研究 Research

北大文学部中国文化論研究室『火輪』第四十一号に金門島・厦門旅行記を執筆

 北大文学部中国文化論研究室『火輪』第四十一号(2020年3月)に、両岸を往来する人々の姿を日常的な目線で観察した「金門島・厦門旅行記~生活圏が一体化する金門島と厦門~」を書かせていただきました。

金門島からフェリーに乗って厦門を訪れたのは2017年12月のことですが、その時に強く感じられたのは、金門島⇔厦門間は航路で30分もかからないことから、その様相は台湾本島⇔大陸間の人の流れとは明らかに異なっており、より日常に密着したものであるということでした。たとえば、天秤棒を担いだ顔なじみと思われる行商人風の大陸の高齢女性と台湾の高齢男性、金門島や厦門のフェリーターミナルで見かけた金門島の大学で学んでいると思われる大陸の学生や、両岸を往来して結婚生活を送る人々の姿などを多く見かけましたが、そのような光景にまさにそれが象徴されているといえます。金門島と厦門は完全に日帰りが可能で、ひとつの越境的な生活空間が出来上がっていることが実感できました。さらには、生活圏の一体化に加え、金門島は台湾本島と中国大陸とを結ぶブリッジとしての役割も果たしていると感じられました。

歴史を振り返ってみれば、金門島と厦門は、閩南系という元々は同じ民族集団であり、言語、信仰、風俗習慣など共通の文化を共有しています。したがって、両岸の良好な関係が維持され、双方の間で物流や交通のインフラが整い、モノや人の移動が活発化していけば、物理的にだけでなく、精神的にも双方の距離感が縮小され、新しいライフスタイルが生まれる可能性もあります。金門島の街中のいたるところで見かけた「両岸融合 幸福金門」というスローガンには、そのような意味も込められていることが推察されるようでした。今はコロナでこのような両岸間の人の移動も制限されていることとは思いますが、この地域が今後どのように変化していくのか、引き続き注視していきたいと思います。(寺沢重法さんが、ご自身のブログで近年の日本における金門島研究の動向を分かりやすく紹介されており、そのなかで拙稿についも言及してくださっています。)

堀内弘司さんの著書(『中国で生きる和僑たち――そのトランスナショナルなビジネス・生活――』桜美林大学北東アジア総合研究所、2015年)の書評を執筆

 早稲田大学地域・地域間研究機構『次世代論集』vol.3(2018年3月)堀内弘司さんの著書(『中国で生きる和僑たち――そのトランスナショナルなビジネス・生活――』桜美林大学北東アジア総合研究所 2015年)の書評を書かせていただきました。

 堀内さんの著書は、急速に発展する現代中国の大都市に移住する日本人ビジネスパーソンや起業者に焦点をあて、彼/女らがどのように「国の枠組み」を超え、出身国社会や現地社会とどのような相互作用をおこして社会をトランスナショナル化させているのかについて、丹念なフィールドワークを基に考察された大変興味深い貴重な研究成果です。

 アジアの途上国から日本に出稼ぎに来る人々に関する研究は少なくないものの、グローバリゼーションの潮流のなかで、もう一つ看過できない動きとして起こっているのは、これとは逆の人の流れです。こうした潮流のなかで、日本からの国際移動も、1990年代半ば以降、欧米先進国のみならず、アジアへ自らの個人的意思に基づいて就労や生活の場を求める人の移動の流れが盛んになりました。なかでも2000年代は、中国への就労や移住が最も加速化した時期です。本書は、このような「経済成長が止まった富裕先進国⇒急速に経済成長する発展途上国」である中国への日本人の自発的移住者に焦点をあてており、日本人の海外移住を通して日本人のグローバリゼーションのあり方や、日本や日本社会の問題点を逆投影させた非常に興味深いものとなっています。

 移住者を取り巻く社会状況、とりわけ本書のフィールドとなっている中国は、本書が出版されてから非常に社会が大きく変化しております。それだけに、「その後」についても、今後引き続き検討を続けていってほしいと思っています。

