過去のセミナー(2022年度)

2023年1月12日(木)11:30〜12:30(9号館)9102教室
伊藤悦子(理化学研究所)
量子の世界を計算する―古典計算機と量子計算機を使って―

物質を小さく分割していくと全ての物質は原子でできている。原子の中にはプラスの電荷を持つ原子核があり、その中では陽子と中性子が強く結合している。この原子核を作る力を記述する素粒子の理論が「量子色力学」であり、その力の強さが大きいため手計算による計算で、その物理現象を理解するのは難しい。これまで40年間は(古典)スーパーコンピュータを使って、量子色力学や原子核の中の粒子の振る舞いが理解されてきた。しかし未だ、古典的なコンピュータでは計算するのが難しい領域もある。この講演では、古典コンピュータで明らかになってきた量子色力学の振る舞いと課題、最近登場した量子コンピュータによる新たな取り組みを紹介する。
伊藤悦子.pdf
0112-Tokyo-Woman-University.pdf
 1940年代のガモフに始まるビッグバン宇宙論は、元素合成理論と宇宙背景マイクロ波の発見を経て、精密化され、その後の詳細な宇宙観測と精緻な理論計算により宇宙論の確たる基盤となった。一方、素粒子物理は1970年代の黄金期を経て、物質の基本的構成要素としてクオークとレプトンを明らかにし、それらを支配する力の法則を素粒子標準理論として定式化し、多様な実験により、標準理論は疑問の余地なく立証された。 宇宙創成期を解明するには、よりミクロな法則が必要とされるが、標準理論を超える大統一理論が早くから提案されていた。その後、講演者をはじめとする多くの研究者により、大統一理論に基づく宇宙の物質・反物質不均衡の説明、インフレーション模型が提案され、宇宙創成期における興味ある知見を加えた。さらに、我が国のニュートリノ実験の成果により、標準理論をこえる物理法則が見え始め、極微の世界と極大の世界が融合した分野の創成を達しつつある。 本講演では、宇宙の進化がどこまで解明されたかを研究現場に関わることができた研究者の立場から説明したい。
吉村太彦.pdf
宇宙進化0.pdf
標準模型は2012年ヒッグス粒子の発見とともに大きな成功をおさめましたが、未だ説明できない現象が数多く残されています。その一つに、クォーク・レプトンは質量のみが異なり、スピンや電荷が全く同じコピーが3つ存在するという世代数問題があります。この3世代は偶然でしょうか、それとも必然でしょうか?標準模型ではなぜ3世代であるかを説明することはできません。これは標準模型を超える理論の必要性を示唆しており、その有力候補が余剰次元模型です。余剰次元模型において世代数は余剰次元の幾何と結びつきます。つまり世代数は余剰次元の幾何という物理的意味を持ちます。今回のセミナーではT^2/Z_N orbifold模型という余剰次元模型における世代数構造についてお話しします。
竹内万記.pdf
東京女子大セミナー.pdf
系外惑星は我々の太陽とは異なる恒星の周りをまわる惑星です。系外惑星はこれまで5千個以上見つかっており、太陽系の惑星とは大きく異なる惑星や生命居住可能な惑星などが次々と発見されています。惑星は宇宙の物質循環の中で形成されます。惑星の材料は星の最終進化段階に起きる超新星爆発や巨星などから放出されるガスから作られる小さなミクロンサイズの宇宙塵です。宇宙塵がどのように生成され、また宇宙の中でどのように進化し数千キロ以上の巨大な惑星が形成されるのかを明らかにするためには、進化の中でおきるプロセス(素過程)が鍵になります。セミナーでは系外惑星観測の最前線の紹介と、宇宙塵の生成のプロセスから惑星形成までのシナリオおよび現在でも分かっていない明らかにすべき問題点などについてお話します。
田中今日子.pdf
東京女子大学ー惑星科学セミナー提出用.pdf
宇宙のエネルギー密度の1/4は暗黒物質と呼ばれる未知の物質で占められている。暗黒物質は宇宙の中でハローと呼ばれる束縛系を構成しており、素粒子標準理論の物質で構成される世界はハロー階層構造の中に埋め込まれていることが種々の宇宙観測からわかっている。既知の物質との性質の類似点や相違点についての考察からは暗黒物質が素粒子標準理論に表れない新粒子である可能性が示唆され、現在活発に議論されており様々な手法での探査が進められている状況である。本講演では宇宙の観測に基づく暗黒物質の探査について、特に暗黒物質ハローの物理に焦点を当てて紹介する。
