現在の研究内容

明日の臨床に貢献するための translational research生命科学の理解を深めるための basic scienceの両方を推進しています。


RNA (コーディングおよびノンコーディングRNA) と消化器疾患:

今でこそ たくさんの研究者が参入していますが、大塚が留学中からmicroRNA研究に従事していたこともあって、 microRNA などの non-coding RNA (遺伝子をコードしないRNA) に早くから着目し、non-coding RNA の観点からみた消化器疾患の病態生理解明、診断応用、治療応用を目指して 研究に従事しています。

特に現在は下記の項目を中心に 研究を進めています。


a) RNA機能の異常と消化器癌の発生・病態

b) 炎症性発癌・加齢・代謝性肝疾患におけるnon-coding RNA異常と病態

c) 肝炎ウイルスと non-coding RNA の相互作用と病態

d) 新規膵癌マーカー・細胞外微粒子での検出

e) Retrotransposon および non-coding RNA と膵発癌

f) 生活嗜好品(ポリフェノール・カフェインなど)がRNA機能に及ぼす影響とその臨床応用

など。

 

反復配列RNAの異常発現による膵発癌機序解明と膵癌早期診断法の開発:

膵癌は予後が悪く早期発見・早期治療が重要です。そのためにも早期診断マーカーの開発は急務です。我々は膵癌特異的な異常RNAに着目しその高感度定量による革新的な膵癌早期診断マーカーの有用性の検討を進めるとともに、発癌プロセスにおいて それらの異常RNAが惹起する病態生理を解明しそこに介入することによる癌化の予防法の開発にも取り組んでいます。


#タンパク質翻訳後修飾と膵発癌

タンパク質は翻訳された後、種々の修飾を受けることによってその機能や局在、寿命が決定されます。ここにはゲノム解析、転写解析では捉えることのできない、生命現象の水際での空間時間的な多様性が広がっています。究極的にはゲノムの変異や転写の異常で語られる発癌過程ですが、翻訳後修飾機能の異常によっても癌が引き起こされることは十分に考えられます。我々は非典型的なユビキチン化修飾を起こすユビキチン関連酵素に着目して、これらの過剰発現が引き起こす「ユビキチン発癌」ともいうべき現象についてその証明と機序解明に取り組んでいます。


# 細胞外微粒子の解析と応用:

エクソソームをはじめとした細胞外微粒子は、我々のイメージをはるかに超えて、相当量が血液中を駆け巡っていることが分かってきています。この小さな脂質の膜が情報伝達因子について、「中身を調べる」、「パッケージを調べる」、「送り主を調べる」などあらゆる角度から解析を進め、種々の消化器病の病態解明・治療応用を目指した取り組みを行っています


Liquid Biopsy:循環腫瘍細胞の高感度定量と precision medicine への応用法の開発:

血液中に微量に流れる腫瘍細胞(循環腫瘍細胞:Circulating tumor cell, CTC)は、癌の転移に関わっている可能性があります。また腫瘍の性質をそこから非侵襲的に検討できる可能性もあります。将来、実用化されるであろう CTCの高感度検出と遺伝子解析、及びその臨床応用について、我々は 今から様々な面で検討を始めています。また、上述の血中RNAとともに、腫瘍由来のcell free DNAも捕捉し解析することで臨床的に貢献できないか、いわゆる「liquid biopsy」の開発を進めています。 


細胞分化と一細胞解析、空間解析

腸上皮や そこに入り込む免疫担当細胞、あるいは、肝組織とそれを構成する細胞たち、等、組織構築とその破綻における細胞分化とその異常は 様々な病態形成に関わっていることは間違いありません。マウスとヒトでは様々な面で異なることが想定されているため、我々としてはあくまでもヒト組織での詳細な解析を可能とするべく、in vitro での細胞分化と組織構築、その破綻状況を再現し、そこに さらに一細胞解析、空間解析などの網羅的解析を加えることで、あらたな介入法の開発に繋がる病態の解明をめざしています。


肝炎ウイルスが惹起する細胞内シグナル伝達の修飾・B型肝炎の完全排除法の開発:

大塚が大学院生の時、当時の小俣政男教授・加藤直也先生の指導のもと、基礎研究に従事するきっかけになったテーマです。

最近は 治療が進歩してウイルス駆除が比較的効率よくできるようになってきたためか、ウイルス肝炎に興味を持つ人が少なくなってきましたが、個人的にはずっと関わっていきたいテーマです。肝炎ウイルスはインターフェロンシグナル研究やウイルス発癌研究の良いモデルですし、まだまだ医学的・医療的にも打開しなければいけない点があります。

特に現在は「HBVのcccDNAの駆逐と発癌予防」が最大のテーマです。当グループとしてはRNAの観点から、多くの他施設の先生方と協力しながら、病態を解析し、革新的な介入法を開発し、臨床的に貢献していくべく研究を進めています。


加齢と発癌:

超高齢化社会を迎え、エイジングに伴う疾患発症の予防は大テーマだと思います。2015年に新潟大学の南野教授のお計らいで抗加齢学会に参加させていただいて ますますその思いを強くしました。加齢に伴う疾患危険度の増加は、消化器病分野、特に消化器癌の分野でも例外ではありません。当グループとしては、このテーマについても、やはり「RNA」の観点から、斬新な発想のもと研究を強力に進めて、健康長寿社会の確立に大きく貢献できるようにしていきたいと考えています。