2025.10.29
『英語語源辞典』には2つの ancient が見出しとして立てられている。ancient (1) は名詞で「旗」(1554年初出)、「旗手」(1598年初出)を意味する。これは ensign((古)フランス語の enseigne からの借用)からの変形で、ensign の異形 ensyne と「古代の」を意味するもう一つの ancient (2) の異形 ancien との連想によるものであるという。
ancient (2) は形容詞としては主に「古代の」の意味で現在用いられているが、初めに英語に現れた語義は「年老いた」(?1390年頃初出)で、「古代の」の語義は1412年頃から見られる。また、名詞としては「老人」(?1390年頃初出)、「†先祖」(1540年初出、1649年までで廃義)、「古代人」(1541年初出)の意味で用いられる。中英語の語形は主に auncien(t) で、古フランス語の a(u)ncien から借用した。a(u)ncien は俗ラテン語の antiānu(m)「前の」から発達したもので、ラテン語の ante「…よりも前に」と「…の;…の性質の、…に属する」などの意味を表す形容詞を造る接尾辞 -anus を組み合わせたものである。
したがって、ancient (1) の語形が生まれるきっかけとなった、ancient (2) の -t の語尾のない語形 ancien が語源に沿った本来の形で、15世紀に中英語本来の語形 auncien, -an が崩れて aunciant, -and のような形が生まれた。『英語語源辞典』によると、当時分詞形 -nt, -nd が語尾の -t, -d を脱落させることがあり、auncien は逆に -t, -d の語尾が脱落した語形と見なされ、類推によってそれらの語尾が補われたとされている。
また、 中英語の auncien はそのまま発達すれば語頭音は /ɔːn-/ となるはずであったが、-u- が鼻音 /n/, /m/ の前では落ち、その代わりに前の母音 a が長音化して、さらに大母音推移を経て /ei/ に変化した。同様の音変化・綴字の変化を遂げたものには angel, chamber, change がある。
参考文献
「Ancient (1), N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Ancient (2), Adj. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[analogy] [homonymy] [compensatory lengthening] [Great Vowel Shift] [French] [Latin]