北大第251回中国語・中国文学談話会にて発表

2016年7月30日(土)、第251回北海道大学文学部中国文化論講座中国語中国文学談話会にて、寺沢重法さん(北海道大学)と「現代台湾社会とエスニシティ」という共通テーマで研究発表を行いました。私は、「現代台湾人のエスニシティをめぐる意識多元化の一局面――中国華中地域の『台商子女学校』での調査事例を基に――」というタイトルで報告を行いました。とても和やかな雰囲気のなかで行われ、示唆に富む的を得た貴重なコメントも多く飛び交い、有意義な場となりました。

本報告では、中国・華中地域の二つの「台商子女学校」(台湾人の子どもたちが通う学校)での親・教師・生徒に対するインタビュー調査を事例に、台湾人の中国や台湾に対する見方が多元化しつつあることについて、その一端を考察する機会をいただきました。

 台湾研究において、台湾人のアイデンティティに関する言説は「エスニシティ(族群)」という概念、とりわけ「本省人」(戦前から台湾に住んでいる漢民族)か「外省人」(第二次世界大戦後に中国大陸各地から台湾に渡ってきた漢民族)かに結び付けられて語られる傾向にありました。しかし今日、台湾人のアイデンティティは、政治の民主化や中台の経済状況の変化、社会状況の変化、世代交代などにより複合的に変化し、従来のような二項対立的な見方では捉えきれなくなっております。

 このテーマは比較的最近の現象であり、しかも中国において台湾関連の研究調査はあまり大々的には行いにくいのが現状です。そうした限界や制約のなかで行った調査ということもあり、今回取り上げたインタビュー事例はごく少数であり、考察も試論的なものにすぎませんでしたが、談話会では、中国と台湾の両地を横断するようなさまざまな文化現象についての視点など、台湾研究者のみが集う研究集会の場ではなかなか出てきにくいような貴重なコメントもいただきました。今後、台湾人の住民アイデンティティの形成要因について、時代、世代、職業、学歴、日常使用言語、出身地域や居住地域などといった要素にもっとしっかり引付け、それらがどう絡み合うようになっているのか、実地見聞から得た知見をアンケート調査データなどとも照らし合わせながら掘り下げていきたいと思います(この発表の成果の一部は、金戸幸子 2017「中国で生活する台湾人のアイデンティティ多元化の一局面──中国・華東地域における『台商子女学校』での調査事例から」北海道大学文学部中国人文学会『饕餮』第25号 pp.72-92にまとめられております)

 研究発表の機会を与えてくださった北大中文の武田雅哉先生、研究会のアレンジ、コーディネートや司会を務めてくださった武田研究室の藤井得弘さん、そして会場にお越しくださった皆様に感謝申し上げます。

社会政策学会第129回大会にて発表

 2014年10月12日(日)、岡山大学で開かれた第129回大会で発表を行いました。社会政策学会には、「日本・東アジア部会」が設けられておりますが、今回、同部会が「東アジアにおける外国人労働者、移民と多文化主義」という共通テーマの分科会を企画されるにあたり、発表者の一人としてお声をかけていただき、招待発表させていただくチャンスを得たものです。

 今回、同部会の報告者として御一緒させていただくことになったのは、外国人労働者と移民政策に関して経済学的な観点からアプローチされている研究者として第一人者的存在である井口泰先生(関西学院大学)、介護労働市場における仲介業者の機能について、アジア各地で精力的な調査をなさっている山田健司先生(京都女子大学) 。私は、これまでの科研費による台湾での調査に基づく研究成果を取りまとめるかたちで報告いたしました。本分科会のコメンテーターとして、福祉政策について社会学的な観点からご研究なさっている武川正吾先生(東京大学)が務めてくださいました。気鋭の先生方に囲まれて発表させていただくのはやや恐れ多いものでしたが、研究を発展させていく上でとてもいい機会になりました。また、やはり何よりも、こういう場に参加することによっていい人脈を獲得できたのも大きな収穫でした。

 コーディネーターを務めてくださった李蓮花先生(静岡大学)、そして本分科会での発表者としてお声をかけていただいた相馬直子先生(横浜国立大学)には、心より感謝しております。今回の報告内容をブラッシュアップして、学会誌への論文投稿にチャレンジしていきたいと思います。

北大と台湾・中央研究院とのジョイントワークショップ"Comtemporary Social and Cultural Change in Taiwan and Japan"で英語による研究発表

