主な研究結果概説

#膵癌由来の細胞外小胞は 脂肪細胞への指向性を持ち 脂肪分解を促進する Clin Transl Med. (2022.11.1.記)

柴田智華子、大塚基之、清宮崇博、岸川孝弘、石垣和祥、藤城光弘

Lipolysis by pancreatic cancer-derived extracellular vesicles in cancer-associated cachexia via specific integrins.


膵癌患者さんは早期から体重減少を来すことが多いですが、その原因の一端に「膵癌細胞由来の細胞外小胞の脂肪細胞への指向性が関与してる」ことを明らかにした研究です。そこへの介入による癌悪液質の新しい治療法の開発や、この知見を良い方に使って、やせ薬の開発などにも応用できるかもしれません。

この研究内で使った「血清中の雑多な細胞外小胞集団から膵癌由来の細胞外小胞を単離する方法」、他の研究にも活用できるかもしれません。ぜひ共同研究に繋がれば嬉しいです。

この研究は、細胞外小胞研究の第一弾になります。知識も技術もなく細胞外小胞の実験系の確立から始まった研究ですが、患者さんの血清から膵癌由来の細胞外小胞のみを集めてくる手法の確立、Nanosuit法による水分を保持したままの電顕撮影法、HibiT tagによる細胞外小胞のin vivoでの分布追跡、データベースの活用、などなど、大学院生で学振特別研究員(DC1)の柴田智華子先生、獅子奮迅の活躍ぶりでした。CREST班にいれていただきdiscussionできたおかげでもあります(幸谷先生、渡邉先生、ありがとうございました)。もっといいジャーナルに掲載されても良かった内容じゃないかとも思うのですが、遅れての参入で新規性に若干のハンデがありましたね。でも、「臨床的な疑問を 研究で解明する」典型的な ”reverse translational research” が実践できたのはよかったです。

早期癌という局所の病変が、体重減少という全身性の症候を来す、その間をつなぐものとしての「細胞外小胞」・・・いい視点でした。

ちなみにこの journal は初めて投稿してみましたが、うーん・・・・結構 やり取りに苦労しましたね。

なお、この内容は東大病院およびJSTから共同でプレスリリースをして頂きました。

リリースそのままですが日経新聞オンライン日経バイオテクQLifePro. そして連絡のあった時事通信さんにもとり上げて頂きました。

2023.1.6. 記載:JSTの広報誌 JST News でも取り上げて頂いています

2023.1.15. 記載:日経バイオテクオンラインに取材記事を載せていただいています

2023.1.27. 記載:JST News の中国語版も公開されました。



#「大腸癌術後化学療法の適応判断におけるctDNAの重要性」の論文に対するコメント New Engl J Med. (2022.11.1. 記)

大塚基之

Circulating Tumor DNA Guiding Adjuvant Therapy in Colon Cancer.


NEJMに掲載された「大腸癌術後化学療法を行うかどうかについて、血中のctDNAを参考にして決めることで不必要な治療を避けることができる」という論文を読んで、「消化管癌の内視鏡的粘膜下層剥離術ESD後の追加切除の決定にもその手法が応用できるのではないか」というコメントを送ってみました。日頃思っていたことを記載しただけでしたが、意図することは伝わったみたいです。”Critical reading” みたいな高尚なものでなくても、日頃から臨床上の問題意識や研究への展開意識を持ちつつ論文を見ることが大事ですね。

これは 単なる ”Letter to the editor” であって論文ではないですが、NEJMに掲載されるというのは ちょっと嬉しいものです。ちなみに、あくまでも個人的な見解を記載しただけなので、敢えて単独名で投稿しました。



# HBxによるSmc5/6蛋白分解を介したHBV発癌機構 J Hepatol. (2021.9.1. 記)

關場一磨大塚基之船戸和義宮川 佑田中恵理清宮崇博山上まり堤 武也奥新和也、宮川 敬、梁 明秀、小池和彦

Hepatitis B Virus X Protein-Induced Degradation of Smc5/6 Complex Impairs Homologous Recombination-Mediated Repair of Damaged DNA.


HBxによるSmc5/6蛋白分解がもたらす病態生理の解明、今回はウイルス複製に関してではなく、肝発癌に関してです。 「ウイルス感染中に Smc5/6蛋白(=損傷DNAの回復作用も持つ)が分解されることによって、肝細胞のDNAの損傷修復が不完全になり発癌する」という、新たなHBxに始まるB型肝炎ウイルス発癌の機構を同定しました。逆に、以前に報告したSmc5/6の分解を抑えるnitazoxianideなどは「ウイルス複製を抑えるだけでなく、肝発癌も抑える」二重の好ましい作用があることが想定されます。

この研究は、現在スタンフォードに留学中、当時は特任臨床医だった關場先生が膨大なリバイズ用の実験を経て、ようやくアクセプトされました。途中、パンデミックが発生したり留学準備もあったりして、リバイズに1年以上かかってしまいましたが、報告できてよかったです。

上にも記載しましたが、HBx-Smcを標的とした新規治療はHB抗原陰性化をめざす新たな治療法になるだけでなく、ウイルス蛋白の発現を抑制すること、および、今回のSmc5/6蛋白の復活によるDNA損傷の蓄積を防ぐことでB型肝炎ウイルス関連の肝発癌を抑える作用も発揮でき、色々な意味でいい効果を産み出すのではないか、と考えています。今後、臨床的にどのように展開していくか・・・

HBxは色々な作用を持つウイルス蛋白で、小池前教授によるトランスジェニックマウスの報告以降 永らく肝発癌作用があることは言われ続けていたわけですが、今回その機構の一端を解明できたのも良かったです。

この内容については 東大病院 および AMEDから共同でプレスリリースをして頂きました。



# ヒト膵管上皮細胞における Kras遺伝子変異がもたらす代謝リプログラミング Cancer Gene Ther. (2021.4.8. 記)

鈴木辰典、岸川孝弘、佐藤達之、武田憲彦、杉浦悠毅、清宮崇博、關場一磨、大野元子、岩田琢磨、石橋 嶺、大塚基之、小池和彦

Mutant KRAS drives metabolic reprogramming and autophagic flux in premalignant pancreatic cells.


