研究プロジェクトの一員であるウェイホン・ソン教授は、「アルツハイマー病は明らかに脳の病気だが、それがどこからやって来て、どのように止めることが出来るのかを理解するためには、身体の全てに目を向ける必要があることを、この研究結果は示している」と指摘。
「アミロイドβ」は、脳組織だけでなく、血小板や血管、筋肉でも生成され、他の機関にも見られるものだ。そこで、研究プロジェクトでは、アルツハイマー病にかかっていない正常なマウスと、遺伝子改変によって「アミロイドβ」を生成する徳善変異のヒト遺伝子を持つマウスとを、「パラバイオーシス」と呼ばれる手法を通じて外科的に結合し、循環系を一年に渡って共有させた。その結果、正常なマウスがアルツハイマー病に罹患。遺伝子改変されたマウスから正常なマウスの脳に「アミロイドβ」が輸送され、蓄積し、損傷を与え始めたものと考えられている。
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)と中国の第三軍医大学との共同研究プロジェクトは、2017年10月31日、医学専門誌「モレキュラー・サイカイアトリー」において、血液循環から生成された「アミロイドβ」が脳内に入り込み、蓄積し、神経細胞の機能を損なわせることを示す研究結果を発表した。
従来、その原因となるたんぱく質のひとつ「アミロイドβ」は脳組織で生成されるものと考えられてきたが、このほど、脳以外で生成されたものもアルツハイマー病をひきおこしうることが明らかになった。
ある値はいま―病(アルツハイマー型認知症)は、特殊なたんぱく質が脳の中に蓄積し、正常な神経細胞を変化させることで、脳の働きを低下させたり、萎縮を進行させたりする脳疾患だ。
【アルツハイマー病を引き起こすたんぱく質のひとつ「アミロイドβ」は脳組織で生成されるものと考えられてきたが、脳以外で生成されたものも原因になり得ることが明らかになった】
2017年11月3日(金曜日)
Newsweek
今回、アルツハイマー病の前駆症状を示す患者、あるいは軽度のアルツハイマー病患者にaducanumabを月に1回静脈内注入するという臨床試験の中間結果が報告された。aducanumabの投与は脳のAβ斑を減少させ、この作用は臨床的な認知機能低下の投与量依存的な鈍化を伴っていた。この試験のデータは、Aβ除去療法薬としてaducanumabの開発をさらに進めることの裏付けとなる。
ここのところ、複数のアルツハイマー病治療薬が開発過程でつまづいており、そのため新しい結果には、どんなものであっても強い関心が向けられている。
標的はアミロイド:抗体のaducanumabはアルツハイマー病に関連するヒト脳でのアミロイド沈着を軽減する
Nature 537, 7618
2016年9月1日
表紙は、抗体aducanumab(アデュカヌマブ)によるアミロイド斑の減少を示すPET画像である。この例では、脳でのベースライン(投薬前)のアミロイド沈着状態と54週にわたるaducanumab投与後の沈着状態を比較できる。aducanumabは組換えヒトモノクローナル抗体で、アルツハイマー病の神経変性過程に関わっていると考えられているアミロイドβ(Aβ)ペプチド凝集体を選択的に標的とする。
アルツハイマー病の新薬開発 治験で「期待できる」効果
BBC News 9月1日(木)16時56分配信
キャロライン・パーキンソン、BBCニュースサイト、ヘルス編集長
アルツハイマー病の治療薬開発を進める米バイオジェン社とスイス・チューリッヒ大学のチームは、新薬候補の「アデュカヌマブ」の臨床試験で、患者の脳に形成されるアミロイドと呼ばれるたんぱく質の蓄積を減らすことができたと発表した。
研究結果は、1日付でネイチャー誌のウェブサイトに掲載された。
アデュカヌマブの新薬開発は依然として初期段階にあり、専門家たちは慎重姿勢を保っている。それでも、3段階ある治験のフェーズ2が終わった時点で、安全性が確認された上、記憶低下の抑制効果があるかもしれないと可能性が示された。
アデュカヌマブの臨床試験は、フェーズ3の開始に向けた準備が進んでいる。
アルツハイマー治療をめぐっては、アミロイドの蓄積に関する研究に長年焦点が当てられてきた。
治験から脱落者も
フェーズ2では、患者165人がアデュカヌマブの安全性などを確認する治験に参加した。
1年間の治験の結果、アデュカヌマブの投与量を増やすと、増加分に比例してアミロイド蓄積を除く効果が高まることが分かった。
その後、研究者らは記憶の試験を行い、「前向きな効果」が確認できたという。
しかし、40人が治験から脱落。半数は頭痛などの副作用が理由だという。投与量が増えると副作用も増えた。
フェーズ3では2つの治験が別々に実施される。認知力低下への効果を十分に試すため、北米と欧州、アジアでアルツハイマー病の初期段階にある患者2700人に、治験参加を呼び掛けている。
バイオジェンのアルフレッド・サンドロック氏は、「ぜひともフェーズ3を実施しなくてはならない。これまでの研究で分かったことが確認できると期待している」と述べ、「症状はないものの、脳にアミロイドがあって、将来アルツハイマーを発症する可能性が高い人を治療する日が来ることも考えられる」と語った。
大きな前進
しかし、アルツハイマー病治療薬の開発をめぐっては、多くの失敗例があり、最後に新薬が承認されてから10年以上がたっている。
ほかの専門家は、慎重ながらも今回の研究結果を歓迎した。
英慈善団体「アルツハイマーズ・リサーチUK」の専門家デイビッド・レノルズ氏は「新しい作用機序を持った薬が今後現れるという期待が持てる事例だ」と評価した。
英慈善団体「アルツハイマー協会」のジェームズ・ピケット氏は、「薬を多く摂取するとアミロイドの削減量も増えた。この点に非常に説得力がある」と評価し、「アルツハイマー病の仕組みに直接働きかける治療薬は現在ない。それだけに、アミロイド除去で病気の進行を実際に遅らせられる薬は大きな前進になる」と述べた。
しかし、エジンバラ大学の認知神経システムセンターのタラ・スパイアーズ=ジョーンズ氏は、「今回の治療薬については、慎重ながらも楽観的だが、多くの薬が治験の初期段階を完了した後、大規模治験で失敗しているので興奮しすぎないようにしている」と語った。
コレッジ・オブ・ロンドンで神経科学を教えるジョン・ハーディ教授は、「新しいデータは期待が持てるが、まだ最終的なものではない」と述べた。
(英語記事 Alzheimer's drug study gives 'tantalising' results)
(c) BBC News
最終更新:9月1日(木)17時2分
また、「血液と脳の組織液との間の物質交換を制御する『血液脳関門』は、加齢に伴って弱くなる。これによって、より多くの「アミロイドβ」が脳に湿潤し、脳で生成されている「アミロイドβ」と相まって、アルツハイマー病の進行を加速させる可能性がある」と考察している。
この研究結果は、脳に直接作用させることなく、篤つはいま―病の進行を止めたり、遅らせたりできる新たな治療法への糸口としても注目されている。研究プロジェクトでは、複雑で傷つきやすく、標的にしづらい脳の代わりに、薬物を通じて、肝臓や腎臓に働きかけ、「アミロイドβ」など、毒性のあるタンパク質を脳に到達する前に除去するような治療法などがすでに構想されているという。
認知症の人は、世界全体でおよそ4700万人にのぼり、日本でも、2012年時点で、462万人が認知症患者であると推計されている。この研究結果は、認知症を引き起こす者のうち最も多い疾患であるアルツハイマー病の治療法の発展に、少なからず寄与しそうだ。