現在 (2023年) の研究テーマ: ガロア点理論とそれを核とした分野横断研究
代数幾何における「ガロア点理論」の研究を行い、それを核として「正標数の代数曲線論」の視点から、分野を超越した数理科学的現象の解明を目指しています。
1996年にガロア点の概念が吉原久夫先生により導入され、吉原研究室の研究を中心におよそ10年間でガロア点理論が確立されました。深澤は2006年頃にガロア点研究を始めました。これまでに:
(a) 非特異平面曲線に対するガロア点の個数の正標数における解明
(b) 無限個のガロア点をもつ平面曲線の分類
(c) 平面曲線上のガロア点の個数上限とそれに到達する平面曲線の分類
(d) 代数曲線に対する「ガロア点を複数もつ判定法」の発見
(e) (d)により、ガロア点を複数もつ平面曲線の新しい例を多数発見
(f) ガロア点を一般化した「準ガロア点」の導入と基礎理論の構築 (三浦敬、高橋剛との共同研究)
などの成果があります (研究論文リストはこちら: 研究者詳細 - 深澤 知 (yamagata-u.ac.jp) )。これらについては数学的な形式として(定理の主張が美しいことで)一定以上評価されると期待しますが、ガロア点理論の価値を説明するため、既存理論との関わりを見出すことにも重きをおいて研究を行ってきました。例えば:
(1) 自己同型群との関わり:上記成果(a)と関連して「自己同型群が大きいordinary代数曲線」を発見しました。この結果は、Mumford 曲線研究のなかで引用されました。
(2) 有理点との関わり:有限体上定義されたいくつかの曲線 (Ballico-Hefez 曲線、Dickson-Guralnick-Zieve 曲線) について、有理点とガロア点配置が一致することを明らかにしました。
(3) 最大曲線との関わり:成果(d)の判定法を最大曲線(Hasse-Weilの意味)に適用しました。最大曲線の重要なたくさんの例に対してガロア点を複数もつことを明らかにしました。
(4) 群論との関わり:成果(d)の判定法により、射影直線の場合は「ガロア点を複数もつ」という条件が完全に群論の言葉で書けます。群論における「部分群のある種のペアの存在問題」をガロア点理論で解決できることを提案しました。
(5) 符号理論との関わり:Ballico-Hefez 曲線上のガロア点配置を用いて良質の代数幾何符号を構成しました(本間正明, Seon Jeong Kim との共同研究)。また、ガロア点とそれに付随する自己同型群を用いて、自己同型を伴う代数幾何符号の構成法を提案しました。
(6) 有限幾何との関わり1:ガロア点を複数もつ代数曲線のファミリーを構成し、そのなかから(有限幾何での研究対象である) Frobenius non-classical 曲線の例を見出しました。
(7) 有限幾何との関わり2:(6)の例から (k, d)-arc (有限幾何の概念)を構成しました。
(8) 有限体上の有理関数との関わり:2つのガロア点に付随する有理関数に注目し、ガロア点と有限体上の有理関数の研究を結びつけました。例えば、2つの外ガロア点が存在するときに、2つの多項式 f(x), g(y) が存在して、もとの代数曲線は f(x)-g(y)=0 型の曲線の既約成分であることを証明しました。これにより、多項式 f(x), g(y) に条件を課してガロア点研究を行うことが可能となりました。その第一歩として、2つの外ガロア点に付随する f(x), g(y) が Minimal Value Set Polynomial かつ値域が等しいときに Borges の結果を利用して、もとの曲線が Frobenius nonclassical 曲線であることを証明しました。
以上により、既存の分野に劣らないガロア点理論の奥深さと広がりを一定以上説明できたものと考えています。個人的には、ガロア点理論の今後の可能性の大きさも感じているところです。