膵癌(にかぎらず多くの癌)ではkRas遺伝子変異がほぼ必発なわけですが、不死化した正常ヒト膵管上皮細胞と大腸上皮細胞にKras遺伝子変異を導入したときの細胞内代謝変化について検討した論文です。癌細胞でも見られることですが、糖とグルタミン依存性が高まり、ある種のアミノ酸が枯渇するという現象が見られました。枯渇を補うためかオートファジーが亢進し、これを阻害すると細胞増殖も遅くなる、ということを報告しています。まだ完全に癌化する前から、kRas遺伝子の変異だけでも 細胞レベルでは さまざまな代謝変化が起きていることと、そういった前癌病態からの発癌を防止する可能性を提示しています。

この研究は、現 自治医大の 武田憲彦 先生、佐藤達之 先生、そして慶應大学の 杉浦悠毅 先生の御協力・御助言が無ければ、なしえませんでした。「メタボローム」という未知の分野に無謀にも入って行ってしまったため結構つらい闘いでしたが、この研究を通して、研究者としてのネットワーク、コラボレーションの大切さを身に沁みて感じました。皆さまのサポート、どうもありがとうございます!



# 膵癌で異常高発現している環状RNAの新規同定 J Hum Genet. (2020.9.16. 記)

清宮崇博、大塚基之、岩田琢磨、田中恵理、關場一磨、柴田智華子、森山 優、中川 良、丸山玲緒、小池和彦

Aberrant expression of a novel circular RNA in pancreatic cancer.


環状RNAという不思議なRNAに特化した次世代シークエンシングによって、膵癌組織で高発現している環状RNAを網羅的に同定しました。そのうち、「正常組織での発現量が少ないもので、かつ、これまでに報告の無い新規の環状RNA」について、全長配列の決定と、その他、機能解析を行いました。最終的に、血中に微量に存在するこの環状RNAを検出することで新規のバイオマーカーとして応用しよう、という方向性でまとめています。

環状のRNAという通常のRNAに比べて(端っこがないぶん)安定なものが相手であり、かつ新規に同定した配列なので、新しい膵癌マーカーとして期待が持てます。膵癌を取り巻く現状を考えると、様々なバイオマーカーを用いてでも、とにかく なんとかして囲い込みをしなければ・・・

田中恵理先生の大腸癌でのCDR1-ASに続く環状RNAシリーズです。全長配列を決定したところまでは良かったですが、機能解析について色々試行錯誤してみたものの、なかなかはっきりとした働きが浮かばなかった点が残念でした。しかし新規の膵癌マーカーとしての応用は、うまく高感度な核酸検出法とマッチすれば、期待が持てます。今は digital PCR を用いてますが、もっと簡便な検出法があれば、臨床応用に向けて進めていきたいです。色々大変でしたが、学振特別研究員でもある清宮崇博先生が、粘りと根性!で まとめてくれました。

がん研の丸山先生にはNGSの解析で、大宮シティクリニックの森山先生、中川先生には臨床検体の収集で、大変お世話になりました!いつもありがとうございます。J Hum Genet の editor さんも 親切に follow をしてくれました。

この内容は、東大病院、および、AMEDから共同でプレスリリースをしていただきました。

医療NEWS QLifeProOncology Tribune で取り上げていただきました。

とあるブログ東京大学公式Twitter でも取り上げていただいています。

上記の趣旨で、簡便な高感度核酸検出技術を持つ先生と 今後 共同研究ができれば嬉しいです。



HBV cccDNAからのウイルスRNA発現を効果的に抑制する薬 Pevonedistat の同定 Hepatology (2019.1.11. 記)

關場一磨、大塚基之、大野元子、山上まり、岸川孝弘、清宮崇博、鈴木辰典、田中恵理、石橋嶺、船戸和義、小池和彦

Pevonedistat, a first-in-class NEDD8-activating enzyme inhibitor, is a potent inhibitor of hepatitis B virus


CMGHに報告したニタゾキサニドは、HBxタンパクと宿主DDB1タンパクの結合を標的として、cccDNAからのウイルスRNA転写抑制因子Smc5/6蛋白の分解を防いでウイルスRNAの発現を抑えるものとして、化合物の網羅的スクリーニングの結果 同定しました。

今回報告した pevonedistat は Smc5/6蛋白の分解に必要な「neddylation」の阻害剤であることから、これを使えばSmc5/6蛋白の分解を防いでウイルスRNAの発現を効果的に抑止できるのではないかという仮説を最初に立てて、それを検証していった(candidate approach をとった)結果です。実際ウイルスRNA、ウイルス蛋白の産生抑制効果が高く、周り廻ってと考えられますが、cccDNAの減少効果もみられます。

Pevonedistat は 血液系の疾患に対する治験の効果が報告されている薬剤であり、今後 抗HBV作用についても期待したいです。

HBV複製に関わる実験手法が ある程度確立してきていることもありますが、ニタゾキサニドの研究と前後してこの研究を完成した關場先生のスピード感は見習いたいところです。ふたりの reviewer のコメントも建設的で、コメントに できるかぎり一生懸命 応えたのも奏功しました。ただし、ニタゾキサニドと同様に、応用研究は論文化が目的ではなく 現実に実用化されるかどうかが重要なので、今後の展開に期待したいですし、我々も継続的に関わっていきたいと思います。

なお、この内容は、東大病院、および、AMED から共同でプレスリリースをしていただきました。

医療ニュース QLife Pro 日刊工業新聞 などで取り上げていただきました。



# ニタゾキサニドはHBx-DDB1結合を阻害することで、HBV cccDNAからのウイルスRNA発現を減らす CMGH. (2018.10.26 記)

關場一磨、大塚基之、大野元子、山上まり、岸川孝弘、鈴木辰典、石橋嶺、清宮崇博、田中恵理、小池和彦

Inhibition of HBV transcription from cccDNA with nitazoxianide by targeting the HBx-DDB1 interaction


HBxタンパクと宿主DDB1タンパクが結合することは以前から分かっていましたが、2016年に「その結合によってウイルスcccDNAからのRNA転写抑制因子であるSmc5/6タンパクの分解が起きることで、ウイルスRNAが発現する」という報告があり、それを背景にHBxとDDB1の結合を阻害する化合物のスクリーニングを行い nitazoxianide という欧米で抗原虫薬として既に認可されている化合物を同定しました。

