About Our Research

 生命を構成する細胞は、細胞内や細胞外の環境を感知し、細胞がもつ機能を巧みに調節しています。この調節の鍵となるものは、細胞内部に存在する様々な細胞小器官(オルガネラ)です。これらオルガネラが細胞内で役割分担し、細胞環境の変化に合わせて、その機能や役割を調節しています。なかでも、オルガネラの機能に直結する形態・サイズの制御は必要不可欠です。

​ 我々は、この細胞が備えもつ、細胞環境に合わせてオルガネラの形態・サイズを制御する「サイズスケーリング」の仕組みについて研究を行っています。

>> English ver. is here

 真核生物の細胞が共通して保有するオルガネラである「核」に焦点を絞り、解析を進めています。100年以上も昔から、細胞全体のサイズと核のサイズと間に正の相関関係が存在することが知られており、核は細胞内の空間を「感知して、そのサイズを調節する仕組みが提唱されてきました。
 私たちは、「核と細胞のサイズの関係(核と細胞のサイズスケーリング)」という、細胞をつくる上での基本法則の特徴とその背後にある仕組みを解析しています。この問題に取り組むために、我々の研究室では細胞内環境を人工的に再現する無細胞系を利用し、環境要因や空間情報を人工的に操作する実験を行っています。[無細胞系の紹介はこちら!]

これまでに、私たちはこのアプローチを使って、[詳しくはこちら]
・核周囲の”局所的な”細胞質の空間が、核サイズの成長速度に影響を与える仕組み  [Hara & Merten, 2015]
・細胞内の構造が核サイズの成長を物理的に邪魔する仕組み [Shimogama et al, 2022]
・ツメガエル種間による”局所的な”細胞質空間の認識機構の違い  [Heijo et al, 2022]
を解明してきました。

 核以外にも様々なオルガネラが、細胞のサイズを感知して、そのサイズを変化させる特徴(細胞内サイズスケーリングをもつことが知られています。細胞全体として、複数のオルガネラが協調して制御され、機能する仕組みを解明していきたいと思っています。

Mission 2: ​核は中身の状態を知っている!?

 核は遺伝情報を含むゲノムDNAを細胞質から守り、DNAの機能を発揮させる適切な環境をつくるのに一役買っています。核は、細胞のサイズだけでなく、核内部のDNAの「量」を感知し、そのサイズを制御する現象も知られています。この現象も40年以上昔から提唱されてきました。DNA複製前後や生物の種類により、核内のDNAの量は異なります。細胞はその機能の司令塔である核のサイズを、変化するDNA量に合わせて調節する仕組みをもっているとも言えます。

 私たちは、この「核サイズとDNAとの関係(核とDNAのサイズスケーリング)」という、異なる観点からも、核のサイズを決定する仕組みとその生物学的意義を解析しています。私たちは、無細胞系を用いて、核内部のDNAの量や核内のクロマチンの状態を操作することで、
・核内のDNAの量やクロマチンの構造が、核サイズの成長速度を制御する仕組み  [Heijo et al, 2020]
を解明してきました。[詳しくはこちら!(現在準備中)]

 しかし、DNAやクロマチンの構造が核のサイズや機能を制御する仕組みは、まだヴェールに包まれたままです。今後は、様々な角度の解析により、その仕組みに迫っていきたいと思います。

Mission 3: ​核サイズの黄金比率!?

 全ての真核生物がもつ核のサイズは、生物種や細胞の種類により大きく異なります。そのサイズ調節の仕組みには、何か特別な法則性があるのでしょうか?真核生物の進化の過程で、その法則性はどのように変化したのでしょうか?細胞がもつ「黄金比率」のような、特別な核サイズはあるのでしょうか?

 私たちは、上記Missionの仕組みの実験的な理解に加えて、生物種間の核サイズの比較解析も行っています。これまでに、800種類以上の細胞のデータを集めて核サイズを比較したところ、
特定の真核生物では、核サイズがもつ法則性が他の真核生物・原核生物とは異なること  [Hara, 2020]
真核生物の有核赤血球では、核サイズがもつ法則性が他の一般的な体細胞とは異なること [Niide et al, 2022]
 を解明してきました。[詳しくはこちら!(現在準備中)]

 このような進化的観点の解析から、原核生物から真核生物への進化や、真核生物種内での進化の過程で、遺伝情報を保有する核(や核様体)の特徴や機能がどのように変化して生きたのかを理解したいと思っています。いづれは、核の構造や機能を人工的に進化・改良するような実験にもトライしたいです。

Mission 4: ​その他のオルガネラのサイズスケーリング!?

  核以外の様々なオルガネラのサイズや機能も、細胞のサイズや環境に合わせて変化しています。私たちは、上記のアプローチを駆使して、核以外のオルガネラのサイズスケーリングの仕組みとその生物学的意義に関しても、解析を進めていきたいと思っています。また、オルガネラ間のサイズスケーリングの関係も含めて、細胞全体のスケーリングの関係を理解できるようになると面白いですね。