2025.10.22
不定冠詞 an は「2. a (2) ―aとanの関係―」で触れたように数詞 ān(現代英語の one )の弱形であり、さらに語尾の -n が弱化して脱落したものが不定冠詞の a である。an が後続する名詞と共に不定冠詞として用いられるようになったのは古英語最末期あるいは初期中英語期頃で(『英語語源ハンドブック』p. 1)、古英語では形容詞と同じく格変化をし、初期中英語でも特に南部方言では格変化形がそのまま維持された(『英語語源辞典』「An (1)」)。
『英語語源辞典』の an (1) の項では不定冠詞 a, an と数詞 one の区別、また a と an の区別における方言ごとの違い、広がりについて、「ME後期の中・南部方言で不定冠詞 a と an が数詞の ōn ‘one’ と区別されて使用された.また12C半までに中部方言では子音の前では弱形 a が一般化したが,南部方言では子音の前でも1340年ごろまでは an が用いられている.」(p. 41)と説明されている。これによると子音の前では a を用い、母音の前では an を用いる使い分けはイングランド中部方言から徐々に広がっていったことが分かる。
また、子音の中でも an の使用が続くものがあり、「an は w, y の前では15C初まで用いられ,強音節にある h の前では17Cまでしばしば用いられた.AV やShak.では h の前では両形が見られ,今日でも An Historical Syntax のように an が用いられることがある.」(p. 41)と説明されている。語頭の <h> は英語史上発音されてきたのかどうか議論が続いているものであり、h の前における不定冠詞 a/an の使用とも関わってくるだろうし、その名残が現代の h の前の an の使用に表れている。
参考文献
「An (1)」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一『英語語源ハンドブック』研究社、2025年。
キーワード:[article] [dialect] [initial <h>]