Split luciferase や HBV minicircle DNA などといった 新規手法を各種取り入れながら抗HBV効果(ウイルスRNA転写抑制・cccDNA減少効果)を確認しました。もともとnitazoxianideには 種々の抗ウイルス作用があることも知られており、以前、本邦でも中外製薬が抗HCV薬として導入しようとしたこともある薬剤です。今後 Drug repositioning として、現在使われている核酸アナログとは異なる新規作用機序を持つ抗HBV薬としての臨床応用の可能性を探っていきたいと思います。

關場先生が中ベン時代の2016年末から始めていた研究のひとつが論文化されました。新しい知見や新しい手法を積極的に取り入れて研究を進める姿勢・モチベーションの高さ・スピード感は、見習いたいですね。ただし、応用研究は論文化が目的ではなく 現実に実用化されるかどうかが重要です。今後の展開に期待したいですし、我々も継続的に関わっていきたいと考えています。2018年アメリカ肝臓学会(AASLD)でも關場先生が口演発表の予定です。

なお、この内容は、東大病院、および、AMED から共同で、プレスリリースをしていただきました。

医療NEWS QLifePro でも取り上げて頂きました。医療情報サイトm3.comをはじめ、種々の媒体にも載せて頂いています。

CMGHのEditorialでも取り上げて頂きました(Prof. Lishan Su)。

2018.12.1.の読売新聞夕刊でも取り上げて頂きました。

その後 Romark社との共同研究、特許取得にも進んでいます。RomarkはこれをきっかけにGlobalのPhaseIIを始めています。結果に期待。



# 老化した細胞での IFN stimulated genes の発現は IFN刺激の古典的経路に依らないシグナルを介する npj Aging Mech Dis. (2018.11.23.記)

山上まり、大塚基之、岸川孝弘、關場一磨、清宮崇博、田中恵理、鈴木辰典、石橋嶺、大野元子、小池和彦

ISGF3 with reduced phosphorylation is associated with constitutive expression of interferon-induced genes in aging cells.


高齢化社会をむかえて、あきらかに老化に伴う発癌が増えてきていることを病棟で体験するにつけ、老化による癌化のメカニズムを解明したく、ヒト初代細胞を使った実験をしてみました。老化した細胞は多くの種類の炎症性サイトカインを分泌しますが、まず それが何故なのかを知りたくて検討したのがこの研究です。いろいろありますが、要は「特にIFN刺激によって発現してくる遺伝子群が古典的なIFN経路によって発現しているのではない」ということを示しました。まだまだ きっかけに過ぎないですが、今後 老化と発癌のメカニズムに進めていければ、と思っているところです。

山上先生は大学院3年生ですが、この研究中に産休2回、育児をしながらの研究、とても頑張っています。時間はかかりましたが、とりあえず形になってよかったです。女性医師・研究者のロールモデルになって欲しいですね。初めての老化関連研究で未熟なところも多々あったのですが、editor の 南野先生や今井先生、reviewerの皆様に、多大なサポートをしていただいたこと(たぶん)、本当に感謝しています。この journal、Nature publishing group のサポートも得て、今後 ますますいい journal になることを期待しています。



# マウス反復配列RNAの発現はDNA damageの蓄積させ 膵癌の形成を早める Mol Can Res. (2018.5.13 記)

岸川孝弘、大塚基之、鈴木辰典、清宮崇博、關場一磨、石橋嶺、田中恵理、大野元子、山上まり、小池和彦

Satellite RNA Increases DNA Damage and Accelerates Tumor Formation in Mouse Models of Pancreatic Cancer


膵がんにおける反復配列RNA シリーズの第三弾になります。反復配列RNA発現トランスジェニックマウスの組織解析を中心に、2年前に Nat Commun. に報告した「反復配列RNAの異常発現が DNA damage の修復を阻害して細胞の癌化に関わる」という研究内容を、in vivo で示した論文になります。反復配列RNAの全身発現マウスを使っていますが、皮膚の良性腫瘍やリンパ腫ができるとともに、膵Kras変異マウスと交配すると膵がん前癌病態とも言える PanIN 形成が早まることを見いだし、反復配列RNA の異常発現が癌化促進に働いている可能性を示しています。

細胞癌化のメカニズムのうえで、反復配列RNAの異常発現は かなりアブナイ機能を持っているようです。今後は、ふだん発現していないはずの反復配列RNAが、なぜ発現してきてしまうのか? 発癌予防のために反復配列RNAの作用を抑える、あるいは機能を抑制することが出来ないか? といったことが、だいじな検討課題だと考えていて、岸川先生留学以降も、研究を続けています。

なお、この内容は、東大病院、および、AMEDから共同で、プレスリリースをしていただきました。

Mol Can Reshighlights にも取り上げて頂きました。図が載ってます。



# 慢性炎症に続発する大腸がんの機構解明と予防法の開発 Gastroenterology. (2016.11. 30. 記)

吉川剛史、Wu JF、大塚基之、岸川孝弘、鈴木伸三、高田朱弥、大野元子、石橋 嶺、山上まり、中川 良、加藤直也、宮澤正顯、Han J、小池和彦

Repression of microRNA Function Mediates Inflammation-associated Colon Tumorigenesis 


慢性炎症に続発するがんの発症機構の一端を、マウスの慢性炎症続発性大腸腫瘍モデルを用いて解明しました。

慢性炎症にさらされると、microRNAの機能が低下し、以前 我々が報告したDicerのノックアウトマウスの状態に近似した状況(発癌のobligate haploinsufiiciency = Dicer の発現が半分程度に落ちると易発癌性を呈する)になるために、癌ができやすくなることが示唆されました。実際、これも我々が以前報告したmicroRNA機能増強作用を持つROCK阻害剤を大腸炎マウスに投与すると、腫瘍形成が抑制されることが示されました。

「慢性炎症と発癌」は大事なトピックですが、今回の結果は、大腸癌だけでなく慢性炎症に続発する癌(胃癌、肝癌、膵癌など)で共通した発癌メカニズムになっている可能性があり、そうであれば、共通した癌予防法を提唱できる可能性があります。

この論文は数年前に骨子は完成していたのですが、紆余曲折を経て、今回の発表となりました。アクセプト後も、on-line での論文公開とプレスリリース準備の競争のようになって、関係各位には大変な労力をおかけいたしました。最後まで紆余曲折。

