システム・ダイナミクスのこれまで・これから

システム・ダイナミクスの生い立ち

システム・ダイナミクスは1950年代の終わりにアメリカの名門大学MITにおいて、J. W. Forresterにより開発されました。当初は社会の、特にリアルな人間の意思決定を正面からとらえた分析にコンピュータを利用するものということで斬新であり、熱狂的な歓迎と極めて強い批判の両方がありました。しかし、その後長い年月をかけて批判に粘り強くこたえ、方法論の整理やモデリング・プロセスの一般化を進め、今では欧米のビジネスや行政で広く使われています。

日本には1960年代の終わりに輸入され、当初は行政や各種の業界団体が利用しました。 (当時はコンピュータの利用コストが高く、日本の個別の企業が手を出すのは現実には難しかったのです。) また、利用されるソフトウェアは言葉の制約が多く(変数名が半角英語大文字5文字まで等)や、日本語の教科書も不足していて一度日本国内ではほとんど忘れられてしまいました。

しかし、ソフトウェアの利便性の急速な向上と日本語の文字への対応、そして海外での継続的な改良、そしてその改良後の状態を知った現代のビジネスパーソンや研究者により再び脚光を浴びています。

システム・ダイナミクスのこれから

上記のような展開をたどりつつも、2010年ごろからふたたび脚光が当たり始めました。様々な理由がありますが、大きな理由の一つとして「解かねばならない問題が複雑であり、複雑さを真正面にとらえられる手法が必要になった」ということが挙げられます。私たちの抱える難しい問題の多くは、私たち自身を含んでいたり、求める価値が異なる多様な当事者を巻き込んでいたりします。また、均質な対象を操作するのではなく、多様な対象を考える必要があることも多いです。そして、分析結果から提案されるソリューションは、「なぜそう言えるのか」「どの程度のリスクがあるのか」を示せることが求められるようになりました。こうしたことが、システム・ダイナミクスの再登板を後押ししたものと考えられます。

ビジネスに関係した数理的な手法にはいろいろな「適材適所」があります。 直近未来の値の予測をするとか、全体の傾向を把握するとかであれば、統計的な手法や最近ではAIを利用する方法が考えられます。 一方で、私たちの身の回りには「適切に対処しているつもりなのに解決されない問題」「なぜかしつこく何度も起きる問題」というのがあります。 こういう問題についてはシステム・ダイナミックスが他の手法よりも良い改善策を見つけることができます。 どの手法も、「何の問題にも対応できる打ち出の小づち」とは言えません。 統計的手法やAIなどと並んで、システム・ダイナミクスを活用すると、対応できる問題は大きく増えるでしょう。