研究テーマ:顕生代を通じた地球環境と生物の変遷、およびそれらの相互作用
顕生代とは5億4100万年前~現在を含む地質時代で、生物の多様化によって特徴づけられます。ただ顕生代を通じては、生物は一様に多様化してきたわけではなく、複数回の大量絶滅が発生し、そのたびに生物相の大きな入れ替わりが起きました。また、地球表層環境も一様ではなく、様々な地殻変動や気候変動を経験してきました。このように、地球環境と生物の変遷、及びそれらの相互作用は多様です。
地質時代の事象を取り扱う際には、過去の地球環境バックグラウンドの理解と、適切な時間スケールを設定することが重要です。例えば、自然現象の地理的特性や元素の物質循環を考える上では、氷床の有無や大陸配置の状態といったバックグラウンドが重要になってきます。一方の時間スケールについては、地質学的に短期間で急激に起こったような事象がある一方で、長い時間かけてゆっくり進行するような環境変動や生命進化現象も存在します。そのため、扱っている事象がどのような地球環境バックグラウンドの下で、かつどのような時間スケールで起こったものなのかを明確化する必要があります。また、複数の地球環境バックグラウンドをまたいで進行するような事象も起こり得ます。
したがって、顕生代を通じた地球環境と生物の変遷、及びそれらの相互作用を総合的に理解するためには、異なるバックグラウンド条件下で発生した類似の事象に関するデータを多角的に比較検討していくことで、初めて普遍的な知見を得ることできます。したがって私は、以下のように個別のサブテーマを複数設定し、研究を進めています。
①:ジュラ紀前期の大規模温暖化・気候変動と生態系への影響の解明
(目的:超大陸が存在する温室期における大規模環境変動と生態系への影響の実態を、数千年~数万年スケールの時間分解能で解明するため)
②:第四紀更新世における北西太平洋域の古気候・古海洋環境の高精度推定
(目的:大陸配置が分散している氷室期における古環境変動の実態を、数百年~数千年スケールの時間分解能で解明するため)
③:新生代の深海堆積物における堆積環境と産出化石の時間変化パターンの解明
(目的:大陸配置がある程度分散している温室期における定常時の環境と生態系の“ゆらぎ”を解明するため)
④:生痕化石に記録された古生物の行動様式の解明
(目的:顕生代を通じて産出する生痕化石から可能な限り詳細な古生態情報を抽出するため)
⑤:津波などの突発現象によって形成される堆積物の特徴と地層化プロセスの解明
(目的:現行の自然現象に伴う堆積物の形成プロセスと地層化するプロセスを解明するため)
⑥:十脚類の形態的多様性と遺伝的多様性の解明
(目的:大陸配置が分散している氷室期における海洋生物の進化史を、現生種と化石種を包括して解明するため)