深澤知・東根一樹「ガロア点理論入門」
(最終更新日:2022年9月14日)
ガロア点理論についてまとめたものです。
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「ガロア理論」の入門書ではありません。
本書の概要(本文の「本書の概要」の冒頭を抜粋)
本書は「平面曲線のガロア点」に関する入門書であり, ガロア点研究に取り組むために必要な事項についてまとめている. 2つの研究レベルに対応して2つの目的がある. 第一の目的はガロア点を研究する最低条件, つまり「ガロア点の定義」に少ない知識でたどり着くことである. 第二の目的は, ガロア点研究の第一線に立つために必要な(かつミニマムな)知識を網羅することである. 第一の目的は前半部(2, 3章)で達成され, 深澤の山形大学大学院での講義ノートが基になっている. 第二の目的は後半部(4, 5章)で達成され, 第2著者である東根一樹君の修士論文 [9] を基にしている.
平面曲線のガロア点とは, 射影平面内の「点」からの射影により誘導される関数体の拡大がガロア拡大となるときに, その射影の中心点のことを言う. この概念は, 代数多様体の関数体の研究を目的に, 1996年に吉原久夫氏により導入された. ガロア点の魅力はたくさんあるが例えば, ガロア点理論の基本問題「ガロア点はいくつあるか?」という問題は面白そうだ, と即座に理解していただけるのではないだろうか. 実際に, 非特異平面曲線に対するガロア点の個数は決定されていて, その個数によって分類されており, 美しい定理といえると思う(例えば標数零のフェルマー曲線は, ガロア点を曲線の外に3個もつ非特異平面曲線として特徴づけられる). このように「代数多様体の分類の観点」を与えていることが代数幾何におけるひとつの重要な貢献であると思われる. また最近では, 正標数の代数曲線の重要なクラスに必ずと言っていいほどガロア点が関係していることがわかってきた. さらに, 有限体上の有理点や代数幾何符号との関連があり, ガロア点の登場する領域は代数幾何の範囲をすでに越えている.
代数幾何の基礎をマスターしていれば, ガロア点の定義とガロア点理論の基本問題は理解できよう. 予備知識が多く必要とされる代数幾何においては, これは極めてまれなケースである. したがって, 修士論文の題材に適している. 優秀な学生なら, 学部4 年生の段階でこの問題と向き合えるかもしれない. 深澤が山形大学に赴任してから, ガロア点を題材に修士論文を書く学生を数名送り出してきたが, そこで不満に思っていたのが「ガロア点の定義を一切の妥協なしに理解する」ことが予想以上に難しいことである. (多くのテキストで採用されている) 代数幾何の入門の内容とガロア点の定義に必要な知識はちょっとだけずれていて, このギャップを埋めるのが案外と難しいのである. 但しここでは, 修士号を取得して社会に出ていく一般レベルの大学院生を想定している. もしかしたら上記の発言は, 研究者を目指す優秀な学生には奇妙に映るかもしれない. 優秀な学生は教員が何も言わなくとも, そういったギャップを自分で埋めてくるのである. したがって前半部は, そのギャップを埋めるためのものであり, 修士論文を書いて社会へ出ていく一般大学院生のための入門, と言える. より詳しくガロア点以外の内容を述べれば, Shafarevich [19, I.1,I.2] をベースに, 射影双対性とそれに必要な導分,「射影」に関するいくつかのリマーク,というものである. 代数幾何の入門書をいくつか並べればこれらは包含されることと思うが, 一冊の中にこれだけ少ないページ数で収まっているものは見当たらないと思われる.
(つづく)