日本地図学会定期大会の後援と特別セッションの開催

投稿日: Aug 03, 2016 7:50:54 AM

来たる平成28(2016)年8月8日~10日、日本地図学会の平成28年度定期大会が就実大学・就実短期大学キャンパスにおいて開催されます。FOSS4G分科会では、この大会の後援を行うと同時に8月9日15時30分から開催される特別セッションにメンバーが参加します。

http://jcacj.org/file/program/program2016.pdf 地図学会大会プログラム

特別セッションの要旨は以下のとおりです。

デジタル地図利用の現在・過去・未来とOSGeoの取り組み

地図学会定期大会 を岡山市にある就実大学・就実短期大学キャンパスで開催するにあたり、岡山市は日本の自治体GIS黎明期にGIS構築を行った自治体であることを思い出した方が学会関係者にいらっしゃったようです。調べてみると1984年に岡山市都市情報システム基本構想が策定され、1986年には岡山都市情報システムの一部(下水道管理)が運用開始されたとのことで、今から30年ぐらい前になります。(http://www.mlit.go.jp/crd/tosiko/GISguidance/pdf/04.pdf

そこで、当時のGISをめぐる社会状況を知る私(嘉山)に、その昔話を含めたセッションを本大会 でしてもらえないかという相談がありました。

30年前と現在を比較すると情報通信技術(ICT)の進歩と普及はすさまじいものがあります。インターネットやスマートフォンはもちろん、オープンソースソフトウェアの普及、さらにはオープンデータへの注目によって、ICTが市民生活の基盤になっているような時代がくるとは30年前の私には想像できませんでした。デジタルデータとして地理空間情報が日本でも本格的に扱われるようになって約30年の経歴の中で考えるに、近年は特にデジタル地図データに課せられる課題が急速に高度化していると思えます。従来は地図の解釈を人間が見て行っていた わけですが、近年では、機械(コンピュータ)による解釈と利用に対するニーズが急増しています(例えば、ナビゲーションデータや自動運転用のダイナミックマップなど)。

このように、デジタルな地理空間情報を人間が扱う場合の地図表現の問題と、機械で利用する場合のデータ構造や要件の両方が重要になってきています。当時の私に現在のデジタル地図データに要求される要件は予測できませんでしたし、これまで作成されてきたデジタルな地理空間情報も、機械が読むことによって何かの業務に用いられることが想定されていなかったように思います。

デジタル地図データを適切に扱うためには、何かしらのコンピュータプログラムが必要です。これまで長い間、GISプログラムは自作するか、商用のものを購入してきました。そこではプログラム作成技術や費用はもちろん、地理空間情報に関する基礎知識がなければ、その利用は容易ではありませんでした。他方、近年のオープンソースソフトウェア技術の急速な展開は、こうした障壁を後退させる契機の一つとなっています。

本セッションのメインテーマの一つである、The Open Source Geospatial Foundation(以下 OSGeo財団 http://www.osgeo.org/ )は、地理空間情報を扱うオープンソースソフトウェアの構築と普及を支援する世界的なコミュニティです。OSGeo財団が支援する各種プロダクトはデジタル地図データを多くの人が扱うための最良のツールになっています。またOSGeo財団ではICA(国際地図学協会)、ISPRS(国際写真測量とリモートセンシング学会)と共に「Geo for All」という地理空間情報の教育・研究のイニシアティブ活動を行っています(http://www.geoforall.org/ )。デジタル地図データに対する要求が高まる今だからこそ、それに関わる世界的団体の共同作業が開始されたといえるでしょう。

そこで、本セッションでは国内のOSGeo財団に関わるメンバーに登壇してもらいます。過去から現在までのデジタル地図データにかかわる話題提供、OSGeo財団の活動紹介、またGeo for Allの紹介を行うことで、オープンソースGISコミュニティと地図学会がコラボレーションできる可能性や課題をみつけたいと考えています。

