ゲルハルト・マンテル著(久保田慶一訳)「楽譜を読むチカラ」より
§ リズム
・ 演奏に必要な不正確さ
音楽の拍動はその時々の音楽が持っている「心的な緊張」に反応する。掛留音や不協和音の緊張、音程や和声の緊張の変化、緊張の中での期待、テンポ、強弱、リズムなどの変化、音楽のあらゆるパラメータが音楽の拍動に影響する。
・ 拍の遅れ
一つの旋律内でも音の持っている緊張の違いを感じることが出来れば、音楽的に正しい位置でその音が演奏できる。
・ アウフタクト(16分音符4つの並びで)
モチーフが最初の16分音符で始まる場合、ドイツ語で女性の名前「Hanneloreハネローネ」を発音する場合と同じでアウフタクトは生じない。
モチーフが最初の16分音符一つ分がアウフタクトとなる場合、ドイツ語で「ジェットコースター」を意味する「die Achterbarnディ・アハターバーン」のリズムに対応する。
モチーフが最初の16分音符二つ分がアウフタクトとなる場合、ドイツ語で「大砲」を意味する「Die Kanoneディ・カノーネ」のリズムに対応する。
モチーフが最初の16分音符三つ分がアウフタクトとなる場合、ドイツ語で「私にかまわないで!」を意味する「Lass mich in Ruh!ラス・ミヒ・イン・ルー!」のリズムに対応する。
§ 強弱法
・ 短時間での強弱の変化
旋律楽器で演奏する単音の演奏やアーティキュレーション、音のディミヌエンドの仕方、歌うような旋律の中の一つの音なら位置によってある音だけクレシェンドする。長い音を「波」の様に変化させると音は生き生きとして聴衆の関心を引く。
・ 和声による強弱の変化
掛留音のような非和声音の解決には強弱法を著しく変化させる。全ての場合、非和声音を周りの音から際立つように強く長めに演奏する。
・ 強弱の心理学
ディミヌエンド:しばしば純粋なフェイドアウト、つまりエネルギーの単なる減少として演奏されることもあるが、驚くほど説得力のある演奏になることがある。
クレシェンド:ある一つの音を目標にしてだんだん大きくし、その最終目的音を最も強く演奏する。しかし、心理的な緊張のピークはしばしばその目的音の「前」にある。目的音だからと言って最も強く演奏するのではなく、その音を幾分弱くして、その直前にある強弱上の心理的な緊張を強調する。これは典型的なベルカント唱法の一つで、19世紀に広く一般的に用いられた。
§ アーティキュレーション
・ 音の立ち上がり(子音)
管楽器や弦楽器の音の立ち上げのアルファベットの子音 ブ[b]、プ[p]、ドゥ[d]、ク[k]、トゥ[t]、ス[s]、ヴ[w]
・ 休符
CPEバッハの「クラヴィーア奏法」では音は書かれている長さの半分で演奏するのが良いと書かれている。8分音符がスラーなしで連続する場合には16分音符と16分休符が交互に現れることになる。但し、ここで生じる休符は音楽の流れを中断する休符ではない。逆に、休符は音あるいはフレーズを相互に結び付けることに役立っている。早い楽章で付点リズムを演奏するには、付点音符の後には必ず休符を入れなくてはならない。これは小節線をまたいだ付点リズムでも同じ「言語的休符」と呼ぶ。
§ フレーズ
開始→展開→頂点→終止の4つの部分からなるフレーズは、ゆっくりしたテンポで始まり、途中加速して、最後はゆっくり終わる。