第12

12 企画・実現可能性分析

12.1 最終作品

最終作品は、Raspberry Piを利用するという条件を満たす限り、何をしても構いません。これまでに学修したことを活かして、また学修していないことを取り入れても結構です。何らかのフィジカル・コンピューティングの作品を制作してください。例えば以下のようなものです。

IoTのようなものでも良いですし、ガジェットのようなものでも良いです。これまで授業で学修した内容を応用した作品にしてください。

ここで作る最終作品はプロトタイプだと考えてください。よって、実際の理想型とは違っていても構いません。プロトタイプを動かすことによって、理想型イメージが他者に伝わればOKです。

例えば、農業を支援してくれるようなシステムを作るとしましょう。実際に畑に設置して動かすことはできませんから、100均で植木鉢を買ってきて土を入れ、乾燥度合いを測って自動的に水やりをするようなものを作ることになります。

最終作品を制作するにあたっては、様々な部品が必要となります。この部品の総額は2,000円を目安としてください。もちろん2,000円よりも少なくても良いですし、超えても問題はありません。

12.2 開発プロセス

最終作品は以下のような手順で作成します。今日は、開発プロセスのうちの1から3までを行います。

12.3 企画

作品の構想にはマップを使います。このような用途でマップを使うときには2枚描いた方が良いです。1枚は全くアイディアのイメージが湧いていない段階で描くもの(ブレインストーミングのためのマップ)、2枚目はアイディアを固めるために描くものです。1枚目のマップは自分の頭の中を整理するためのもので、人に見せるものではありません。

アイディアというものは、ただ唸っているだけでは出て来ません。関連する様々な情報を頭にインプットしてかき混ぜたり、分類したり、組み合わせたりする必要があります。そのためにマップに書き出してみるということを行います。

企画にはストーリーが重要です。そのストーリーを誰かが聞いた時に、共感してもらえるものが良いです。「それ面白そうだね」「それは便利だね」「私もそれが欲しい」、そう思ってもらえるものがストーリーです。

12.4 マップを描く

この演習では、マインドマップのような図を描くためにcoggleというツールを使います。以下のURLにwebブラウザでアクセスしてください。

https://coggle.it

coggleは、googleのアカウントでサインアップするようになっています。大学のgmailアカウントを使ってください。

マインドマップのような図は、これまでも何度か書いているのでごく簡単な説明をすることに留めたいと思います。coggleを使ってマップを描くときには図の真ん中にメインテーマを置きます。このテーマから枝を伸ばして行って想起されることをどんどん書いていきます。この枝をブランチと呼びます。結果的には、中心から周りに向かってブランチが広く伸びていくような図が出来上がります。

以下のようなことに気をつけて描きます。

ブレインストーミングのマップ

まずは、ブレインストーミングのマップを作りましょう。メインテーマは「作りたいもの」です。ブレインストーミングをする際に重要なのは自由な発想です。思い浮かんだことをどんどん書き出していきます。

以下はブレインストーミングをしている途中のマップです。まだ完成していません。

このブレインストーミングのマップにつらつらと書き込んでいきながら「自分は何を作りたいのだろう」と自問します。この作業を作りたいもののイメージがぼんやりと浮かんでくるまで続けます。

作りたいものがぼんやりと浮かんで来たら、このマインドマップの役割は終わりです。それ以上に詳細化してはいけません。

以下のことに気をつけながらやってみてください。

アイディア視覚化のためのマップ

ブレインストーミングのマップである程度作りたいもののイメージが固まってきたら、それを企画として成り立つものに洗練していきます。そのためにアイディア視覚化のためのマップを作ります。これもcoggleで描いてください。

企画にとって大切なことは、「誰のために」、「どんなシチュエーションで」、「どんな効果を」の3つ事柄です。これがきちんと説明できないと、独りよがりのアイディアになってしまいます。

新しいマップを作成して、メインテーマをブレインストーミングで得られた作品を表すものにします。このマップの役割は、ぼんやりと浮かんでいるアイディアを詳細化し、意味のあるもの、実現可能なものへと導くことです。

以下の5つを第1階層のブランチにします。

作ろうと思うものをできるだけ詳細に頭に思い浮かべながらマインドマップを詳細化していきます。そして、そこに見えているものをできる限り言葉にしながらマップに書き込んでいきます。

12.5 Tips

アイディアを創出するにあたって、役に立つかもしれないヒントを書いておきます。

可能であれば「問題から考える」ということを実践します。言い換えると「ニーズから考える」ということです。こういう問題を解決したい!というところから始めれば、共感も得られやすいと言えます。今回の最終作品では、「問題」というのをもう少し広くとらえてもいいでしょう。オブジェを作ってもよいとか、インタラクティブアートでもよい、ということを書きましたが、オブジェがあることで癒やしがあるとか、アート作品でほっと一息つけるとかも、ストーリーとしてはあり得ると思います。(しかし、共感してもらえるストーリー作りは依然として必要です。)

