2021年の研究テーマ: ガロア点理論とそれを核とした分野横断研究
代数幾何における「ガロア点理論」の研究を行い、それを核として「正標数の代数曲線論」の視点から、分野を超越した数理科学的現象の解明を目指しています。
1996年にガロア点の概念が吉原久夫先生により導入され、吉原研究室の研究を中心におよそ10年間でガロア点理論が確立されました。深澤は2006年頃にガロア点研究を始めました。これまでに:
(a) 非特異平面曲線に対するガロア点の個数の正標数における解明
(b) 無限個のガロア点をもつ平面曲線の分類
(c) 平面曲線上のガロア点の個数上限とそれに到達する平面曲線の分類
(d) 代数曲線に対する「ガロア点を複数もつ判定法」の発見
(e) (d)により、ガロア点を複数もつ平面曲線の新しい例を多数発見
などの成果があります (研究論文リストはこちら: 研究者詳細 - 深澤 知 (yamagata-u.ac.jp) )。これらについては数学的な形式として(定理の主張が美しいことで)一定以上評価されると期待しますが、ガロア点理論の価値を説明するため、既存理論との関わりを見出すことにも重きをおいて研究を行ってきました。例えば:
(1) 上記成果(a)と関連して「自己同型群が大きいordinary代数曲線」を発見しました。この結果は、Mumford 曲線研究のなかで引用されました。
(2) 成果(d)の判定法を最大曲線(Hasse-Weilの意味)に適用しました。最大曲線の重要なたくさんの例に対してガロア点を複数もつことを明らかにしました。
(3) 成果(d)の判定法により、射影直線の場合は「ガロア点を複数もつ」という条件が完全に群論の言葉で書けます。群論における「部分群のある種のペアの存在問題」をガロア点理論で解決できることを提案しました。
(4) Ballico-Hefez 曲線上のガロア点配置を用いて良質の代数幾何符号を構成しました(本間正明, Seon Jeong Kim との共同研究)。
(5) ガロア点を複数もつ代数曲線のファミリーを構成し、そのなかから(有限幾何での研究対象である) Frobenius non-classical 曲線の例を見出しました。
(6) (5)の例から (k, d)-arc (有限幾何の概念)を構成しました。
以上により、既存の分野に劣らないガロア点理論の奥深さと広がりを一定以上説明できたものと考えています。個人的には、ガロア点理論の今後の可能性の大きさも感じているところです。
これらに関係して、有限体の国際集会やイタリアの組合せ論研究集会に参加するなど、「有限体」「応用数学」との関わりから代数曲線を眺める研究視点を意識してきました。代数曲線が符号理論や暗号理論に応用されていることは有名ではありますが、「有限幾何」や「有限体上の関数」との関わりなど、日本では馴染みが薄いと思われる研究の雰囲気を、それらの国際集会で感じました。例えば、有限体上の関数(暗号理論との関係が深い)の分類問題を有限体上の代数曲線の幾何の問題に置き換える、という流れがホットなように思いますが、日本ではこの事実はあまり知られていないのではないでしょうか。
この文章完成後、2021年11月に、追加で次の成果がありました:
(7) 2つのガロア点に付随する有理関数に注目し、ガロア点と有限体上の有理関数の研究を結び付けました。例えば、2つの外ガロア点に付随する有理関数が Minimal Value Set Polynomial かつ値域が等しいときに Borges 氏の結果を利用して、もとの曲線が Frobenius nonclassical 曲線であることを証明しました。