大塚が「さきがけ」で採択していただいたテーマでもあり、思い返せば 経過中いろいろなことがありましたが、それはともかく、「慢性炎症と発癌」という、臨床的に極めて重要な分野に、大きなインパクトを与える大切な知見だと思います。

たくさんの人に助けられたことも特筆すべきことです。医科研の中川先生のBioinfomatics解析、近畿大学の免疫学教室 宮澤教授からのA3ノックアウトMEFの供与、Xiamen大学のWu先生・Han先生によるマウス実験のサポート・激励、朝日生命成人病研究所の鈴木伸三先生によるマウスの実験サポート、その他、高津聖志先生・古市泰宏先生をはじめとする さきがけ でご一緒させていただいた先生方、JSTの方々、研究費のサポートをしてくださった財団の方々、東大病院のPRセンターの方々などなど、この研究を通して 本当にいろいろな人に出会い、そして、お世話になりました。この場を借りて深く感謝申し上げます。

今回の研究結果をもとに、さらに「慢性炎症と発癌」の普遍的な機構を検討しつつ、効果的な発癌予防法の開発、予防医学への展開につなげていきたいと考えています。



# サテライトRNAの発現によるゲノム修復因子YBX1の機能阻害を介した膵発癌機構 Nat Commun. (2016.9.26. 記)

岸川孝弘、大塚基之、吉川剛史、大野元子、伊地知秀明、小池和彦

Satellite RNAs promote pancreatic oncogenic processes via the dysfunction of YBX1.


反復配列RNAシリーズの第二弾。IPMNの段階から発現している反復配列RNAの機能を解析しました。膵前癌病態の細胞に反復配列RNAを発現させると、ゲノムDNAの変異やミトコンドリアDNAの変異がより蓄積し、悪性化に働いている可能性が示唆されました。反復配列RNAとの結合蛋白を同定したところYBX1というタンパクが釣れてきましたが、これはDNA修復に関与する因子で、反復配列RNAの過剰な存在によって、YBX1の核内移行が妨げられゲノムDNAの修復がうまくできなくなる、という機構が分かってきました。前癌病態から癌化するまでの過程でなぜ遺伝子異常が蓄積してしまうのか、その謎を解く手掛かりになるとともに、うまくそこに介入して、前癌病態のまま維持するような発癌予防法の開発にもつなげたいと思っています。

この論文も3人のreviewerが付きましたが、皆さんに興味を持っていただき、とても建設的なコメントを頂きました。

「反復配列RNA」という、相手しずらいものを扱ったこともあって、この研究は始めた時から 論文化するまで5年くらいかかってしまいました。でも、おかげさまで極めて大事な知見が得られたのではないかと思います。先行発表したヒトでの膵癌スクリーニングへの応用とともに、発癌機構の解明に基づく癌予防法の開発など、臨床に応用できるように展開させていきたいと考えています。

この研究のプレスリリースの内容はこちら

この内容は メディカルトリビューン で取り上げて頂きました。



# 血清中のサテライトRNAの測定による膵癌患者スクリーニング法の開発  JCI Insight. (2016.6.3.記)

岸川孝弘、大塚基之、吉川剛史、大野元子、山本恵介、山本夏代、幸谷愛、小池和彦

Quantitation of circulating satellite RNAs in pancreatic cancer patients.


早期発見が難しく予後の悪い消化器癌の代表でもある膵癌で高発現しているnon-coding RNAの一種である反復配列RNAの高感度定量法を開発しました。この方法を用いて0.4ml の血液中の反復配列RNAを測定すると、膵癌およびその前癌病態をとらえることができます。そもそも この反復配列RNAは正常組織では発現していないので、例えば最近よく研究されている血中microRNAや代謝産物の変化のように「(正常よりも多いか少ないかといった)量の変動」でとらえるのではなく、「有るか無いか」でしっかり判定できるメリットがあります。この反復配列RNAの定量は通常のPCRでは難しいため、今回 測定法を少し工夫したのですが、これによって、癌の早期発見に有用になるだけでなく、これまで手がつけられなかった反復配列RNAの未知の生物学的機能の研究などにも広く貢献できそうです。

この論文の審査過程では、editor にも、3人の reviewers にも、極めて建設的な意見を頂くとともに たいへん高評価をしていただきました。

本方法は、現時点では測定に工夫があるぶん、若干 工程が煩雑なため、今後は誰でも安定した結果が得られるようにキット化を目指すとともに、さらに多数例で臨床試験をおこなって有用性をしっかりと確認したうえで、精度を高めつつ検診などでも広く使えるように普及をさせていきたい、と考えています。

この研究のプレスリリースの内容はこちら

この研究成果は、メディカルトリビューン日経バイオテクon-line朝日新聞時事通信読売新聞などで取り上げていただきました。

(ちなみに、この日経バイオテクの記事、実現するといいですね・・・)

この研究内容は、JCI が出している広報誌 JCI this month の Editor's picks にも取り上げていただきました。


2016.8.28.追記: ありがたいことに、いくつかの検診センターからも導入の問い合わせを頂いております。私たちの研究成果に御興味を持っていただき とてもありがく思っております。現在、目的・目標に賛同してくれる企業さんと共同で、大量の需要にも迅速に結果が返せるようなシステムの検討を始めつつあります (2016年8月末現在)。並行して、さらなる簡便化・効率化も研究中です。私たちも、研究成果を広く使っていただいて、人々の健康に貢献したいと考えています。今後とも宜しくお願いいたします。



# HBV mRNAとlet-7の相互抑制作用 Scientific Reports. (2016.3.18.記)

高田朱弥、大塚基之、大野元子、岸川孝弘、吉川剛史、小池和彦

Mutual antagonism between hepatitis B viral RNA and host microRNA let-7.


