挨拶

自治体基盤のコホート研究構築によりデータベース医学とライフコース健康学の確立を目指す

医療技術の進歩・高齢化の進展が医療介護給付費を増大させる一方,少子化の拡大・経済の停滞は医療介護財源を縮小させています.政府・保険者・医療機関が,限られた資源を効率的に配分するための健康科学に立脚した健康支援を一層強化しなければ,半世紀にわたり先人たちが構築してきた我が国が誇る国民皆保険制度を持続させることはできなくなるでしょう.政策立案者・保険者・医療提供者の経験と技術に頼るアートではなく,実証的評価に裏付けられた科学的根拠を導くサイエンスとしての健康支援が必要とされています

 健康支援は自治体が司令塔になるべきであると考えています.自治体は国民健康保険および介護保険の保険者であり,地域住民一人ひとりの出生前から死亡に至る,妊婦健診・乳幼児健診・予防接種・学校健診・特定健診・保健指導・重症化予防・介護予防などを担っています.自治体機能が有機的に連携され,先制的保健活動が展開されることで,地域住民の健康づくりを効果的に支援できます.しかしながら,現状では,各種データが部局横断的に十分に活用されておらず,自治体の本来的なポテンシャルを発揮できていません.

 そこで当教室では,2019年度よりLIFE Study(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)を開始しました.多くの自治体と協働しながら,自治体保有の保健・医療・介護・行政に関する健康関連データを地域住民一人ひとりにリンケージし,今後20年間にわたって追跡する多地域コホート研究に取り組んでいます.LIFE Studyにおいて構築した統合データベースを用いて,健康の関連要因・健康の波及効果の解明,データサイエンスに立脚したEvidence-Based Health Policyの変革,ヘルスケア産業における開発プロセス革新などを通じて,健康寿命延伸と健康格差解消に向けた研究成果を発信することをめざします.

九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座

福田治久