2025年1月23日(木)16:35〜18:05(6号館6210教室)
金川隼人(東京大学)
開放量子系における分数量子ゼノ効果と反ゼノ効果
学部で学ぶ量子力学では、量子力学に従う系が外部とやり取りを一切しないことを暗に仮定しています。しかし現実に存在する系は外部からノイズを受けたり、人間が「測定」という形で積極的に量子系に働きかけたりしており、遍く外部とやり取りをしています。そのような外に「開いた」量子系を対象にするのが「開放量子系」と呼ばれる分野です。私たちは、無限大の自由度を持った環境系と相互作用する開放量子系を短い時間間隔で繰り返し測定することで、開放量子系の時間発展が抑制されたり(量子ゼノ効果)、加速されたり(量子反ゼノ効果)する現象が起こることを明らかにしました。量子ゼノ・反ゼノ効果はこれまでにも多くの物理学者によって論じられて来ましたが、私たちの発見したゼノ・反ゼノ効果はそれら従来型のゼノ・反ゼノ効果とはまた違った物理的メカニズムで起こる現象です。本セミナーでは、「測定」と「無限大自由度を持った外部との相互作用」という量子系が外部の影響を受けるからこそ起こる新たな物理現象―分数量子ゼノ・反ゼノ効果―について講演いたします。
2025年1月16日(木)16:35〜18:05(6号館6210教室)
広野 雄士(大阪大学)
拡散モデルと経路積分
近年、AIによる画像生成技術が注目を集めています。写真のようにリアルな画像や芸術的なイラストを生み出すAIの背後には、「拡散モデル」と呼ばれる技術が用いられています。この技術は、画像を徐々にぼかしてノイズ化し、そこから逆の過程をたどることで鮮明な画像を生成する仕組みに基づいています。本セミナーでは、まず拡散モデルの基本的な動作原理を解説します。さらに、我々の最近の研究成果として、量子力学の定式化の一つである「経路積分」を用いることで、拡散モデルを新たな視点から定式化・解析する方法についてもご紹介します。
2024年12月19日(木)16:35〜18:05(6号館6210教室)
菊池 雄太(クォンティニュアム株式会社)
Quantum Teleportation on Trapped Ions ~From Basics to Recent Research~
前半は、量子テレポーテーションの回路がどのように動作するか理解することを目標に量子計算の基礎的な内容を紹介する。後半は最近の量子計算機を用いた研究の紹介を行う[1]。主に量子テレポーテーションの原理を応用したHayden-Preskillの思考実験の量子計算機上での実験を紹介し、将来のより大きなスケールでの量子計算の展望に関して議論する。
[1] Kazuhiro Seki, Yuta Kikuchi, Tomoya Hayata, Seiji Yunoki, arXiv:2405.07613 [quant-ph]
2024年12月5日(木)16:35〜18:05(6号館6210教室)
廣島 渚(横浜国立大学)
From invisible to visible: our Universe of dark matter
暗黒物質はこの宇宙が今の姿であることを説明するために不可欠である。
人類はまだ暗黒物質それ自身を見ることには成功していないが、
宇宙の見えるもの、すなわち銀河などの観測を通じてその性質についての示唆が引き出せる。
本講演では既知の暗黒物質の性質から自然に従う暗黒物質ハローの物理に焦点を当て、
宇宙史におけるその成長を通じて暗黒物質の正体に迫る手法について紹介する。
2024年11月28日(木)16:35〜18:05(6号館6210教室)
森島 邦博(名古屋大学)
宇宙線ミューオンイメージングによるクフ王ピラミッドの新空間の発見
宇宙線ミューオンが持つ物質に対する高い透過力を利用することで、最大数kmの厚さの物体内部の積算密度分布を可視化する「宇宙線ミューオンイメージング」の開発を進めている。2015年にScanPyramidsプロジェクトを立ち上げ、この技術を用いてエジプトのクフ王ピラミッドの未知の内部構造探査を進めてきた。2016年にはピラミッドの北面背後に通路状の空間を発見し、2017年にはピラミッドの中心部に巨大な空間を発見した。その後、宇宙線ミューオンイメージングによる追加観測により、通路状の空間の詳細な位置と形状を推定し、2023年にはファイバースコープを用いて4500年前の状態を保った通路状の空間の撮影に初めて成功した。本講演では、宇宙線ミューオンイメージングの手法や、それを用いてどのように空間が発見されたかについて紹介し、さらに今後の展開についても述べる。