これらに関係して、有限体の国際集会やイタリアの組合せ論研究集会に参加するなど、「有限体」「応用数学」との関わりから代数曲線を眺める研究視点を意識してきました。代数曲線が符号理論や暗号理論に応用されていることは有名ではありますが、「有限幾何」や「有限体上の関数」との関わりなど、日本では馴染みが薄いと思われる研究の雰囲気を、それらの国際集会で感じました。例えば、有限体上の関数(暗号理論との関係が深い)の分類問題を有限体上の代数曲線の幾何の問題に置き換える、という流れがホットなように思いますが、日本ではこの事実はあまり知られていないのではないでしょうか。
上記 (8) の成果は、このような世界的潮流を意識した成果とも言えます。(8) により、f(x), g(y) として、有限体上の関数研究において注目されている permutation polynomial や APN function を取ることが可能です。これら関数がどのような幾何学現象を与えるか観察することが可能になりました。
大学院生、若手研究者の方へ:数学研究を行うための体制
(1) 「ガロア点」研究に関して、世界一の業績をあげています(ここ10年間の論文数)
(2) 「ガロア点」「正標数代数曲線」に関して研究のための予備知識は、少なくて済みます
(若い方にチャンスが多い分野と言えます)
(3) ガロア点研究に必要な知識を「ガロア点テキスト」に集約してあります
(4) 「未解決問題集」を公開し、次に行うべき研究の方向性をたくさん提案しています
(5) これら2分野に関して研究に入るまでのすべての学習段階を指導できます
(深澤は理学部に所属し、山形大学理工学研究科博士後期課程の主指導資格をもっています)
(6) 「ガロア点ワークショップ」の世話人の一人として、研究成果発表のお手伝いができます
(7) 科学研究費補助金に5 期連続採択されています(2010 年度から途切れなし)
(8) ポスドクや研究支援者として雇用できる可能性があります
(雇用にはもちろん条件(獲得研究費の目的、研究者自身の能力等)がつきますが、研究支援者(社会保険加入)の雇用経験がありますので、事務処理の一連の流れを深澤は理解しています)
研究室のヴィジョン、今後の展開
「ガロア点」「正標数代数曲線」の研究を活性化し、「若手による代数学の学術論文が出版される」(*) 活発な研究室を目指しています。ガロア点研究に関しては、ここ10年程度では(少なくとも論文数において)世界一の業績を上げております。また、本研究室から博士修了生を2021年に輩出しました。このように、研究業績とともに人材育成も成功を収めています。今後これを発展させ、東北地区有数の実績と研究力のある代数学研究室を目指します。
さらなる発展の方向性として「ガロア点インスティテュート (仮称)」を構想しています。具体的には複数名の若手研究員を雇用し、「ガロア点」「正標数代数曲線」の研究成果を複数年量産できる研究所です。上で挙げた3つ「ガロア点テキスト」「未解決問題集」「ワークショップ」により研究所の基盤は完成しています。
ヴィジョンと研究所構想の第一歩、第二歩として:
実績
(1) 2020年度日本学術振興会特別研究員(DC2)採用に関して「代数学関連」分野においては、本研究室の博士課程大学院生が東北地区で唯一採用されました。
(2) 科学研究費の補助により、2022年4月から2023年3月の1年間、研究支援者(月収15万円程度、社会保険加入)を雇用しました(**)。
次のステップとして、博士研究員または研究支援者の2 年から3年の雇用を目標とします。これには、科学研究費補助金基盤研究 (B) 相当が必要となります。2025年度採択分 (または2026年度採択分) に挑戦することを検討しています。
(*) 論文出版よりも「数学的発見」の方が重要で、論文出版はその結果です。わかりやすい説明のため、敢えてこちらの表現を使用しました。また、「若手」は博士院生やポスドクの「段階」に対して使用したいです。年齢は本質ではないと考えます。
(**) これには、山形大学小白川キャンパス事務部(人事・労務担当)に、たくさん協力いただきました。感謝しきれないほどです。たくさんのことを教えて頂きました。