ウイルスRNAによるmicroRNAのdecoy作用。ウイルス複製時の中間産物であるウイルスRNAに、病態に関わる作用がある(ここでは宿主microRNAのひとつであるlet-7の吸着作用)ことを示したものです。いっぽう、let-7にもウイルスRNAからの蛋白合成阻害作用があり、お互いに拮抗している可能性が示されています。Let-7は強力な癌抑制作用をもつmicroRNAなので、ウイルスRNAによるlet-7の抑制はウイルス肝炎による癌化の機序にも関わっている可能性があります。ウイルス肝炎をマネージメントするときの治療標的としての可能性があります。

この研究の「ウイルスRNAによるdecoy作用」はとても面白い概念だと思うのですが、開始から論文化するまで労力の問題などでだいぶ時間がかかってしまい、途中に同様のアイデアが他所からいくつか出てしまって noveltyが減ってしまいました。まだまだ本当は詰めなければいけない点があったのですが、大事な結果なので とにかく世に出すことを最優先しました。



# MICAの分泌を制御する化合物のスクリーニング法の開発  Biochem Biophys Res Commun. (2015.8.31.記) 

岸川孝弘、大塚基之、大野元子、吉川剛史、佐藤雅哉、小池和彦

Development of a Screening Method to Identify Regulators of MICA Shedding.


MICAシリーズ第3弾。MICAは細胞外に分泌されるとdecoyとして働いて免疫反応を抑制してしまうことが想定されるため、その制御をするための化合物スクリーニングを簡便にレポーターベースで出来るよう系を樹立しました。この系を使って何かの化合物がヒットすれば、MICAのsheddingのメカニズムの解明の手掛かりにもなるかもしれません。

自分たちでスクリーニングをしてもよかったのですが、手が足りないため、小規模スクリーニングを行って具体例を提示するにとどめて、系の樹立についてを中心に論文化しました。これを用いて世界の誰かがスクリーニングしてくれるといいのですが・・・・。しかし、あいかわらずBBRCはすべてが驚きの早さ。



# ROCK inhibitor はPAIP2の発現増強を介してmicroRNA機能を増強する Nucleic Acids Res. (2015.7.19. 記)

吉川剛史、Wu Jianfeng、大塚基之、岸川孝弘、大野元子、柴田智華子、高田朱弥、Han Felicia、Kang Young、Chen CY、Shyu Ann-Bin、Han Jiahuai、小池和彦

ROCK inhibition enhances microRNA function by promoting deadenylation of targeted mRNAs via increasing PAIP2 expression


microRNA機能を増強する化合物をスクリーニングしたところ、細胞骨格や運動に関わるROCKの阻害剤がmicroRNA機能を増強することを見出し、その分子機構を解明しました。

ROCK阻害剤によって、ROCKが核内に移行しかつ立体構造を変化させることで、転写因子であるHNF4と結合し、その結果 polyA binding protein のinhibitor である PAIP2 (polyA binding protein interacting priotein 2) の発現を増やすことによってmicroRNAの標的mRNAのpolyAを短縮し、結果的に microRNAの機能を増強することを示しました。microRNAの機能はさまざまな生体反応に関わっているので、その機能を制御する方策を見いだしたことは、microRNAが関わるさまざまな生体反応を制御できる可能性につながります。

実際に次の主論文では、その応用を報告するべく準備中です。

この論文は、当初 続きの研究と一緒に一つの論文にしていたのですが、査読の過程でまとめきれないほどの膨大なデータ量となり、最終的にこの部分だけ独立させて投稿しました。基本データは3年くらい前に一度投稿したのですが、その後の長きにわたる吉川先生の粘りは特筆すべきものでした。さらに、一連の研究を進めるうえでは、Texas 大学のDr. Ann-Bin Shyu から、マテリアルの提供だけでなく、論文の推敲、精神的な励ましまで、本当に色々と支えてもらいました。Xiamen 大学の Dr. J Han からも貴重な助言を頂きました。いつもながら、研究・投稿を通して、貴重な経験をさせていただいています。世界の研究者はみんなfairですね。これからも研究遂行に必要であれば 世界の各分野の第一人者と どんんどんコラボレーションをしていきたいと思います。ピュアな基礎系雑誌に臨床教室からも出せるチカラがあることを証明できたのもよかったです。



# ヒト初代培養肝細胞にHBV感染をさせたときのmRNA/miRNAの発現変化と、Bionanocapsules によるmiR93の送達によるMICA蛋白の発現制御 Oncotarget. (2014.7.1.記)

大野元子、大塚基之、岸川孝弘、柴田智華子、吉川剛史、高田朱弥、室山良介、古渡礼恵、佐藤雅哉、加藤直也、黒田俊一、小池和彦

Specific delivery of microRNA93 into HBV-replicating hepatocytes downregulates protein expression of liver cancer susceptible gene MICA


GWASで同定した肝がん発症感受性遺伝子MICAの続報です。HBVを初代ヒト肝細胞に感染させてmiRNAの変化をみると、昨年われわれが「MICAの発現制御に大切」として報告したmiR93が減少していたため、これを肝細胞に補うことでMICAの発現を元のレベルに戻そう、という検討です。

HBV感染の場合、発現したMICAは上清に出やすいようで、これが体内ではおとりとして作用して免疫細胞からの攻撃から回避する仕組みになっている可能性があります。BNCを使ってmiRを肝細胞選択的に導入すると それを補正することができるという論文で、将来の肝がんの予防法開発への応用を念頭に置いたものになっています。

名古屋大学の黒田先生にお願いをして、BioNanoCapsules という素晴らしい Drug Delivery System を使わせていただきました。今後もこの研究を足がかりにいろいろと発展させていきたいと思っています。

ちなみに Oncotarget...、聞いたことのない journal でしたが、「しかるべき雑誌でレビューされた論文は優先的に審査してくれる」という先の Virology に似たようなシステムで、あっというまにアクセプトしてくれました。なんだかふしぎなシステムですが IFが意外に高めで さらにふしぎ・・・



ポリフェノールの一種アピゲニンはmiR122の成熟を抑制する結果 HCV の複製を抑える効果がある Virology. (2014.6.14. 記)

柴田智華子、大野元子、大塚基之、岸川孝弘、後藤 覚、室山良介、加藤直也、吉川剛史、高田朱弥、小池和彦

The flavonoid apigenin inhibits hepatitis C virus replication by decreasing mature microRNA122 levels


昨年、大野元子先生がみいだした”アピゲニンによるmicroRNAの成熟抑制効果”の影響を受けるmicroRNAの中にmicroRNA122が含まれていたことから仮説を立てて検証した論文です。アピゲニンによってmicroRNA122の成熟が抑制されれば、microRNA122によって正に制御されているHCVの複製が抑制されるだろう、というオーソドックスな発想に基づきます。結果は特段サプライズもないのですが、素早く検証できたのは、学生さんの頑張りと、大野先生のサポートと、研究室で連綿と続けていたHCV研究の経緯とコンストラクトがあってのことだと思っています。

ちなみにアピゲニンはパセリやブロッコリーに多く含まれます。肝臓学会でも報告しましたが、血中測定での有効濃度に達するには乾燥パセリで一日10g位必要です(笑)が、肝組織内はもっと少なくても有効濃度に達するかもしれません。本当はキメラマウスでin vivoでの有効性を検証したかったのですが費用がかかりすぎるため断念しました。患者さんにパセリを多めに食べてもらう?

