研究紹介
(2024.10.10更新)
施設園芸からバイオ医薬品生産まで,植物生産に適した環境をデザインする
植物と環境の関係を解析し,植物生産に応用することを目的として研究しています。LEDを活用して光合成の光環境応答を解析する植物生理学的研究や,温室・植物工場における環境制御法の開発など,生物学と工学の境界領域が研究対象です。特に近年は,植物を利用してワクチンや抗体などの有用タンパク質を生産する技術に興味を持ち,植物工場を用いた効率的な生産のための栽培技術・環境制御法の開発に取り組んでいます。
「生理学にもとづいた生物環境工学」を追究し、目的に応じた合理的な植物環境の創出に貢献したいと考えています。
1. 植物を利用した医薬用タンパク質生産のための環境調節
人工光型植物工場の有効な活用法の1つとして,植物を利用した医薬用タンパク質生産に着目しています。医薬用タンパク質とは,例えばワクチンとしての作用を有する抗原タンパク質や,抗がん剤などとして用いられるモノクローナル抗体などです。従来,医薬用タンパク質は,微生物や哺乳動物由来の細胞を培養することで,あるいは孵化鶏卵を用いてウイルスを培養することで生産されてきましたが,植物を用いることで,生産コストの低減,需要に応じた容易な生産規模の調整,生産過程での病原体混入リスクの低減などのメリットがあると考えられています。
私たちは,医薬用タンパク質生産に適した人工光型植物工場(または温室)の環境調節法を確立するための基礎研究を行なってきました。特に,植物に後天的に医薬用タンパク質の遺伝子を導入して一過的に発現させる一過性遺伝子発現法という技術を対象として,研究を展開しています。最近,これまでの研究成果を日本語で紹介する機会がありましたので,興味のある方はご覧下さい(松田・的場,2022)(リンク先からPDFファイルをダウンロードできます)。新しい植物バイオ技術の活用・普及に,生物環境工学の立場から貢献したいと考えています。
PMPs(Plant-Made Pharmaceuticals / Plant-Made Products)研究情報交換会という、産学官での情報交換のための会合の世話人を務めています。詳しくはこちら。
2. 光合成の光環境応答の解明,および施設園芸における光環境制御への応用
光環境が光合成に及ぼす影響を生理生態学的に解析し,その知見を温室や植物工場における光環境制御に応用することを目的としています。これまで,分光分布(光質)の影響,下位葉への補光の影響,連続明期の影響などについて研究を行なってきました。現在は,時間的に変動する光環境の影響に興味を持って研究を進めています。これらの研究には,分光分布制御や出力の時間変化の制御が容易で,局所的な照射も可能なLEDを活用してきました。生物学と工学の両者の知識・テクニックを利用して,興味深い知見の獲得と新技術の開発を目指します。
日本農業気象学会の園芸工学研究部会の部会長を務め、大会でのオーガナイズドセッションなどを企画しています。詳しくはこちら。
当研究室に興味のある方へ
下記の方は,松田(amatsuda(ATSIGN)mail.ecc.u-tokyo.ac.jp)までご遠慮なくご連絡・ご相談下さい。
本学教養学部の学生等で,当専修・当研究室への進学・配属を希望する方や,まずは研究室を見学してみたい方
大学院生あるいは学振特別研究員として,当研究室で松田と一緒に研究を行いたい方
松田との共同研究等を検討している研究者,民間企業等の方
これまで一緒に研究した学生の研究テーマ
卒業論文
【2023年度】
一過性遺伝子発現法における遺伝子導入前の明期が植物の生長と目的タンパク質含量に及ぼす影響
【2022年度】
一過性遺伝子発現法における遺伝子導入後のベンサミアナタバコ個体群の純光合成速度および蒸散速度
地表面における太陽光のPPFD日変化を再現した照射光がキュウリ苗の生育に及ぼす影響
【2021年度】
植物葉内に一過的に発現させた緑色蛍光タンパク質含量の非破壊推定法の検討
【2020年度】
植物を用いた一過性遺伝子発現法における栽植密度およびPPFDがワクチン抗原タンパク質生産量に及ぼす影響
【2019年度】
葉面における自然光の放射照度の時間変化を再現可能な光源装置の開発