一方、今回は、選択制学修で学んだことを軸に考えるのも1つの手であると思います。こちらは言わば「シーズから考える」ということです。このようなことを学んだのでそれを活かした作品を作ろうと考えてもよいです。ただし、やはりこのシーズから考えるという方法は、ストーリー立てが難しくはあります。ストーリー作りを特にがんばらなければいけない方法であるとは思います。

実際の作品作りでは、ニーズから入ってもシーズを考えるときに困難があったりして、少しニーズのほうを調整したりということはよくありますし、シーズを考えているときにひらめきが訪れるということもけっこうあります。なので、なんでもかんでもニーズからということではなく、両面から少しずつあいだをうめていくような作業であることが多いです。

12.6 部品リスト

次に、使用する部品のリストを作ります。スプレッドシートを活用するとよいでしょう。このリストには、使用する部品の具体的な製品を挙げます。部品ごとに以下の情報を調べてください。

最後の行に部品リストの価格の合計を入れます。この合計の目安が2,000円ということになります。 Raspberry Pi や授業で配付した部品は部品リストに入れません。その他、抵抗やLED、厚紙、ビニールテープなどのありふれたものも入れません。抵抗、LED、CdS、トランジスタ、シフトレジスタといった細かい部品は、PCプログラムでいくつかのタイプのものを保管しているので、作品に必要でしたら問い合わせてください。

12.7 実現可能性分析

せっかく良いアイディアがあっても、モノが出来上がらないのではどうしようもありません。モノが出来上がらない理由は色々とあります。

これらの事柄を検討することを実現可能性分析(フィージビリティ分析)と呼びます。

この演習の実現可能性分析では、部品リストに挙げられているデバイスを Raspberry Pi と組み合わせて使うことが可能かということを中心に分析します。

実現可能性分析のやりかた

実現可能性分析でやらなければならないことは大きく分けて2つあります。

まず規格を調べます。 Switch Science や秋月電子でデバイスが説明されているページをよく読むと、ある程度のことは分かるはずです。規格で注意するべき点は以下のことです。

Raspberry Pi につなぐことができるデバイスは3.3Vで動作可能なものになります。また、GPIOに入力できる電圧も3.3Vまでになります。これを超える電圧をGPIOにかけると最悪Raspberry Piが壊れます。

秋月電子で購入可能な超音波距離センサーを例に見てみましょう。

https://akizukidenshi.com/catalog/g/gM-11009/

このページを見ると、「電源電圧」という項目に5.0Vと書いてあります。おそらくこのセンサから受け取る信号も5.0Vであると考えられます。こういうセンサは使えません。

通信規格としては以下のものがあります。

アナログで通信するとは、センサから電圧の変化が直接出てくるということです。このタイプはADCを使ってデータを受け取れるので、ほとんど問題なく使えます。

デジタルで通信するとは、センサからデジタル信号が出てくるということです。この信号をマイコン側のデジタル入力で処理することになります。このタイプはかなり厄介で、ライブラリがなければうまく動かない可能性があります。

UART、SPI、I2Cの3つはシリアル通信の規格です。UARTが一番原始的な規格で、通信そのものは難しくありません。 Raspberry Pi で少し設定をすれば、あとはなんとかなります。SPIとI2Cは、もう少し高級な通信規格になります。こちらは複数のセンサをつなぐことが可能で、アドレスという概念があります。頑張ればライブラリが提供されていないものでも使えますが、できれば Raspberry Pi 用のライブラリが提供されていることが望ましいです。

実現可能性分析では、上記で説明したことの他に、 Raspberry Pi で使っている実績があるか、サンプルコードがあるか、性能は十分かなどを調査します。性能が十分かどうかは調査だけでは難しい面がありますが、ある程度推測できることはあります。

12.8 実習

今日は、まずはマインドマップを作成してアイディアをふくらませたあと、作成した部品リストと実現可能性分析の結果を教員に示して、その方向性でよさそうかのOKをもらってください。その際に、口頭でどのような作品なのかを説明してください。教員に見せた結果、修正を指摘された場合にはOKがもらえるまで修正を繰り返します。

報告1. マインドマップ

これは、基本的にどんなものでもよいです。ボツになった案が残っていても問題なく、考えたことのすみからすみまで反映された図であるとよいです。

報告2. 部品リスト

部品リストを提出してください。今日の聞きとりにより修正が生じた場合には、修正後の部品リストを提出してください。

報告3. 実現可能性分析

実現可能性分析でやったことをまとめて提出してください。

以下の情報を部品ごとにまとめてください。