2025.11.19
接尾辞 -ant には「...性の、…をする」などを意味する形容詞を造るはたらき(ascendant「上昇する」、dependant「頼っている」など)と、「…する人[もの]、…作用者[物]」を意味する名詞を造るはたらき(servant「使用人」、dependant「扶養家族、従者」など)がある。-āre を不定詞語尾とするラテン語第一変化動詞の現在分詞語尾 -antem またはフランス語の現在分詞語尾 -ant から中英語期に借用された。
13世紀頃にフランス語からこの接尾辞が借用されると、中英語において -aunt や -aunte の語形が見られるが、OED によるとこれはロマンス語のアクセント位置に倣って語の後ろの方に強勢が置かれていたことを示唆している(“-Ant, Suf. (1)”)。『英語語源辞典』によると、やがてアクセントが英語化して語頭に移ることで、綴りも -ant に戻ったとされている。中英語は近代・現代英語と比べて発音と綴字の乖離が小さいとされており、接尾辞の綴字の変化から当時の発音・アクセントの変化を論じているのが興味深い。
また、-ant と同じく行為・性質・状態などを表す形容詞語尾、また行為者を表す名詞語尾に -ent があるが、これはラテン語の第一変化動詞以外の現在分詞語尾 -entem, -ēns またはフランス語の -ent から借用された。ラテン語の -antem, -entem の違いは動詞の活用の種類によるものであるが、OED, “-Ent, Suf.” によると古フランス語ではこの2つの活用語尾が -ant に水平化して、単独の現在分詞語尾になった。その後ラテン語からフランス語に形容詞として -ent- を持つ語が借用されたことで、フランス語で -ant と -ent の両方の接尾辞が見られるようになり、それが英語にも借入した。また、16世紀からはラテン語の語源に倣って、元は英語で -ant と綴られていた語が、完全に、あるいは特定の語義において -ent と綴り直されるものも見られるという。このラテン語に倣った -ant から -ent への変化は語源的綴字と呼ぶことができるだろう。
これまでの接尾辞 -ant, -ent に関連した記事として、「133. ambient, ambience ―-entか-antか―」も挙げておく。
参考文献
「-Ant, Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Ent, Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“-Ant, Suf. (1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ant_suffix1?tab=etymology. Accessed 19 November 2025.
“-Ent, Suf.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ent_suffix?tab=etymology. Accessed 19 November 2025.
キーワード:[suffix] [agent suffix] [etymological spelling] [Latin] [French]