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ここでは半索動物（主にギボシムシ）の採集から同定方法を解説します．フィールド用ですので，簡便な同定方法です．
より正確に同定するには，連続組織切片を作成する必要があります．
Keywords:ギボシムシ; 採集; 同定
採集 sampling
まず，ギボシムシを見つけないと同定もくそもないですね．ではどうやってギボシムシを見つけましょう？？
答えは簡単です．砂があったら掘りましょう．そんな無茶言うなよって？仕方ありません．僕もそうやっていつも探していますから．あまり信じてもらえませんが，実際かなりの確率でいるんですよ．みんな捕まえられないからいないと思っているだけなのです．まぁいる確率がより高い場所はあります．
1. 砂の出入りが少ない，湾になっている部分．湾の中のさらに入江になっているようなところはさらにいいです．どっちの風が吹いても基本的に荒れないですから．
2. 転石の多い砂浜．転石の下は砂の出入りが少なく，ギボシムシにとっては住みやすいところです．半分くらい砂に埋まっている転石をひっくり返すとギボシムシがゴローンと出てくるってころは結構あります．
3. 干潟．
4. 珊瑚礁のラグーン
まぁこんなところでしょうか．
静かな転石海岸 珊瑚礁のラグーン
さて，採集場所が決まったら次は採集方法ですね．
ギボシムシは繊細ですぐにちぎれてしまうので丁寧に採集する必要があります．砂や泥をとって篩にかけるとかもってのほかです．せっかくギボシムシが入っていても木っ端みじんになって何も残りません．
破片だけでもいい場合は，スコップなどで砂や泥を採って，その砂泥を海水で流しながら探せば見つかります．
完全な個体が欲しい場合はかなり丁寧に採集をしなくてはいけません．
潮間帯ならスノーケリング，２mくらいの深さからはスキューバになります．
そして，転石を静かにどかしたり，砂を扇いで掘り進めます．
スノーケリング写真：品川秀夫氏
必死に砂を扇いでいるわたくし写真：並河洋博士すると
ギボシムシが出てきます．問題：ギボシムシはどこでしょう？砂を纏っているので慣れるまでは見つけにくいです．せっかくギボシムシがいるのに気づかずに砂を扇ぎ続けて，どっかに流れていってしまわないようにしましょう．
これならわかるよね．こんな感じで砂から出てきます.
大物だとこんな感じゴロリ〜ン写真：並河洋博士
砂に埋まっている石をひっくり返すとそこに絡まっていたりもします．見つけたら，水中でサンプル瓶などにいれて持ち帰りましょう．一カ所をつかんで空気中に出したりすると自重に耐えきれずちぎれてしまいます．
同定 Identification
さて，見つけたり，持ち帰った生き物は名前が知りたいですよね．ここでは簡単に同定について解説します．
ここは同定方法なのでそれぞれの種の特徴に関しては各論をご覧ください．
最も簡単で確実な同定方法は次の通りです．
1. きれいな写真を何枚か撮る
2. 僕に送る．
3. わくわくしながら返信を待つ．
4. 終わり．
ね，とっても簡単でしょう？
すいませんでした．真面目にやります．
まずはこれを見てください．
これが基本です． 1. ギボシムシ科 Ptychoderidae
科の同定
生殖隆起とは生殖域が背側に張り出したもので，ひらひらしています．この生殖隆起の有無によってある程度の同定が可能です．
生殖隆起 有 生殖隆起 無 生殖隆起 無
Ptychoderidae Spengelidae Harrimaniidae
生殖隆起のあるものは（ほぼ）ギボシムシ科 Ptychoderidae です．
属の同定
ギボシムシ科には以下の３属が含まれます
Ptychodera
Balanoglossus
Glossobalanus
そして，現在日本からは
Ptychodera flava ヒメギボシムシ
Balanoglossus carnosus ワダツミギボシムシ
Balanoglossus misakiensis ミサキギボシムシ
Balanoglossus simodensis シモダギボシムシ
の４種が報告されています．しかし，それ以外にもたくさんいますし，Glossobalanus属も3種ほど見つけています．名前がついていないのは僕の怠慢です．すいません．
それではそれぞれ見ていきましょう．
図鑑などを見ると，
”側方隔板は生殖隆起の背面に付着する→Balanoglossus”
”側方隔板は生殖隆起の自由端に付着する→Glossobalanus”
とか書いてあります．
まぁなんのこっちゃってなりますよね．要は，何かの膜が生殖隆起にくっついてる場所が違うらしいぜ！ってことです．