発表要旨

○嘉山陽一 朝日航洋株式会社

本発表では80年代-90年代のICTやデジタル地図利用と現代の比較を行います。ICTとしてはハードウェアの低廉化、インターネットの普及、オープンソースソフトウェアの出現というような変化があり、それに伴ってデジタル地図の利用状況が変化していると思われます。そのような状況の変化に応じた課題を整理したいと思います。

○林博文 応用技術株式会社

私がデジタル地図に初めて触れたのは、応用技術株式会社に入社した後になります。応用技術株式会社は2DのAutoCAD互換CADを製造しておりCADのほうが触れる機会は多かったです。この2D CADをきっかけに、トヨタ自動車のクラウンに搭載する世界初のカーナビゲーションシステムの交差点拡大図等に関わることになり、デジタル地図の世界を知りました。その後環境モニタリング系の業務に携わっていましたが、2004年に本格的に関わることになります。弊社が代理店をしていたオートデスク社のMapGuide Serverが次のバージョンからオープンソースになるらしいという噂。これこそがOSGeo財団誕生のきっかけでした。紙地図からデジタル地図への変化の途中で、システム開発者として遭遇したさまざまな事象についてふれ、デジタル地図技術のパラダイムシフトがどのように起こったのか、OSGeoと出会うまでのデジタル地図利用システムの歴史とOSGeo以降の世界の様変わりを、OSGeoの活動紹介とともに振り返り、次に何が起こるのかをみなさんと考えましょう。

○寺元郁博 (国研)農研機構

農研機構は2009年1月に「基盤地図情報WMS配信サービス」を構築し、現在では「地図画像配信サービス」と名前を変えて公開してきました。

私は本来なら地図と関わりのない分野に身を置いていましたが、 2006年頃から地理空間情報を扱う必要が出てきました。この頃には、電子地図等に関するソフトウェアは数多くあり、オープンソースソフトウェア (OSS)に絞っても十分に存在していました。OSSに慣れていたので、特に注意も払わずに電子地図ソフトウェアの世界の隅っこに飛び込みました。ただ、自由に使える地図データが少なく、独自の地図ベースのアプリケーションを開発するのが困難でした。基盤地図情報の公開は、国内における電子地図利用としては画期のひとつでしょう。

ここでは、分野が全く違うところに居たはずの者が、参入のハードルが低いソフトウェア、データに触れ、何が起こってしまったかについて紹介します。

○瀬戸寿一 東京大学空間情報科学研究センター

OSGeo財団は、オープンソースGISソフトウェア開発と平行して、主に大学研究者が中心となりオープンソースGISによるGIS教育に関する啓蒙や教材開発に係る活動を長年行ってきました。他方、世界規模かつGIS・地理学を専門としないユーザーといった多様な主体が、GISや地理空間情報を活用する場面も近年多くなってきています。したがって、社会におけるGIS利用の障壁を下げることや多様なニーズに応えるためにも、オープンに利用可能なソフトウェア・データ資源の重要性が一層高まっているといえます。

こうした「GISと社会」をめぐる状況を背景に、OSGeo財団は2011年9月にICAと了解覚書(MOU)を締結し、学校教育のみならず「GISと社会」を担っていく産業分野や行政機関をも含めた全ての人々が、オープンソースGISとオープンデータによる人材育成プログラムに接することができるようなカリキュラムと教材開発を目指すイニシアティブとして「Geo for ALL」を発足させました。2014年からはISPRSも参加し、オープンな地理情報科学を目指すためにGeo for ALLを推進するための大学・ラボネットワークを募り、2016年7月時点で110組織(日本からは、大阪市立大学創造都市研究科・東京大学CSIS・青山学院大学地球社会共生学部など)が参画・賛同しています。

そこで本発表は、Geo for ALLの全体像を解説するとともに、本イニシアティブとして特に重視されている近年のGIS技術・トレンドを背景とするテーマ別の活動事例についてご紹介します。