2024年11月21日(木)16:35〜18:05(6号館6210教室)
青木 真由美(金沢大学)
拡張ヒッグス模型と電弱相転移
自然界に存在する4つの力のうち、電磁気力と弱い力は100ギガ電子ボルト程度以上の温度では統一されており、電弱相転移によって分化したと考えられています。もし電弱相転移が一次相転移であったなら、重力波が生成されるなど非常に興味深い現象が起こり得ます。素粒子の標準模型では電弱相転移の次数は一次にならないことが知られていますが、複数のヒッグス粒子を含む拡張模型では一次になる可能性があります。本講演では、そのような拡張ヒッグス模型における電弱相転移について議論します。
2024年11月1日(金)16:35〜18:05(6号館6101教室)
李 宰河(東京大学生産技術研究所)
不確定性関係の展開とその普遍的定式化
量子論の根幹をなすハイゼンベルクの不確定性原理(または不確定性関係)は、アインシュタインの相対性原理と並び、最も一般に流布した物理用語の一つとなっています。不確定性関係は、量子の世界において両立しない事柄や相補的な性質を、広く代償(trade-off)関係として表現したものです。歴史的には、教科書で広く扱われる「量子ゆらぎ」の関係をはじめ、ガンマ線顕微鏡の思考実験で知られる「観測(者)効果」の関係や「量子測定の精度」の関係など、現在までに様々な代償関係が見出され、また多くの定式化が提案されてきました。
本セミナーでは、不確定性関係の発展の百年史の一端を、これら三つの典型的な関係を縦糸に平易に概説します。さらに、近年の提案の一例として我々の普遍的定式化を紹介し、とりわけ本定式化によって、従来個々別々に扱われてきた複数の代償関係が統一的に記述される様子を一望します。最後に、この新たな広い視点を通して、量子論における不確定性原理の不可能定理としての意義を振り返ります。
2024年10月28日(月)16:35〜18:05(6号館6111教室)
濱田 佑(DESY)
Knotted cosmic strings in early universe
場の量子論においてU(1)対称性が自発的に破れると、宇宙ひも(cosmic string)と呼ばれるソリトンが現れることが知られている。特に素粒子標準模型の未解決問題である暗黒物質の存在やニュートリノ質量などを説明する模型において、宇宙ひもはしばしば現れ初期宇宙において重要な役割を果たす。本講演では、標準模型を超えた物理としてよく議論されるQCDアクシオンとゲージB-L対称性をもたらす模型において、2種類の宇宙ひもからなる結び目ソリトンと呼ばれる新しいソリトン解が存在することを示す。これらの初期宇宙への影響と重力波による検証可能性を議論する。
2024年10月4日(金)16:35〜18:05(6号館6101教室)
酒見 はるか(山口大学)
次世代電波望遠鏡を用いた宇宙磁場研究
磁場は我々の宇宙を構成する基本要素であり、宇宙の構造形成や進化の歴史を明らかにするためには、磁場の理解が必要不可欠です。
電波観測はこの宇宙磁場を調べる数少ない方法の1つであり、現在建設が進められているスクエア・キロメートル・アレイ (SKA)を始めとする、次世代電波望遠鏡による磁場研究に期待が寄せられています。本講演では宇宙磁場の観測についてご説明し、最新研究をご紹介します。
2024年7月26日(金)16:35〜18:05(6号館6106教室)
森脇 可奈(東京大学)
宇宙大規模構造
宇宙空間において、物質や銀河は特徴的な分布の仕方をしていることが知られており、これは宇宙大規模構造と呼ばれます。本講演では、宇宙大規模構造を用いることで宇宙の構成要素である暗黒物質や暗黒エネルギー、もしくは宇宙の初期状態をいかに探るかを説明します。また、数値シミュレーションを使った宇宙大規模構造の研究や、データ科学的手法用いた観測データ解析といった最近の研究についても紹介します。
2024年7月19日(金)16:35〜18:05(6号館6106教室)
殷 文(東京都立大学)
eVダークマターの過去・今・未来
eVの質量(電子の約10^6分の1)を持つダークマターは最も長い歴史を持つダークマターの一つである。本講演では、なぜダークマターの存在が新物理法則の証拠なのかを説明し、現在、今後どのように調べられるかをeVダークマターを中心に議論したい。
2024年6月28日(金)16:35〜18:05(6号館6101教室)