この論文、某雑誌のreview後に案の定 in vivo の結果が無い理由で reject になったものの、Virology がその review に基づいて ものすごく素早くアクセプトしてくれました。Publish までも早くて、Elsevier、頑張ってますね。



# 肝癌感受性遺伝子MICAの発現はmiR93-106bで制御しうる Scientific Reports. (2013.9.27.記)

岸川孝弘、大塚基之、吉川剛史、大野元子、高田朱弥、柴田智華子、近藤祐嗣、赤沼真夫、吉田晴彦、小池和彦

Regulation of the expression of the liver cancer susceptibility gene MICA by microRNAs.


慢性ウイルス肝炎に続発する肝癌の発症規定遺伝子として以前ゲノムワイドアソシエーションスタディで同定したMICA遺伝子をmiR93および106bが標的としており、これらのmiRNAの過剰発現、もしくはこれらのmiRNAに対するantisenseの過剰発現で、MICA蛋白の発現量は減らせる、もしくは増やすことができる、という趣旨の論文です。

これまでの検討では、C型肝炎ではMICAの発現量が少ないほど癌になりやすく、B型肝炎ではMICAの発現量が多いほど癌になりやすいという、同じリスク規定遺伝子でもリスクアレルが逆という結果(MICA発現後の翻訳後修飾の違いが原因?)になっているのですが、どちらであってもmiRNAを標的にすればMICAの発現量を制御できる、ということです。ただしこの制御はMICAのmRNが転写されていなければ効きません(miRNAは転写後調節に関わっているからと思われます)。

肝炎ウイルスを駆除することが根本的な肝癌発生抑止策ですが、それができない場合の肝癌発生予防策として、この結果の実用化に向けてさらに検討を進めているところです。

miRNAによるMICA蛋白の発現調節に関する報告はすでに先行論文が(よく読まないとわかりにくいのですが)あること、この結果を踏まえたその後の展開が控えていること、から早々にSci Repに投稿しました(が、ものすごくレビューに時間がかかりました。Editor はすごく親切に文章の直し方まで教えてくれたのですが・・・)。



Dicer の腸管上皮特異的ノックアウトマウスでの炎症性発癌モデルでは、ヘテロのノックアウトが最も易発癌性である PLoS ONE. (2013.9.3. 記)

吉川剛史、大塚基之、岸川孝弘、高田朱弥、大野元子、柴田智華子、Kang Young、吉田晴彦、小池和彦

Unique haploinsufficient role of the microRNA-processing molecule Dicer1 in a murine colitis-associated tumorigenesis model.


Dicer の腸管上皮特異的ノックアウトマウスで炎症性発癌を惹起すると ヘテロのノックアウトマウスが最も易発癌性を呈する、という趣旨の論文です。

Dicer 遺伝子をノックアウトすると、Wildtype, hetero, homo と、残った allele 数に応じて Dicer 蛋白の発現量が減り、それに応じて mature な microRNA の量も変化するようです。そして、そういう状況下で炎症性発癌を惹起すると、complete knockout ではなく、なぜかheteroのマウスが最も易発癌性を呈する、という事象を大腸の炎症発癌モデルで報告しました。microRNA は癌抑制性のものも癌促進性のものもあるので、総体として microRNA が欠けるときには、完全になくなるよりも「適度な」欠損が、バランス的にもっとも発癌に傾く、ということを示唆しているようです。このような Dicer の 「obligate haploinsufficiency 性」  (普通の ”haploinsufficiency” はヘテロでホモと同様の易発癌性を呈しますが、今回の Dicer のように、ヘテロで最も易発癌性を呈しホモだと回復するものを obligate insufficiency と言うようです) は すでに知るかぎり二つの別の臓器モデルで報告されています。機序は全く未解明ですが、このように microRNA が「適度に欠損することが発癌に傾く」ということは、今後の伏線として報告しておく必要があったため、手短かにまとめました。Editor も reviewer も、かつて経験したことのないほど好意的でした。ちょっともったいなかったかも。



ポリフェノールは一部のmicroRNAの成熟を抑制することで、microRNA過剰による病態を改善する Scientific Reports. (2013.8.31.記)

大野元子、柴田智華子、岸川孝弘、吉川剛史、高田朱弥、小島健太郎、赤沼真夫、Kang Young、吉田晴彦、大塚基之、小池和彦

The flavonoid apigenin improves glucose tolerance through inhibition of microRNA maturation in miRNA103 transgenic mice.


1) ポリフェノールの一種 apigenin は Erk の活性を阻害する結果、RISC構成因子TRBPのリン酸化を抑制し、ある種のmicroRNAの成熟過程に抑制的に働く

2) miRNA103の発現過剰状態は糖代謝不良になると報告されていいるが、apigeninはこの状況を miR103の成熟を阻害することで ある程度改善する、という趣旨の論文です。

ポリフェノールの生理活性作用は多岐に及ぶ事が世間でよく言われていますが、この多様性が ちょうどmicroRNAの機能多様性に似ているのでは、と考えたところからはじまった研究です。いろいろなポリフェノールを検討した結果 ブロッコリーなどに多く含まれているapigeninというポリフェノールの一種が、microRNAの機能を抑制することを、大野元子先生が中ベン時代に研究室に二か月間来ていたときに見出しました。その後しばらく放置されていたのですが、フリークオーター後に研究室に来てくれた学生さんが、これまた数年前に小島健太郎先生が作製しそのままになっていたmiR103のトランスジェニックマウスを使って in vivo での作用を確認してくれました(数年越しの連係プレー)。

ApigeninのmicroRNA抑制作用は miR103だけではないので、microRNA発現過剰あるいは機能過剰状態で惹起されている病態は apigenin である程度は改善する可能性があると考えます(たとえば miR122に依存したHCVの複製も もしかしたら ある程度抑制するかも・・・と思うのですが 検証まで手が回らない・・・)。

