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5. Recent research

5-1 ミジンコの単為生殖では、「減数しない減数分裂」が起こる
 単為発生卵が成熟する過程では2回の連続した分裂が起こる(図下段)。第1減数分裂前期に相同染色体の対合が起こり、この二価染色体は赤道面に並んで分裂中期となる(図A)。
その後、両極へと分かれ始め後期になるが、その早い時期に分裂が停止する(図B)。そして分かれかけた染色体は再び赤道面に戻って並び直し(図C)、第2減数分裂に
相当する分裂を行って2倍体の卵となる。これは、通常の減数分裂過程と比較すると(図上段)、第1減数分裂に相当する分裂がスキップされていることになる。この発見は、
有性生殖と単為生殖において減数分裂と体細胞分裂という全く異なる細胞分裂機構を使い分けているとされていた先行研究を覆すものであった(業績1)。

5-2 ミジンコの単為発生では、中心体のない樽型の紡錘体が形成される  
ミジンコの単為発生卵で起こる「減数しない減数分裂」の細胞学的な特徴を明らかにするために、分裂装置の構成や挙動を解析した。
紡錘糸を構成するαチューブリン、中心体を構成するγチューブリンの免疫染色を行った。
その結果、単為発生卵には中心体のない樽型の紡錘体が観察され、γチューブリンは通常の紡錘体とは異なり中心体があるはずの両極ではなく
紡錘糸上に局在することが明らかになった。その後、単為発生卵では卵割が開始するまでに新規に中心体が形成されていた。
γチューブリンの局在は、減数しない減数分裂で鍵となる第1減数分裂の途中での停止とスキップに関わっていること、単為発生を実現するには
中心体が新規に形成されるメカニズムが必要であることが示唆された(業績2)。

5-3 ミジンコの胚へのマイクロインジェクションによるRNA干渉(RNAi)法の確立
 卵へのマイクロインジェクション法は、トランスジェニックの作製やRNAi、細胞標識などを行うために、様々な生物において広く用いられている。
近年、ミジンコ(D. pulex)は甲殻類で初めて全ゲノムが解読され、ゲノム研究の基盤が整ってきており、進化発生学のモデル生物として注目されている。
さらに、ミジンコは、単為生殖で雌雄を産み分けたり、単為生殖と有性生殖を切り換えたり、その生活史が多様であることからも、性分化や生殖機構を明らかにするための
モデル生物となりつつある。したがって、マイクロインジェクション法を確立することにより、遺伝子の機能解析において飛躍的に研究の幅が広がることが期待される。
すでにオオミジンコ(D. magna)のマイクロインジェクションによるRNAi法が確立されている(Kato et al., 2011)が、ミジンコにおいては、マイクロインジェクションが成功していなかった。
オオミジンコと比較して、卵の大きさが小さいミジンコでは、針を注入した際に細胞が破裂したり、致命的な傷害を受けたりしやすいなどの問題があった。
産卵直後の胚を親個体の育房から取り出しても正常に発生する培養条件を検討し、続いてRNAiを試みた。ホメオボックスを持つ転写因子で、節足動物では付属肢の遠位部形成に関わるDistal-lessDll)遺伝子のノックダウンを行った。その結果、近縁種であるオオミジンコと同様に付属肢の遠位部の形成阻害等の表現型が得られ、遺伝子の発現解析等の結果からも、RNAiが機能していることが示された(業績6)。

  RNAi法により胚発生初期において遺伝子の機能解析が可能となったが、解析可能な時期が一時的であるという問題点を抱えていた。そういった中、これまで一部のモデル生物に限られていた標的遺伝子の改変が、人工制限酵素を利用した新しいゲノム編集技術の開発により、原理的には全ての生物で可能になった。そこで、人工制限酵素のひとつであるPlatinum TALENを用いてミジンコの標的遺伝子破壊法の確立を行った。RNAi法に続き、標的遺伝子としてDll遺伝子を選定した。
まずDll遺伝子を標的とするTALENのmRNAを合成し、マイクロインジェクションにより産卵された直後の胚に導入した。その結果、付属肢の遠位部の形成が阻害された表現型が得られた。続いて、TALEN導入個体のDll遺伝子の塩基配列を確認したところ、数塩基の欠失が認められ、さらにその変異が次世代に受け継がれることも確認できた。このことから、ミジンコにおいてTALENを初期胚に導入することで、標的遺伝子を破壊してその機能を解析することが可能になった(業績10)。

プレスリリースはこちら。科学新聞にも掲載されました。