山下 公子(茨城大学)
素粒子物理と暗黒物質
素粒子物理は物質の最小構成要素を突き止め、物理法則をこれらの相互作用から説明する学問です。現在知られている力は重力、電磁力、弱い力、強い力の4種類の力で、重力以外の3つの力を記述する素粒子標準理論がヒッグス粒子の発見によって確認されました。
素粒子物理の目的は暗黒物質等を含んだ未知の物理法則を物質の最小構成要素の相互作用から説明することです。本セミナーでは素粒子物理や暗黒物質とは何か、またそれらの関連性について紹介します。さらに最近の私の研究を抜粋し暗黒物質、バリオン数生成、宇宙のインフレーションといった現象に対する理論構築、高エネルギー理論への最近のアプローチ、素粒子実験や観測との関連性について述べます。
2024年6月14日(金)16:35〜18:05(6号館6101教室)
Ivan Arraut(Institute of Science and Environment and Faculty of Business and Law, University of Saint Joseph)
Implementation of the tools of Quantum Mechanics in scenarios involving finance and economy
In this presentation I will introduce some of the most useful analogies for analyzing problems in economy and finance by using the well-known tools of Quantum Mechanics. This brings us to the scenario of Quantum Finance where certain financial equations can be expressed in a Hamiltonian/Lagrangian language.
In this way, we can derive new results by extending important concepts like spontaneous symmetry breaking, gauge symmetries, Higgs mechanism and others. We then show how this scenario helps us to unify the two most important equations, constructed for predicting the prices of Options. Finally, we explain other practical problems where the notions of Quantum Mechanics can play an important role.
2024年5月31日(金)16:35〜18:05(6号館6101教室)
佐藤 丈(横浜国立大学)
LμーLτ対称性
素粒子標準理論では説明できない現象を説明する理論的枠組みとしてのLμーLτ対称性について説明する。標準理論はほとんどの地上での素粒子実験を説明するよく出来た枠組みである。しかし、依然として謎である事柄がいくつか存在する。その事柄として、ニュートリノの質量、ミューオンの異常磁気能率、IceCubeで観測する宇宙ニュートリノのスペクトル、Hubble tensionと言う事象について取り上げる。そしてそれらを同時に解決する枠組みとして、LμーLτ対称性を持つように標準理論を拡張した模型について説明する。
2024年5月17日(金)16:35〜18:05(6号館6111教室)
林 優依(京都大学 基礎科学研究所)
クォーク・グルーオンの物理とその真空構造
物質の基本的な要素である陽子や中性子はクォークとグルーオンから構成され,それらクォーク・グルーオンの物理は量子色力学(QCD)という場の量子論の模型で記述されます.QCDの理論的な理解には,クォーク閉じ込めの問題「なぜクォークは単独で取り出せず,陽子や中性子などとしてしか観測されないのか」に代表されるように,依然として多くの根源的な謎が残っています.本セミナーでは,QCDの低エネルギーの物理・真空の構造を知ることの難しさと面白さに触れたのち,最近の研究として,T^2コンパクト化によるQCD真空の半古典的な解析について紹介します.