ともあれ 「食と健康」は 現代社会の大きなテーマですので、その一つを提唱できてよかった。

もともと大野先生が以前に中ベンの合間に見出した知見を、たまたま研究室に来てくれた学生さんが検証してくれたもので、全体的にこれ以上あまり時間をかけたくなかったため 早々に Sci Rep にしました。

しかしこのjournal の位置づけは依然として不透明ですね・・・



microRNA122の機能阻害はSOCS3の発現低下を介してSTAT3を活性化する結果 SREBPの転写を抑制し脂肪合成を抑える Biochem Biophys Res Commun. (2013.8.16.記) 

柴田智華子、岸川孝弘、大塚基之、大野元子、吉川剛史、高田朱弥、吉田晴彦、小池和彦

Inhibition of microRNA122 decreases SREBP1 expression by modulating silencer of cytokine signaling 3 expression.


1) microRNA122の機能阻害はSOCS3の発現を抑える

2) その結果 STAT3 が活性化し、それが脂肪合成に重要な転写因子であるSREBP1の発現を抑える

3) それゆえ miR122の阻害は脂肪合成低下につながる、という趣旨の論文です。

miR122の阻害剤(antisense nucleotide)はC型肝炎ウイルスの治療薬Miravirsenとして現在 臨床試験中ですが、ウイルスに対する効果だけでなく 血中脂肪を下げる効果もあることが報告されています。その機序は不明(miR122の直接標的分子にはそれにかかわるようなものが見当たらない)だったのですが、昨年我々が報告したSOCS3の発現変化と、現在東大病院の糖代謝内科の植木先生が以前に報告されていたSTAT3がSREBPの転写を抑える、という結果から、今回の検証に至っています。フリークオーターをきっかけに研究室に来てくれた東大医学部の学生さんが実験をキチンと こなしてくれました。優秀な学生さん。しかし、いつもながらBBRC, 投稿からdecision, publishまで恐ろしく早いです。



microRNA122の機能阻害はSOCS3 promoterのメチル化を介してIFNシグナルを増強する Scientific Reports. (2012.9.7.記)

吉川剛史、高田朱弥、大塚基之、岸川孝弘、小島健太郎、吉田晴彦、小池和彦 

Silencing of microRNA-122 enhances interferon-a signaling in the liver through regulating SOCS3 promoter methylation.


1) microRNA122の機能阻害はSOCS3のpromoterのメチル化を誘導してSOCS3の発現を抑え、IFNのシグナルを増強する

2) このことに加えて、microRNA122はHCVの増殖を 正に増やすことが知られているため、miR122の機能阻害とIFNの併用療法は、二つの機序によってHCVを抑えることになるため、有用な治療になるだろう、という趣旨です。

IFNシグナルに関わるmicroRNAをスクリーニングしたところmiR122がひっかかり、antisense miR122でメチル化変化をgenome-wideに見たところSOCS3が含まれていたことから、少しずつ進めてきた研究です。タイトルや抄録からは読み取れないのですが、 「IFN-λはmiR122の発現を増やしてIFNシグナルを抑えるため、IL28BのSNPで規定されるIFN-λが高い人は内因性のIFNシグナルが普段は抑えられており、だからIFNを治療として外部から大量にいれた時には、逆に効きやすいのではないか」という、IFN-λとmicroRNAとHCVのIFN responseをつなげる推論も、本文中に地味に隠れています。

Scientific reports が 今後どの程度の位置づけになる journal かは未知数なため 少しもったいない気もしましたが、思い切って出してみました。Reviewは3週間くらいで早かったし きちんとしていました。予想以上に良い journal?さすが Nature Publishing Group。でも、この雑誌の今後の位置づけは、やっぱり現時点ではよめないですね。

2012.10.23. 追記: この内容は、Scientific Reports の日本語サイトの「注目の論文」に掲載されました。



microRNA関連因子DDX20の発現異常に伴うmicroRNA機能異常と肝発癌 Hepatology. (2012.8.20.記)

高田朱弥、大塚基之、吉川剛史、岸川孝弘、引場陽子、小尾俊太郎、五藤忠、Kang Young、前田愼、吉田晴彦、小俣政男、浅原弘嗣、小池和彦

MiRNA-140 acts as a liver tumor suppressor by controlling NF-κB activity via directly targeting Dnmt1 expression.


DDX20 series 第三弾。主論文になります。microRNAの機能発揮に必須の分子の発現異常を肝癌で調べたところ、RISC構成因子のひとつDDX20の発現が減少していることが多いことが分かりました。そこで、これまでの伏線論文で示したように、microRNA140-3p の活性がそういう組織では落ちており(途中 Dnmt1やMetallothionein の発現変化を経由して)NF-kappaBの活性が増していることが結果的に肝発癌に寄与しているのであろうということを示すことができました。

microRNAの発現量の異常と発癌という論文が ちまたにあふれている中で、microRNAの機能を調節している因子の異常によるmicroRNA機能異常と発癌、という経路の存在を証明した論文でもあります。

microRNA140のノックアウトマウスを使わせていただいたり、reviewerからbioinformaticsについて教わったり、いろいろな人の協力を頂き、この研究を通してたくさん勉強させていただきました。

この論文は最初 とあるjournalに出したところ、膨大なreviseの要求に誠実に答えたもののrejectされる、という憂き目にあったうえ、雑多なデータの収拾がつかなくなってしまったために、最終的に3つの論文に分けて発表する形となりました。結果的に世の中に出るまでずいぶん時間がかかってしまいましたが、今では第四弾に相当する実験も進行しつつあり、個人的には、苦労したことも含めて、悲喜こもごもの忘れられない論文になりました。経過はともあれ、とにかくpublishされてよかった。



microRNA関連因子DDX20はmicroRNA140の機能を制御しNF-kappaB活性に関わる Biochem Biophys Res Commun. (2012.4.1.記)

高田朱弥、大塚基之、吉川剛史、岸川孝弘、工藤洋太郎、五藤忠、吉田晴彦、小池和彦

A miRNA machinery component DDX20 controls NF-kB via microRNA-140 function.


