私は地球物理学的な手法によって、地球、月、惑星内部のダイナミクスと起源及び進化を理解すべく研究を行っています。現在の主な研究テーマは以下になります。
地球惑星のダイナモ
地球をはじめとして、太陽系内の惑星の多くには固有の磁場が存在することが知られています。これらは惑星中心部の外核で起きている発電作用(ダイナモ)によって作られています。また、地球磁場は約30億年間もの長期間、絶えず変動しながら生成維持されていることが知られています。つまり、地球磁場は地球中心部の進化を反映する物理量と捉えることができます。地球磁場を理解することで地球進化の過程を明らかにすることが私の研究の目的の一つです。更には、惑星の磁場を通じて地球と惑星の普遍性、そして地球の特殊性を磁場をキーワードにして理解することを目指しています。
地球や惑星の磁場を理解するためのアプローチは概ね三つに大別されます。直接観測、実験、シミュレーションです。私は主にシミュレーションを用いて、あらゆる観測事実を説明できるダイナモの再現を目指して研究を行っています。
● 地磁気永年変化と地磁気逆転のメカニズムの研究
地球磁場の時間変化のうち地球内部に起源を持ち、1年以上の周期での変動を地磁気永年変化と呼びます。永年変化には1年程度で起こる地磁気ジャークから、数千万年間続いたスーパークロンと呼ばれるものまで、非常に幅広い周期で変動します。こうした変動の中でも最も興味深い現象の一つが逆転です。地球磁場の極性が180度ひっくり返る現象で、その物理的なメカニズムは未だに完全には理解されていません。
こうした多種多様な地磁気永年変化を数値シミュレーションによって再現して、その物理を理解し、現象に対する地球物理学的説明を与えることを目指します。
● 国際標準地球磁場(IGRF)候補モデルの作成
国際標準としての地球磁場モデルであるIGRF (International Geomagnetic Reference Field)は5年毎に更新されます。第13世代モデルであるIGRF2020の候補モデルの提案を我国から初めて行うことを計画しています。ダイナモの数値シミュレーションとデータ同化を組合わせる手法でモデル作成を行います。
第14世代モデルの作成を含め、わが国から継続的貢献をするためには、人材育成が急務であると強く感じています。
月の起源と進化
人工衛星による磁場の観測は天体の起源と進化を理解するための重要な手段の一つです。私はこれまでに、月を対象として以下の研究を行っています。
● 月のダイナモ
月は私達にとって最も身近な衛星ですが、以前として未解決な謎の多い天体です。実は、過去に月のダイナモが存在していたかすら決着がついていませんでした。近年行われたアポロ時代採取した月岩石の再解析と、私達の研究グループによる「かぐや」衛星の観測データの解析から、月には約40億年前にはダイナモによる磁場が存在していたことが明らかになりました。ダイナモの存在は月の起源と歴史を理解する上で非常に重要な意味を持ちます。というのは、月に地球と同様に金属から成る核が存在することの直接的な証拠になるからです。
● 月のミニ磁気圏と月表層の電磁場環境に関する研究
今後の衛星による探査
● 月、水星の磁場探査
水星:BepiColombo (2018打上げ)
水星は私を含むダイナモ研究者にとって、現在最も注目されている惑星です。アメリカのMESSENGER探査機によって水星がコアのダイナモによって固有磁場を維持していることが確認されたのが2008年。その後極軌道での周回観測によって水星のダイナモが地球のダイナモとは大きく異なる特徴を持つことが明らかになりました。
現在、我々のダイナモモデルによって水星磁場の特徴は全て再現され、そのメカニズムも明らかになりつつあります。日欧協同のベッピコロンボ衛星による、より詳細な水星磁場観測と組み合わせることによって、水星の起源とその進化に迫れるのではないかと考えています。ベッピコロンボの水星への到着を心待ちにする日々がしばらく続きます。
月: SELENE2 => SLIM
氷衛星のダイナモと海
ガニメデ:現在、ダイナモによる磁場を持つ唯一の衛星。コアで鉄の雪が降ることによってダイナモが働いていると思われる。
エウロパ:内部海の熱対流は地球外生命とも関連する興味深い研究テーマでもある。木星による潮汐が鍵となっていると思われる。以前、ガリレオ探査機による磁場データの解析から内部海の厚さと電気伝導度の検討を行ったが、100kmオーダーの海が存在するのは確からしい。
エンスラダス:内部海は南半球にローカルに存在しているだけだと思われていたが、最近グローバルな内部海があることが判明したため、我々の研究のストライクゾーンに入った。南半球にだけプルームが吹く理由を内部海のダイナミクスと絡めて議論してみたい。
この手の話には潮汐が必ずと言っていいくらいに絡んでくるので、測地や粘弾性が重要。要は観測も理論も両方大切です。