自然光のPPFD時間変動を再現した照射光下での個葉の純光合成速度 —照射光の分光分布の重要性の検討—
PPFDが変動する照射光の波長帯および変動の時間スケールがキュウリの光順化に及ぼす影響
【2018年度】
一過性遺伝子発現法において遺伝子導入後気温が葉の壊死に及ぼす影響の解析
自然光において観察される周期のPPFD変化がキュウリ苗の葉面積あたり葉乾物重に及ぼす影響
【2017年度】
実験室内で再現した自然光の分光分布の時間変化がキュウリ葉の純光合成速度に及ぼす影響
明期中のPPFDの周期的時間変化がキュウリ葉の光順化に及ぼす影響
【2016年度】
植物を用いた一過性遺伝子発現法における遺伝子導入後の気温が葉内コレラワクチン含量の経日変化に及ぼす影響
植物を用いた一過性遺伝子発現法における遺伝子導入後の栽培環境が葉内インフルエンザワクチン含量および葉の壊死に及ぼす影響
【2015年度】
植物を用いた一過性遺伝子発現法における栽培光源が葉温および有用タンパク質含量に及ぼす影響
植物を用いた一過性遺伝子発現法における葉内ワクチン含量推定のための非破壊計測の試み
【2013年度】
一過性遺伝子発現法におけるベンサミアナタバコの光合成速度の低下とその要因の検討
LED終夜補光の光波長帯がトマトの成育および可視障害に及ぼす影響
【2012年度】
一過性遺伝子発現法における遺伝子導入後の気温がベンサミアナタバコ葉内ワクチン含量の経日変化に及ぼす影響
【2011年度】
明期時間および昼夜気温差がトマトの光合成特性および成育に及ぼす影響
一過性遺伝子発現法における遺伝子導入後の気温および光強度がベンサミアナタバコ葉のヘマグルチニン含量に及ぼす影響
パプリカおよびインゲンマメの葉の光合成特性に及ぼす下位葉への単色光照射の影響
修士論文
【2022年度】
一過性遺伝子発現法における遺伝子導入後のPPFD変化が植物葉内GFP含量経時変化に及ぼす影響の非破壊評価
Effects of post inoculation air temperature on biosynthesis and degradation of recombinant hemagglutinin transiently expressed in Nicotiana benthamiana leaves
【2021年度】
太陽光の葉面PPFD時間変動がキュウリ個葉の純光合成速度に及ぼす影響
【2020年度】
植物に一過的に発現させた有用タンパク質の生合成・分解関連遺伝子転写産物レベルに及ぼす気温の影響
【2019年度】
ニューラルネットワークを用いた自然換気温室の換気回数のリアルタイム推定法の検討
【2017年度】
植物を用いた一過性遺伝子発現法における遺伝子導入前の栽培環境が葉内ワクチン含量に及ぼす影響
【2014年度】
ベンサミアナタバコを用いた一過性遺伝子発現法における遺伝子導入後の気温制御が葉内ワクチン含量に及ぼす影響
【2013年度】
異なる狭波長帯LED光の混合照射が個葉の光合成量子収率に及ぼす影響
【2012年度】
植物を用いた一過性遺伝子発現法におけるワクチン生産量増大に向けた減圧浸潤法の改良
【2011年度】
機構的成育モデルを用いた日本とオランダ間の施設栽培トマト収量差の解析
博士論文
【2022年度】
Estimation of light acclimation responses of cucumber leaves to day-to-day changing photosynthetic photon flux density(経日変化する光合成有効光量子束密度に対するキュウリ葉の光順化応答の推定)
【2016年度】
分光光量子束密度の時間変化パターンがコスレタスの純光合成速度,形状および成長速度に及ぼす影響
Analysis of light spectrum effects on photosynthetic electron transport based on excitation energy distribution between photosystem I and II(光合成電子伝達に光質が及ぼす影響の光化学系I・II間の励起エネルギー分配に基づく解析)
【2015年度】
一過性遺伝子発現法を用いた植物利用型有用タンパク質生産における環境調節のための基礎的研究