研究業績

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教育と研究について

近年は、政策を立案することはもちろん、何をするにも「エビデンス(証拠)」が強く求められるようになりました。私の専門は「社会調査」ですが、問題を正確に把握するにあたって、科学的な方法論に基づく社会調査の重要性はますます高まっています。私はこれまで、日本の代表的な社会調査である日本版総合的社会調査(JGSS)や、社会階層と社会移動調査(SSM)などに関わり、社会調査の基礎を身に着けてきました。さらに、国際比較調査、疫学コホート研究などにも幅広く関わっていますが、今後の方向性としては、よりローカルなフィールドの研究も行っていきたいと考えています。また、教育としては、調査データに対する批判的思考力を学生に身につけてもらうことも重要な課題だと考えています。

以上の背景のもと、滋賀大学では、地域社会のニーズにも応える領域を問わない調査立案、そして調査データに対する批判的思考力の育成に取り組む予定です。


研究テーマ1:アジア諸地域における家族意識の国際比較

多くの調査がある中で、私が最も関わってきたのは、East Asian Social Survey (EASS)とComparative Asian Family Survey (CAFS)です。この両調査は、EASSが大阪商業大学JGSS研究センターによって、そしてCAFSが京都大学アジア親密圏/公共圏教育研究センターによって、多くの国際的連携のもとに行っている家族比較調査です。主にEASSが東アジアを対象とし、CAFSが東南アジアや南アジア、さらに中東諸地域を対象として、現在でも調査が続いています。

図1と図2(準備中)はこれらのデータが対象としているアジア諸地域(+アメリカ・イギリス)について、経済状況と出生動向の変化について示したものです。一見してわかるように、アジアの諸地域は経済的な発展を進めると同時に、少子化などの家族の急速な変化が起きています。特に韓国や台湾のように、急激に経済発展が起きた地域では、少子化や高齢化が一気に進んでいるため、欧米諸国に比べて、福祉制度を十分に議論する時間が乏しく、制度的な問題を抱えていると指摘されています。今後、アジアが経済的に発展していくにつれて、特に福祉は様々な地域で問題となっていくことでしょう。家族に関する問題を把握し、あるべき姿を提案していく、そんな研究をしていきたいと思っています。


研究テーマ2:日本の階層構造の把握

家族意識の国際比較以外にも、日本(あるいは東アジア)の階層構造についても、研究を進めています。階層構造というと少々ゴツイ感じがしますが、要は日本社会の中にある社会的な不平等の分析です。人は、自分の親を選んで生まれるくるわけではありません。生まれた家、育った環境は、様々な要因を媒介して、学校の成績やその後の職業、そして結婚や健康にまで多くの影響を与えています。この構造を理解し、個人の努力ではどうすることもできない力によって、社会における様々な格差が生まれていることを階層研究では行っています。


研究テーマ3:健康やWell-beingの日米比較

現在行っているテーマに健康やWell-beingに関する分析があります。少子高齢化が進み、社会保障費も拡大する中で、単なる寿命ではなく、健康寿命の延伸が課題となっています。健康あるいはWell-beingに関する分析は山のように分析があるわけですが、その文化差に関する研究は、これからの課題として残されています。

文化差を分析するためには、同じ方法論を用いて、2か国以上でデータを取る必要がありますが、予算や仕事量が多くなることから、普通の社会調査ほどはデータの蓄積がありません。そこで現在あるデータの中で非常にユニークな調査をしているのが米国ウィスコンシン大学マディソン校のInstitute on AgingにあるMIDUS、そして東京大学・東京女子大学のチームが行っているMIDJAという比較研究プロジェクトです。このMIDUSは、社会学・心理学・健康科学・疫学・医学・神経科学・生理学…など様々な領域の研究者が学際的に協働し、日米の国際比較をもとに、健康に関する文化差を探求しています。まだまだ形にはなっていませんが、今後研究結果をアップデートしていく予定です。