 2014年9月28日(日)、北海道大学大学院文学研究科が台湾の政府の最高学術研究機関「中央研究院」の学者を招いて行った"Joint Workshop on Contemporary Social and Cultural Change in Taiwan and Japan"にて、久々の英語での研究発表を行いました。中央研究院からお越しになった先生方は、アジアの社会学界でも著名な蕭新煌先生、現.台湾社会学会会長の張茂桂先生、台湾のエスニシティ研究の第一人者である王甫昌先生、政治文化・社会運動など台湾社会分析に関する気鋭の研究者である蕭阿勤先生といった、台湾の社会学界の権威とされる先生方ばかりでした。そうした著名な先生方と名前を連ねて、しかも英語で発表するのはたいへん恐れ多く、気が重かったのですが、せっかくこのワークショップの主宰者の先生から貴重な機会をいただいたわけですから、夏休み中の間、英語での原稿を作ったり、パワーポイントを作ったりしたりして、何とか準備を整えて臨みました。

 今回、私は"Transformation of New Immigrant Communities in Contemporary Taiwan: A Case of Japanese Community"というテーマで発表を行いました。英語での研究発表にはぜんぜん慣れていなかったので、ほんとうに当日はどうなることやらと思っていましたが、出来映えはともかく何とか無事に終了。英語でのプレゼンテーションも、やはり数をこなしていくごとに、コツのようなものをだいぶ習得できていくようにも感じました。何事も経験が大事ですね。

 このワークショップに参加できてよかったと感じているのは、台湾の社会学界の錚々たる研究者の先生方のレクチャーから最新の研究成果を学ぶことができたのと、ワークショップの主催先である北大の先生方・院生やポスドクの方々といい関係を持つことができたこと。このワークショップの発表者として、お声をかけてくださった先生にはあらためて感謝申し上げます。

投稿論文「グローバル化時代の台湾における日本人コミュニティの変容」が日中社会学会の学会誌『日中社会学研究』第21号に掲載

 日中社会学会が年に1回発行している学会誌『日中社会学研究』第21号に投稿していた論文「グローバル化時代の台湾における日本人コミュニティの変容」の掲載が決定し、2013年12月に公刊の運びとなりました。

 長らく台湾などで続けきた調査からの観察をまとめて作成した論文でしたが、レフリーに何度も書き直しを命じられ、一時はあきらめかけていただけに、掲載が決定した時の喜びはひとしおでした。複数のレフリーによって厳格な査読を経た論文は、掲載決定まで時間がかかるものの、実際に出来上がった論文を見ると、やはり我ながら、文章の歯切れの良さを含め、出来が違うと感じるものです。

 厳格ななかにも親身な査読を行ってくださった査読者の先生方に感謝申し上げます。また、これをひとつの励みに、今後、研究者の世界から忘れ去られないよう、研究面をしっかりと頑張り、成果を挙げていきたいと思います。

21世紀中国総研編『中国情報源』最新版に「日本のチャイナ・ウォッチャー」として掲載

 チャイナ・ウォッチング専門出版社の蒼蒼社から出ている21世紀中国総研編『中国情報源』には、広く中国研究に携わる専門家として、「日本のチャイナ・ウォッチャー」が収録されております。

 この「日本のチャイナ・ウォッチャー」には、大学や研究機関の研究者を中心に、報道・メディア関係者、経済界・企業関係者などを含め、中国研究関連の専門家として認知されている専門家350人程度の氏名とプロフィールが紹介されておりますが、最近刊行されたばかりの最新版(2013-2014年版)には、前号(2010年-2011年版)に引き続き、金戸も掲載されております。詳しくは、21世紀中国総研編『中国情報源 2013-2014年版』466頁をご覧ください。

来道アジア観光客対象アンケート調査が無事終了

 2012年度に北海道開発協会開発調査総合研究所の研究助成を受けて実施した「アジア地域からの北海道観光客の観光消費行動に関する比較研究」プロジェクトが無事に終了し、その成果を大まかに取りまとめることができました。ご協力いただいた関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

 本調査では、北海道を訪れたアジアを中心とする外国人観光客492人からアンケート調査への回答を得ることができました。回答者の国・地域別の内訳は、多い順に、韓国93人、台湾83人、オーストラリア60人、香港52人、アメリカ39人、タイ23人、イギリス19人、シンガポール16人、中国12人などです。本調査による成果論文は、適宜紹介していきたいと思います。