システム・ダイナミクスの特徴

システム・ダイナミクスの特徴は以下の3つがよく挙げられます。

1.問題をダイナミックにとらえる

例えば、私たちは物事を分析するときに「これが起きる確率は○○だ」「全体の○割がこれに該当する」「毎日○トン生産する」という仮定をします。それ自体は構わないのですが、よく考えてみるとこういう仮定は状況に応じてかなり変わることが多いです。手持ちの資源が多ければふんだんに使うものであっても、手持ちの量が減れば控えめに使うことはよくあるでしょう。手余りになったときにすぐに余ったリソースを手放すのではなく、少し様子を見ながら調整したり、余剰分は全体に均して調整したりするでしょう。このような判断は、まさに「状況を見ながら、時々刻々となされ、その結果『一定だ』と普段考えていたものすら、実はダイナミックに変化するものであることはしばしばあります。

こうした事実を直視してモデル化し分析することは、現実の問題に対処するために大変重要なことです。現実に起きることを反映できないモデルを使って分析しても、少なくとも「問題解決に役に立つような」知見は得られないでしょう。ですから、システム・ダイナミクスという手法において問題をダイナミックにとらえるということは重要なことと言えます。また、このとき無理に単純化して線形的な関係で表す必要はなく、積極的に非線形関係を採用することが可能で、よりリアルな人間の意思決定を反映することができます。

2.フィードバック・ループ構造の重視する

フィードバック・ループ構造というのは、因果関係(「Xがより大きければ、そうでなかったときよりもYはより大きく(小さく)なる」という関係)の連鎖をたどっていくと、まわりまわって最初の要素(変数)に戻ってくる(循環する)関係のことです。

フィードバック・ループ構造を図示し、その構造をたどることで、「なぜ定量的なふるまいがそうなるのか」を客観的に検証できます。 たまたまなったのか、必ずそうなるのかでは施策の評価は大きく変わります。 また、意思決定者にも実行する現場にも、「どうしてこうするのか」を理解することによるコミットメントが得られ、実現を後押しします。

また、フィードバック・ループを直視するということは、問題の原因を直視することにつながります。 私たちは何か好ましくないことが起こると「・・・のせいだ」「・・・の環境が変わったから仕方がない」と、「望み通りいかない理由」は自分たちの手の届く範囲の外にあると思いたがります。 しかし、実際には私たちの行動や認識と、一見その外側とはつながっています。 外側の物をいきなり変えることはできなくても、自分たちの手の届く範囲のなかで適切に処置することで、問題は大きく解決に向かうことは多いのです。 そして、それでもその外側の協力が必要になれば、ピンポイントで底を内部化する(つまり、仲間や当事者になってもらう)ことで解決することができます。

フィードバック・ループをモデルに組み込んで数量的なシミュレーションをすることができる手法は、案外少ないのです。 システム・ダイナミクスはその生まれた時からフィードバック・ループをモデルに入れる前提で開発された手法なので、 そのやり方に無理がなく扱いやすいのも特長といってよいでしょう。

3.コンピュータ定量的に分析する

コンピュータを利用して定量的な違いを明らかにできるため、「行われる意思決定によりどの程度の効果があるのか」を判断し取捨選択するうえで重要です。

私たちの周りにある問題分析の手法のうちいくつかは、定性的なものです。 それらは論点整理には効果的なものがあると思います。一方で、それら定性的な手法だけでは「施策がどの程度の効果を生むのかはわからない」「施策の候補の間での比較検討ができない」といったところが、実際の意思決定をする際に力不足ということになります。結局、思い込みや声の大きい人の意見で施策を選び失敗することすら少なくないでしょう。

しかし、システム・ダイナミクスなどの定量的な分析手法を用いれば、数量で結果を示すことで、投下したコストに対してどの程度の効果が望めるのか、その結果はどの程度安定的なのか(リスクはどの程度あるか)、改善するまでにかかる時間はどの程度かを示すことができて、 意思決定に役立つ情報が得られます。

副次的には、定量的なモデルを使っているにもかかわらず、各変数の定義はシンプルなもの(加減乗除程度の計算式)で済むことも重要です。 システム・ダイナミクスを数学的に考えれば、実は連立非線形高階微分方程式を解いていることにあたります。 こういう数式が問題の当事者に示されても、敬遠されるか、あるいは(煙に巻こうとしていると思われて)怪しまれるだけです。 それを図で示し、一つずつの因果関係を当事者と検証することで、モデルの妥当性を確認し、いざモデルを採用したときにはその信頼を確保できます。