取組み方
取組み方
私が祖父のあとを継ぐためにこの仕事に入った時、祖父は何も教えてはくれませんでした。
その時私にできることといえば、祖父の仕事ぶりを傍で眺めながら祖父の技術や患者さんへの接し方を、自分の頭にコピー(盗む)することでした。
コピーして自分の中に取り入れるためには、基礎となる学問(解剖学・病理学・生理学・柔整理論・衛生学・包帯学...等)が非常に役に立 ちました。
『学校ではしっかりと勉強してこい、あとはわしが教えてやる』 と言った祖父の意味がこの時初めて解りました。
技術は手取り足取り教わる方法もありますが、要は学ぶ側のやる気と感性だと思います。
祖父達が作った成書には『柔道整復術は一子相伝の秘術として尊重してきた』とありますが、そのくらい正しい技術を守り大切にしてきたことだと思います。
さて、表題の施術にあたっての取り組み方ですけど、祖父に『患者(さん)を引っ張るな』と言われたことがありました。
早く治してあげなさいという意味です。
医は仁術なりという言葉をもじり、医は算術という言葉があるように、日数を多く通院すればそれだけ収入が増えるわけですから、言葉巧みに長く通院してもらうという経営方針も、わからないわけではありません。
しかし結局はなかなか治らないという悪評につながる可能性もあります。
特に漁師さんや農業などを営む自営業で肉体労働をしている人をはじめ、家事や介添えなどの様々な日常生活の現場から、長期間離れていることができない人には、早くその現場に復帰させてあげる必要があります。
そういう人達のためには余分の時間をかけてでも納得のいく施術をするように心がけています。
誤解があってはいけませんので敢えて補足しておきますが、その他の人には手を抜いているというわけではありません。
それぐらいの気持ちをもって施術に取り組むという意味です。
また祖父には『百発百中じゃない』と言われたこともあります。
何もかもが全部治せるのではないという意味です。
施術方針をたてる場合、的確な症状の把握が必要になります。
患者さんの動きの様子や態度からもうすでに診察の段階に入っています。
患部のみを診るだけではないということです。
確かな傷病の把握ができてこそ早期治癒への近道なのです。
ですから自分では手に負えないと判断した時には勇気を持ってその旨患者さんに伝えることです。
患者さんとの信頼関係も早期治癒には重要なことです。
信頼関係がないとどうしても施術がうまくいきません。
これは心の問題ですね。
自分は施術中は無口なのですが、これは改めたほうがよさそうです。
必要以上に喋ろうとは思いませんが、その患者さんに合わせた会話は必要だと思います。
『肩の脱臼を入れれんようやったら、ほねつぎの看板を下ろさないかん』
これも祖父の言葉です。
玄関の出入り口の引き戸には、あえてこの『ほねつぎ』の文字を残しています。
『うちで仕上げをしよる』
これも祖父がよく言っていた言葉です。
どこに行ってもよくならない患者さんが、最後には当接骨院に来て治っていくという意味です。
自慢話になるといけないので控えますが、とにかく毎回の施術が真剣勝負なのです。
気持ちや技術の手抜きをすると、接触している患者さんにはすぐに伝わってしまうようです。
患者さんに喜ばれながら、また可愛がられながら、そして『初心忘るべからず』を心がけながら、日々施術にあたっています。