DDX20 というAgo2複合体に含まれる因子の機能を同定した論文です。DDX20はmicroRNA関連複合体(RISC)へのmicroRNAの取り込みに関わっていて、その中でも microRNA140-3pの機能に特異的に関与していました。先のBBRCで発表したように、microRNA140はNF-kappaBの機能に関わっており、実際 確かにDDX20もmicroRNA140の機能制御を介して、NF-kappaB活性に関与していました。

いろいろとあって、今回も主論文の伏線第二弾として先行発表しました。あらためて、BBRCに論文を出すことの是非は承知していますが、しかし、さすがBBRC, あいかわらずsubmissionからpublishまでがおそろしく早い!


 

RACK1遺伝子はmicroRNAの充分な機能発揮に必須であるとともに 肝癌で発現が低下する PLoS ONE. (2011.9.16.記)

大塚基之、高田朱弥、吉川剛史、小島健太郎、岸川孝弘、柴田智華子、武川睦寛、吉田晴彦、小俣政男、小池和彦

Receptor for Activated Protein Kinase C: Requirement for Efficient MicroRNA Function and Reduced Expression in Hepatocellular Carcinoma.


「レトロウイルスによる無作為遺伝子破壊を用いた遺伝子スクリーニング法」を 用いて、microRNA機能に必須の分子としてRACK1という遺伝子を同定した論文です。いまではRNAi library がこういった類のスクリーニングでは第一に用いられる手法だと思いますが、安価で簡便な点で レトロウイルス法も悪くはないな と思いました。RACK1は 肝癌組織で発現が低下していることが多く、microRNA機能不全が発癌の一因かもしれないという、今後続くであろう私たちのグループの結果の伏線にもなっています。

それから、この論文では、当時 東大医学部M1の学生 柴田さんが、フリークオーターで研究室に来たときに免疫染色を手伝ってくれたので、author に加わってもらっています。布施くん、千葉くん、も来てくれました。これからも たくさんの学生さんが「消化器病学」に興味を持ってくれれば、と願っています。



MicroRNA-22と140は NF-kappaB の co-activator の発現を抑制することで NF-kappaBの活性を制御する Biochem Biophys Res Commun. (2011.7.23.記)

高田朱弥、大塚基之、小島健太郎、吉川剛史、岸川孝弘、吉田晴彦、小池和彦

MicroRNA-22 and microRNA-140 suppress NF-κB activity by regulating the expression of NF-κB coactivators.


炎症や発癌に関与する重要な細胞内情報伝達経路であるNF-kappaB の活性を制御しうる microRNA を、肝臓で発現しているmicroRNAを中心に microRNA library でスクリーニングし、その標的候補因子を解析したところ NCoA1 と NRIP1(RIP140) という NF-kappaB の co-activators が関与していた、という 分子生物学的な報告です。

肝癌関連の主論文のデータが膨大でまとめきれなくなってきたため、スクリーニングの結果だけを先行発表しました。BBRC に論文を出すことについての是非は承知していますが、投稿から publish までは確かにものすごく早くて(アクセプトまで6日間!)、その目的では とてもいいジャーナルと思いました。これを引用しつつ 早く主論文も世に出したいのですが・・・。

 


肝がんにおけるmicroRNA122の発現低下はAFPの産生と癌の生物学的悪性度の両者を規定する Nat Commun. (2011.6.8. 記)

小島健太郎、高田朱弥、Vadnais Charles、大塚基之、吉川剛史、赤沼真夫、近藤祐嗣、Kang Young、岸川孝弘、加藤直也、Xie Zhifang、Zhang Weiping、吉田晴彦、小俣政男、Nepveu Alain、小池和彦

MicroRNA122 is a key regulator of a-fetoprotein expression and influences the aggressiveness of hepatocellular carcinoma.


Transcriptome解析が行われ始めた初期のころから、「肝がんを遺伝子発現に基づいて分類すると大きくAFP産生性とAFP非産生性にわかれる」ことがいくつか報告されていました。また、「腫瘍の大きさにとは関係なくAFPが高めの肝癌は悪性度が高い」ことも臨床的な観察から知られていました。今回、大学院生の小島健太郎先生が、肝臓特異的なmicroRNA122はCUX1という遺伝子を標的として、その下流でAFPの産生と癌の悪性度の両者を規定しうることを報告しました。腫瘍マーカーが細胞内のシグナル撹乱のsurrogate marker になる可能性、将来の核酸補充療法に向けた基盤情報 などへの展開が期待されます。

小島先生が途中 病棟中ベンになって機能しなかったり、マウスが亡くなったり、いろいろ苦労しましたが 親切なMcGill大学の共同研究者とグループの協力のおかけで まとめることができました。

この内容はNPG (Nature Publishing Group) のハイライトに掲載されました。

また、Nature Communications の日本語サイトの「注目の論文」にも掲載されました。

雑誌「肝臓」8月号 Reader's Indigestion に解説文が掲載。

Medical Tribune 9月22日号に取材記事が掲載されました。

 


iPS細胞からの効率的な肝細胞分化誘導法 Hepatol Int. (2011.5.24.記)

高田朱弥、大塚基之、小木曽智美、小島健太郎、吉川剛史、建石良介、加藤直也、椎名秀一朗、吉田晴彦、小俣政男、小池和彦

Direct differentiation of hepatic cells from human induced pluripotent stem cells using a limited number of cytokines.


iPS細胞からの肝細胞の誘導法として、従来はActivin-FGF/BMP-HGFという3段階のサイトカインを用いる方法が主流だったところを、大学院生の高田朱弥先生が FGF/BMPのステップは必ずしも必須ではないことを報告しました。少ないサイトカインで、経済的にも時間的にも効率的に肝細胞を誘導する方法として有用な可能性があります。

ひょんなところから始まった研究でしたが、高田先生が手際よくまとめてくれました。

2011.7.26. 追記: この内容は Hepatol Int. の Editorial にとりあげられました(トリノ大学のParolaらによる、叱咤激励的な、妙に厳しく教育的な Editorial でしたが、勉強にはなりました)。

2012.4.1. 追記: この論文はいまだにHepatol Int.のmost downloaded article に挙げられています。Methodologyの論文はインパクトが大きいのかな?

2012.8.29.追記:PubMed上でなかなかEpub扱いを脱せられないのはなぜなんだろう。とっくに正式にpublishされてるんだけど。