広島渚.pdf
TWCU_20221201.pdf
暗黒物質(DM)は、銀河団衝突を含む種々の天文学的観測によって存在が確実視されており、我々の宇宙のおよそ1/4のエネルギーを占めるとされています。その観測と性質の解明のために、DMを直接原子核と散乱させる直接探索や、DMが放出した光子を観測する光学的探索が行われてきましたが、DM由来と断定できる信号は今日まで検出されていません。そこで近年、現行の探索実験と相補的な強みを持つニュートリノでのDM探索に注目が集まっています。本研究では、MeVスケールの質量を持つDMが対消滅や崩壊を起こした際に放出するニュートリノ信号を解析し、将来的なニュートリノ観測実験の1つであるJUNOがDMの検出可能性を有することを明らかにしました。今回のセミナーでは、ニュートリノを用いたDM探索のレビューと、本研究で明らかになったJUNOのDM検出可能性についてお話しします。
ポスター7(新穂みちる氏).pdf
seminar-niibo.pdf
素粒子の実験・観測結果の多くは標準模型と呼ばれる理論で記述できることがわかっていますが、まだ多くの謎を抱えています。たとえば、クォークやレプトンの質量の違いがどのように生じているのか、結合の強さがなぜ階層的になっているのか、なぜ3世代あるのか等、標準模型の枠組みの中ではうまく説明することができません。このような謎を説明できる新しい理論(新物理)はどんなものであるのかが、現在の素粒子物理における重要な問いになっています。

新物理を探る手がかりとして期待されているのが、クォークやレプトンの種類を区別するフレーバーに関わる物理量です。フレーバー物理は新物理による影響を受けやすいことが知られており、フレーバー物理現象の中にその兆候が見出せるのではないかと研究されています。実際、CERN(スイス)やKEK(つくば)などにおける加速器実験で、標準模型から僅かにずれているデータが報告されており、新物理の兆候かもしれないと注目を集めています。

このセミナーでは、フレーバー物理のレビューをはじめ、最近の状況と進展を紹介し、フレーバー物理で探る新物理の可能性についてトークしたいと思います。また、フレーバー対称性に注目した有効理論的アプローチと、検証可能性についても議論したいと思います。
ポスター6(山本恵氏).pdf
概要:素粒子標準模型はヒッグス粒子の発見により一応の完成を見たが、暗黒物質の正体やバリオン数の非対称性など標準模型では説明できない現象により、拡張は必須とされる。一方で、標準模型を超える新物理は未だ観測されていない。標準模型に複素シングレットスカラー場を1つ導入した模型(Complex singlet extension of the SM, CxSM)には2つのヒッグス粒子が存在する。これらの質量が縮退しているとき、コライダー実験のシグナルが標準模型のものとして観測される。さらに、暗黒物質直接探索実験により強い制限が与えられている暗黒物質核子散乱断面積も抑制される。このような新物理抑制メカニズムを持つ縮退スカラーシナリオにおいて、バリオン数生成に必要な電弱一次相転移の実現可能性を議論する。また、現象論的な帰結として、電弱相転移由来の重力波も評価する。
ポスター5(出川智香子氏).pdf
東京女子大セミナー_Idegawa.pdf
概要:近年、初期宇宙における一次相転移は重力波、原始ブラックホール、バリオン数生成などの様々な現象論的観点から盛んに研究されている。特に一次相転移が強い場合、粒子がそのまま偽真空にトラップされ、コンパクトな残存物として宇宙に残る可能性があり、新しい暗黒物質候補や原始ブラックホール形成などの応用が研究されている。一般に残存物の相転移後の発展はモデルパラメータに依存し、それに応じて終状態も変わってくる。本講演では一次相転移を実現する比較的シンプルな拡張模型において、相転移後の残存物の発展を議論し、考えうる終状態についてまとめる。参考文献: arXiv: 2206.09923
ポスター4(川名清晴氏).pdf
Seminer_Kawana.pdf
