PICESの5年課題、“北太平洋における海洋生態系に対する気候変動及び人間活動のインパクト”、に対応し、生物海洋委員会(BIO)に属する海鳥・海獣アドバイサリーパネル(共同議長;綿貫豊・Rolf Ream)は、2011~2014の3年間の課題として“空間生態学と海洋保全”を実施している。
海洋生態系に配慮した持続的利用のための一つの手段として、生態学的(生産性・食物連鎖)・生物学的(種多様性・希少種)重要海域を特定し、それに基づいて海洋保護区を設定することが考えられている。海鳥・海獣の主たる餌は浮魚・マイクロネクトンである。餌の季節・年変化は周辺海域の餌生物群集を反映し、海鳥・海獣はこれらが豊富な場所に集まる。そのため、これらを海洋の重要海域を探るためのツールとして使おうというアイデアが出されている。そのための手段として、船からの目視によるセンサスが実施され、北太平洋ではそのデータベース作りが進められている。船による調査は海域が限定され、また重要海域の時間変化を追いづらいといった欠点があるので、衛星対応発信機や装着型データロガーをつかった海鳥・海獣の移動軌跡の研究もすすめられている(Block et al. 2011 Nature)。
これらを背景として、海鳥・海獣アドバイサリーパネルは、1)海鳥・海獣の分布データ(船からの目視調査・トラッキング・コロニー調査)とその時間変化についてとりまとめる、2)生態的・経済的ホットスポットを成立させる物理的・生物的要因を明らかにする、3)PICES海域内の生態学的・生物学的重要海域似ついての情報をマップの形で提供する、を目標に掲げている。
広島会議では、1)海鳥・海獣の組織中の汚染物質とした海洋汚染の空間パタンに関するセッションの開催(コンビナ:Peter Ross, 高田秀重、綿貫豊)、と2)来年予定しているワークショップの計画策定(リーダーR Suryan、科研費Aで招へい)を行った。
海洋汚染セッションにおいては、カナダの海鳥の汚染物質の専門家であるJohn Elliot(科研費Aにより招へい)した。
これらの発表により、海鳥・海獣は、現在は製造禁止となっているが過去に排出されたPCB・DDTなどの残留性有機汚染物質ばかりでなく、現在排出されている物質の海域・陸域での分布パタンおよび年代変化のインジケーターとして極めて有効であることが確認された。また、海生哺乳類への潜在的な影響について議論がなされ、どういった組織を使うべきか、何を測るべきか、などについても議論された。さらに、生物以外にも浮遊するプラスチックや流れ着いた浮などがモニタリングには有効であることが示された。
ワークショップの計画策定においては、R Suryanをリーダーとして、北太平洋における船からの目視調査とトラッキングによる分布調査の結果について、そのデータベースの利用可能性、それぞれのデータの特性、これらを同一に扱えるかの検討、どのようにマッピングするかの検討、が重要であることが話し合われた。またワークショップの招へい研究者や資金の問題について検討された。
詳細はhttp://www.pices.int/members/advisory_panels/MBM.aspx