「なるほど，でもお兄ちゃん，その膜ってどうやったら見えるの？」だって？いい質問ですね．そう切片を作らないとダメなんですね．じゃあダメじゃん！フィールドで使えないじゃん！
まぁそう焦らないでください，膜が表皮にくっついてるってことは，なんらかの影響が外部から見えるところにも現れるってことなんです．
下の写真をよく見てください
左：Balanoglossus中央：Glossobalanus右：Ptychodera生殖域の拡大写真Balanoglossus (ちなみにこれは B. simodensis ) にだけ→のところに上下に線が入っているのがわかりますか？これが側方隔板がくっついている場所です．白いもこもこしたのは精巣なんですけど，この隔壁があるせいでそこを境に精巣も中央と側方に分かれているのがわかりますね．ちなみにこの側方隔板にそって生殖孔があるので，そこ溝から放精・放卵します．
Glossobalanus と Ptychodera ではこの側方隔板が生殖隆起の先端にくっついているから，Balanoglossus のように外側から見つけるのが難しいです．ちなみに Glossobalanus は Balanoglossus 同様に側方隔板のところに生殖孔があるから，隆起の先端から放精・放卵をすることになるけど，Ptychodera は生殖孔が散在しているから，生殖隆起のいろんなところから放精・放卵します．
Ptychodera と Glossobalanus の見分け方なんですけど，これは基本的に生殖隆起の大きさで判断してもらって大丈夫です．上の写真でも分かる通り，Glossobalanus は生殖隆起がほとんど発達しません．一方Ptychoderaはものすごく大きくなって生殖翼なんて呼ばれたりします．鰓裂がはっきりと見えるのもPtychodera の特徴です．和歌山以南でPtychoderaが採れたらほぼ間違いなくPtychodera flava ヒメギボシムシだと思ってくれて大丈夫です．それより北で見つかったら，ちょっと見せてください．
Balanoglossus 3種の同定方法
B. carnosus, B. misakiensis, B. simodensis の3種は基本的に吻と襟，肝域，肛門の場所を見ることで見分けることが出来ます．
吻と襟
左：B. simodensis右：B. carnosus見ての通り，B. simodensis は吻が完全に襟から出ているのですが，B. carnosus は襟が長くて半分くらい吻を覆ってしまいます．B. misakiensis のいい写真がなかったので非常に残念ですが，B. misakiensis もB. simodensis 同様に吻が完全に襟から出ます．
また生殖隆起の前端（襟の後端と繋がっていることころ）が，B. simodensis と B. carnosus では接しているのですが，B. misakiensis ではそこが接しておらず，隙間があります．写真がなくて申し訳ありません．
肝盲嚢突起
肝域には肝盲嚢突起という突起がたくさんあって，それの形態も同定に非常に有用です．
左：B. simodensis 右：B. carnosusまず，肝域と生殖域の位置関係が一つ重要です．左の B. simodensis では生殖域と肝域が重なっていますが（矢印），右の B. carnosus では重なっていません（矢印）．
また B. simodensis では突起が一部無い部分（矢尻：ちょっとした凸のようになることもあるが，突起まで成長しない）があるのですが，B. carnosus にはそういう部分はありません．
B. simodensis の突起はちょっとずんぐりしていますが，B. carnosus の突起はぺらぺらの襞のようになっています．
写真がありませんが B. misakiensis では，肝域は生殖域と重なっており，突起が無い部分はなく，ずんぐりした突起が並んでいます．
肛門
B. misakiensis の特筆すべき特徴として，肛門の位置があります．他のすべてのギボシムシの肛門は身体の後端にあるのですが，B. misakiensis だけ，すこし背側にずれたところにあります．すなわち，肛門よりも後方にちょっとだけしっぽ的なものがついているということになります．後端まできれいに採れることは稀なのであまりお目にかかることはありません．まぁ写真はありませんがね！
以上が，ギボシムシ科 Ptychoderidae の解説となります．
その他のギボシムシについてはまたおいおい（2011.9.19）
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