当研究室が有する技術で最も重要なのがマイクロ波・ミリ波レーダーにおける「高分解能イメージング」と「速度情報の徹底利用」です。世界的には距離や角度の高分解能化がミリ波レーダー技術開発の肝と考えられていますが、そこに速度情報を活用することで位置推定だけでは超えられない性能限界を突破するという技術を開発して、活用しています。カメラやライダー等の光センサ計測と比較した場合のレーダー計測のメリットはプライバシーの問題がないことや煙や粉塵の中でも計測可能であることが良く強調されますが、当研究室では速度の高分解能遠隔計測とその応用という技術的なメリットも強調した基礎技術の開発とノウハウ確立を大事にしています。この独自技術を活かし、下記の通り自動運転等の自動車技術、健康科学への応用のための運動計測、更に近年はアパレル分野への応用を試みています。
自動運転技術や移動ロボットの開発が盛んに行われていますが、これらによく用いられるカメラ・レーザー・超音波センサ等のみでは対応できない問題が多くあります。例を挙げると、強雨等の悪天候時の計測精度の著しい劣化や、カメラ等では直接見えない死角領域からの飛び出しの予測などです。こういった問題に対し、比較的長波長でありかつ遠距離まで伝搬可能なレーダーの特性を利用することで対処する方法を研究しております。具体的には電波の柔軟な伝搬特性(回折・多重反射・広指向性)を利用し、死角へ回り込む電波を利用した計測などを行っております。
【主な研究業績】
Ryuto Terawake, Keiji Jimi, and Kenshi Saho, "Millimeter-wave Radar-based Ego-Trajectory Estimation of a Vehicle Using Multi-Target Tracking Filter," IEEE Sensors Letters, vol. 10, art no.3501804 , March 2026. DOI: 10.1109/LSENS.2026.3669681
ミリ波レーダーによる車いすの自車位置推定
マイクロ波レーダーによる飛び出し予測実験
認知機能の低下や活動能力の低下に伴う身体機能低下を、ドップラーレーダーによる非接触歩行計測から検出することで、非接触に認知症リスクなどの健康リスク情報を評価する技術を開発しています。身体機能や認知機能と日常の歩行や起立動作等には密接な関係があることが知られており、このことに基づき運動のわずかな変化を検出・認識することで、健康リスクを非接触で評価するシステムの開発を目指しています。本技術により、日常生活の中で、測っていることを感じさせずに認知症等の健康リスクの兆候を把握や転倒リスクや将来の身体機能障害の可能性を診断することが可能となります。これらを実現するために、先進的なドップラーレーダ技術の開発、人工知能技術のレーダ応用、そして運動疫学・理学療法学・地域健康社会学分野との連携による高度化を目指した研究を実施しており、健康診断用IoTセンサへの応用など実用性も探求した研究開発も進めております。
【主な研究業績】
バイオメカニクス(生体力学、生物力学)は生物の構造や運動を力学的に探求する分野であり、ヒトの歩行のメカニズムや各種生物の運動メカニズムの解明が行われています。しかし、バイオメカニクス分野における精密計測に使われる光学式モーションキャプチャは極めて煩雑で、計測者・被験者の双方ストレスが大きい上、高コストなシステムです。そこで、レーダーなどの非接触な無拘束センサに置き換えることを探求しています。現在は、これまでモーションキャプチャ等で判断していた高齢者の転倒リスクを、レーダー等により簡易に評価できるシステムの開発に取り組んでいます。このほかにも、非接触計測を活かし、従来困難であった様々な計測対象をバイオメカニクス的に解析することを目指した研究を行っています。例として、衣服の動きやすさ解析や動作に基づく個人識別などの応用を拓いています。
【主な研究業績】
沖中 宏彰, 佐保 賢志, 藤本 雅大, 呉 政賢, 菅野 功貴, 馬杉 正男, 上村 一貴, 松本 三千人, "マイクロドップラーレーダを用いた若年者と高齢者の歩容判別", 電子情報通信学会論文誌A, vol. J102-A, pp. 167–170, 2019年5月.
ロボットやビークルが歩行者や車両など周囲の移動体を追跡する手法として追尾フィルタがあります。IoT技術によるセンサ融合を考慮した場合、複数のセンサで多次元のデータが得られます。本研究では、このようなシステムを仮定した多次元入力追尾フィルタの理論性能解析に基づく追尾システム設計方法論の構築を行っています。従来は経験的に構成したカルマンフィルタや粒子フィルタなどが用いられていたのに対し、本研究では現代制御理論を駆使してその安定性や誤差などを解析的に示すと共に、位置や速度など各種誤差を最小化するという規範でフィルタ係数や駆動雑音・観測雑音などユーザパラメータをできるだけ少ない事前情報のみで設計可能とする方法を探求しています。さらに応用として、室内ロボット経路の周囲環境認識と経路計画、複数耕作機械や重機の最適経路計画法のための制御・信号処理の融合法の構築と解析などを実験も駆使しながら探究しております。
【主な研究業績】
S. Morita, M. Hayashi, C. Kojima, Y. Okura, and K. Saho, "Estimation of Relative Positions and Velocities in Distributed Cooperative Path Design of Multi-Agent Systems," SICE Annu. Conf. 2020, September 2020.
※ 上記の他にも運動や形状の計測などのためのレーダや超音波による計測技術や電磁波工学を中心に多種多様な研究テーマを実施しています。