Mission 1:
​核は細胞のサイズを知っている!?

細胞分裂後の凝縮した染色体は、細胞周期の間期になると、核膜に包まれ核となり、特定のサイズまで大きくなります。この”特定”のサイズは、細胞質に対する特定の体積比率を示しており、つまりは核は周囲の細胞質のサイズを感知して、そのサイズを調整していることになります。

 私たちはこれまでに、ツメガエル卵細胞質抽出液を用いて、核を無細胞状態で再構成する実験(無細胞再構成系)を行いました。様々なサイズのマイクロ流路内で、細胞質を培養すると、再構成した核が増大する速度が、用いたマイクロ流路のサイズに依存する現象を発見しました(左図)。さらに、核周囲に形成される微小管構造(左図)とそれに結合しはたらくダイニンにより、核へと供給される核膜の量を調節する仕組みが存在することを突き止めました。
[論文] Dynein-based accumulation of membranes regulates nuclear expansion in Xenopus laevis egg extracts
Yuki Hara, Christoph A. Merten; Developmental Cell, 33, 562–575 (2015); PubMed

ツメガエルの初期胚では、細胞内に多数の卵黄顆粒が存在しています。この卵黄顆粒は、胚の動植物極(上下)で偏って存在しているため、発生後の動物極側の割球では卵黄顆粒は少なく、植物極側の割球では多く存在することになります。

 私たちは、動物極・植物極の細胞質成分の偏りが、細胞内構造に影響を与えるのではないかと考え、割球間で核のサイズを比較しました。すると、核サイズと細胞サイズの比率は変わらなかったのですが、植物極側の割球内の核が増大する速度は、動物極側に比べ小さいことが分かりました(上図グラフ)。さらに無細胞再構成系を用い実験を行うと、細胞質抽出液中に外部から添加した高濃度の卵黄顆粒により、核膜の供給が物理的障害を受け、滞ることを発見し(上図右側)、核サイズの増大速度を低下させていることを突き止めました。
[論文] Yolk platelets impede nuclear expansion in Xenopus embryos
Sora Shimogama, Yasuhiro Iwao, Yuki Hara;  Developmental Biology 482:101–113, (2022)  PubMed,

モデル生物のツメガエルは、アフリカツメガエルとネッタイツメガエルの2種が良く使われています。先行研究では、この2種のツメガエルの卵から、それぞれ細胞質抽出液が調製可能であり、そこから再構成される核のサイズが異なることが示されていました。つまりは、種特異的な細胞質による核サイズ制御機構が存在することとなります。

 私たちは、この2種のツメガエルの細胞質抽出液を調製し、2つの制御機構脂質膜の供給核内へのタンパク質の輸送能力)による影響を比較しました。その結果、2種のツメガエル間で、2つの制御機構の影響度が異なることが分かりました。図:それぞれの細胞質抽出液中で再構成した核の増大の様子(左グラフ:水色アフリカツメガエル;青色ネッタイツメガエル)と実際の核の様子(右写真)。
[論文] Differential contribution of nuclear size scaling mechanisms between Xenopus species
Hiroko Heijo, Christoph Merten, Yuki Hara; Development Growth and Differentiation 64:501–507, (2022) PubMed.