基調講演・シンポジウム

基調講演

遺伝子の水平転移はどのように生じるのか 

 ~ 分子の時間から進化の時間まで ~ 

小保方潤一(京都府立大学 大学院生命環境科学研究科)

ゲノムや生物種を越えた遺伝子の転移は、地球上の生物の多様化に大きく寄与してきた。しかし、そもそも、プロモーターや転写の仕組みの異なるゲノムに飛び込んだ外来遺伝子たちは、どのようにして発現能を獲得してきたのだろうか? 私たちの研究グループでは、植物の葉緑体から核への遺伝子移動をモデルにして、この疑問に取り組んできた。今回の講演では、植物細胞を使った一種の進化実験の結果と、光合成をする有殻アメーバのゲノム解析の結果を中心に、遺伝子の転移直後に真核ゲノム上で生じる外来遺伝子の転写活性化のメカニズムと、細胞内共生進化の過程で、遺伝子の水平転移(HGT)や細胞内共生転移(EGT)が共生者と宿主ゲノムの再編成を引き起こしていくメカニズムについて、それぞれ現時点でのオーバービューをご紹介したい。

植物ゲノムにプロモーターを持たない外来遺伝子配列を大量に導入し、それらの発現挙動を包括的に解析したところ、それらの配列は、ゲノム上の挿入部位の性質とは全く無関係に、一定の頻度で転写が活性化されていた。詳しい検討を進めた結果、この転写活性化には、外来配列の挿入に伴って局所的に生じるクロマチンのリモデリングが関与している可能性が強く示唆された。一方、葉緑体とは異なる独自の光合成オルガネラをもつ有殻アメーバのゲノム解析から、細胞内共生者と宿主のゲノムの間の再編成には、従来の予想よりも遙かに短い時間しかかからないこと、また、この急速なゲノムの再編成には、これまで予想されていなかった新たなゲノム撹拌メカニズムが関わっている可能性のあること、などが示唆された。

これらの新しい知見を基にして、遺伝子の水平転移のメカニズムについて現在考えられるモデルを、分子生物学の時間スケールから進化の時間スケールまでを含めて、統一的に議論したい。 

日時:2018年11月25日 9:00-10:00

会場:神戸大学六甲ホール

シンポジウム JSS/JSCPB Joint Symposium

生物共生の光と影

Interactions between Hosts and Symbionts -Both Sides Now- 

共催:日本比較生理生化学会 

会場:神戸大学統合研究拠点コンベンションホール

(ポートライナー 京コンピュータ前駅からすぐ) アクセスは こちら

日時:2018年11月24日(土)15:50-17:50


生き物は単独では生きていけない。さまざまな生物が他の生物と共生関係を保ちつつ生きている。時には自身の内部に共生体を有し,お互いになくてはならない存在となっている。また時には,周囲の生物とゆるやかな共生関係を保ちつつ,お互いに「持ちつ持たれつ」の関係を維持している。 生物共生とは,異質な存在が共に生きているということである。そこからは,それぞれの生物のみでは成しえない新しい機能が生まれることがあるし,また反対にそれぞれの生物は,それぞれが妥協し変化を強いられるという大きな犠牲を払っていることもある。そのような共生のメリットやデメリットをてんびんにかけた結果が,現在見られるさまざまな生物の共生関係と言ってもいいだろう。 本シンポジウムでは,ともすれば利点についてのみ多くを語られがちな生物共生の「影」の部分にも焦点を当てて,生物共生が実際はいくつかのデメリットを抱えたトレードオフの結果であることも示したい。

No organism lives alone. Each organism affects and is affected by other species and natural surroundings. They sometimes maintain symbionts living within them, which may be indispensable to the survival of both the hosts and the symbionts. Although such relationships are sometimes beneficial and sometimes harmful, they are essential to many organisms and ecosystems, and they provide a balance that can only be achieved by working together. This symposium aims not only to cover the current knowledge and the most recent advances of research on biological symbiosis, but also to focus on the dynamics resulting from the presence of a trade-off between the benefits of symbiosis and the costs for maintaining it. 


15:50-16:00  イントロダクション 佐倉 緑(コンビーナー・神戸大学)Midori SAKURA (Convener, Kobe University) 


16:00-16:25  佐藤 拓哉(神戸大学) 寄生生物ハリガネムシが紡ぎだす森と川の生態系

Takuya SATO (Kobe University)  Parasite-mediated energy flow across forest and stream ecosystems: proximate mechanisms and ecological consequences   ABSTRACT


16:25-16:50 北條 賢(関西学院大学)  アリーシジミチョウ共生系における利害の対立と駆け引き

Masaru K. HOJO (Kwansei Gakuin University)  Conflicts of interest and regulations in the ant-lycaenid butterfly mutualism   ABSTRACT


16:50-17:15  大塚 攻(広島大学)  海洋プランクトン群集における共生を栄養関係から考える

Susumu OHTSUKA (Hiroshima University)  Symbiosis in marine plankton communities with a special reference to their trophic relationships  ABSTRACT


17:15-17:40  高橋 俊一(基礎生物学研究所)  サンゴに共生する褐虫藻:動から静への変化がもたらすもの

Shunichi TAKAHASHI (National Institute for Basic Biology)  Symbiotic algae within corals: different lifestyles in inside and outside the host cell  ABSTRACT


17:40-17:50 まとめ  神川 龍馬(コンビーナー・京都大学)Ryoma KAMIKAWA (Convener, Kyoto University)