概要:我々のマクロな世界--量子力学以前より理解されている"古典的"な世界--は、分子・原子といった下部構造に還元され、これらの段階でモノを見る際には、量子力学という"新たな"言語を使用しなければいけません。量子力学的な世界では、古典的には単なる点として記述できる粒子が、波としての広がりを持つ物体として記述されます。
ここで、粒子と粒子の散乱現象に目を向けてみましょう。古典的な粒子・粒子散乱は、勿論古典的な力学で記述され、皆様も馴染み深いと思います。さて、では量子的な粒子・粒子散乱を記述するためには、どの様な波を使用すればよいのでしょうか?量子力学における従来の計算方法では、平面波(単一の振動数を持ち、特定の方向に伝搬する波)として粒子を記述します。これは、粒子の典型的な性質の一部--あるエネルギーを持ち、特定の方向に進む--を満たしていますが、エネルギーが空間のある領域に局在化されているという粒子の重要な性質は満たされていません。即ち、従来の計算は近似計算であり、重要な効果が抜け落ちている可能性があります。
この難点は、粒子を表現する波として空間局在化したもの(波束)を採用すれば、原理的に全て解決されます。本公演では、技術的な詳細を極力廃する形で、波束を利用した量子力学での完全な粒子散乱の記述の意義と、その応用(平面波としては理解困難だが、波束としてなら理解可能な物理現象)に関して、一から詳しくお話させていただきます。
ポスター3(西脇健二氏)最新.pdf
Tokyo_WCU-Seminar-22ndJuly2022_compressed.pdf
概要:2017年のノーベル物理学賞は、世界初の重力波の検出に対してアメリカのLIGO(ライゴ)チームの3名に贈られました。約13億光年のかなたで、それぞれが太陽の約30倍の重さを持つ、連星と呼ばれる双子のブラックホールの衝突によりつくられた重力波でした。このことは同時に、ブラックホールの存在を電磁波を用いずにとらえた初めての観測ともなりました。しかし、そのようなブラックホールの起源は、ほとんど解明されていません。
理論的に、宇宙のはじまりの時期のインフレーションにより、密度ゆらぎが作られたことが予想されています。インフレーションを引き起こす未発見の素粒子であるインフラトン場の量子ゆらぎが、後の宇宙で密度ゆらぎとなるという理論モデルです。大きなスケールでは、その密度ゆらぎを種としてダークマターと物質が潰れることにより銀河や銀河団が形成されました。それぞれの銀河の中では多くの恒星と恒星系が形成され、現在の宇宙の姿を形作っています。この密度ゆらぎは、宇宙マイクロ波背景放射の3°Kの温度のゆらぎとしても観測されています。
その一方、未検証である小さなスケールの大きな密度ゆらぎを起源として、原始ブラックホール(PBH)と2次的重力波が作られたことが理論的に予言されています。PBHの質量は様々で、軽いものはホーキング放射を出して蒸発して消えてしまいますが、重いものは現在まで残っていてダークマターの候補となります。また、その一部は上記のブラックホール連星を形成する可能性があります。
これらの理由により、小さなスケールでのPBHと重力波の形成の研究は、宇宙誕生の謎を解く鍵となる可能性が指摘されています。その理論モデルを素粒子論と宇宙論の両方の立場からわかりやすく解説します。
ポスター2(郡和範氏).pdf
kohri-TokyoWomensChristianU-20220701.pdf
概要:水が氷になったり、水が水蒸気になったりと、物質の存在形態が急激に変化する現象を相転移といいます。相転移現象を扱うには物質の存在形態(相)が変化する前と後で物質はそれぞれ「動き」の無い熱平衡状態にあると仮定して解析を行うのが一般的です。しかし、もし「動き」のある状態、正確には非平衡状態において相転移を考えたらどうなるでしょうか?例えば不均一な水流がある状況で水が氷となる場合は、静止した水が氷となる場合に比べて、氷点の温度は変化するでしょうか?このような問いの答えを探るため、本セミナーでは非平衡定常状態における相転移現象について、ゲージ・重力対応という、ブラックホールの物理学を応用した計算手法による解析について初歩的な解説を行います。
ポスター1(中村真氏).pdf
ブラックホールで探る非平衡相転移_open.pdf