2025.5.1
2項目は「一つの、ある」を意味する不定冠詞aである。現代英語の不定冠詞といえば母音で始まる語の前につくanと母音以外で始まる語の前につくaがあり、aが基本でanの方が特殊であるような印象を受ける。しかし、不定冠詞の歴史を知るとその発想が逆転するのである。
不定冠詞aは中英語期から使用されるようになったが、その元となったのは古英語で「一つの」を意味するānである。そう、このānは数詞のoneの語源であり、oneとは別にānから派生したのが不定冠詞のan、そして語尾の-nが弱化してできたのがaなのである。『英語語源辞典』には、「次の語が子音で始まる際には1200年ごろから尾音消失によりaとなるが、hで始まる語の前では18Cごろまでanがしばしば用いられ、20Cにおいてもなおanが用いられることがある」("a (2), Indefinite Article")と説明されている。英語史を知らなければ不定冠詞の使い分けは昔から存在していたかのように感じてしまうが、中英語期から20世紀まで揺れを見せながら現代のルールが定着していったのである。
不定冠詞a/anは現代英語・共時的な視点だけでは分からない驚愕の事実を提供してくれる英語史・通時的な視点を持つことの利点、そして現代英語の規則が何百年もかけて定着したものであることを再認識させてくれる格好の例と言えよう。
キーワード:[loss of final n] [article]