論家・コメンテーターとして活躍されている江上剛さんの講演がありました。
その講演の中で、サブプライムローン問題以降の急激な不況の中にあっても着実に黒字経営を続けている日本食研の社長さんの、経営理念の一つについての紹介がありました。
それは非効率性にこそ付加価値があるというお話です。
簡単に説明すれば、例え効率が悪くても、取引先あるいは消費者一人ひとりのニーズに堅実に応えるということです。
手作りの良さと似たものがありますね。
そしてそこに生まれてくる価値は『信頼』なのです。
祖父は遥か昭和初期の時代から、あるべき柔道整復師の姿としてあらゆる努力をし、非効率の中にこそ付加価値として、『信頼』があることを見つけていたのに違いありません。
続けることの大切さ難しさ、ですから私には、祖父に追いつき追い越すのではなく、この野間接骨院を100年まで継承していく使命があると考えています。