2025.8.18
aisle は現代では一般的に「通路」の意味で用いられるが、1370年頃に英語に借用された当初の語義は「側廊」であった。側廊とはキリスト教聖堂内の入口から祭壇までの中央部分から、柱によって区別された左右の部分を指す。「通路」の語義は1755年から見られるが、『英語語源辞典』によるとこの語義は「小道、通路」などを意味する alley(古フランス語の alee からの借用語)との混同によって生まれた。
aisle は古フランス語の ele から借用され、中英語の語形も ele であり、現代英語の綴字とは大きく異なる。古フランス語の ele はラテン語で「翼」を意味する ālam から発達したもので、さらに印欧祖語で「軸」を意味する *aks- から派生した *axslā に遡る。<ai-> や <-s-> の綴字はラテン語の語源とは関係がないことが分かる。
<ai-> の綴字は『英語語源辞典』によると18世紀以降に見られ、フランス語で ele から aile に変化した綴字からの連想によるものである。そして、<-s-> の綴字は17世紀以降に見られ、「島」を意味する isle との連想による。isle はラテン語の insulam から古フランス語の i(s)le を経由して英語に借用されたが、中英語期には ile, ille など <s> を持たない綴字で、15世紀半ば頃からラテン語の影響で <s> を挿入するようになった。aisle のラテン語の語源には <s> は含まれていないが、ラテン語の語源を参照した語源的綴字で <s> を挿入した isle からの連想・類推によって <s> が挿入されたことになる。OED によると aisle の isle との連想は、側廊が教会の分離した、あるいは別個の部分であると考えられたことに基づく可能性があり、15・16世紀のブリテン島の資料では、post-classical Latin の insula が ‘aisle’ を表す一般的な語でもあったという。さらに、aisle の異綴りとして、中英語期から ile や yle などの <i->, <y-> で始まる綴字が見られ、意味・綴字ともに aisle と isle で混同・連想が起きていたことが分かる。aisle の異綴りの変遷を調査するのは骨が折れそうだ。
参考文献
「Aisle, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Alley (1), N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Isle, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Aisle, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/aisle_n?tab=etymology#7789015. Accessed 18 August 2025.
「そく‐ろう[‥ラウ]【側廊】」『日本国語大辞典』 JapanKnowledge, https://japanknowledge-com.kras.lib.keio.ac.jp (2025年8月18日参照)
キーワード:[folk etymology] [analogy] [etymological spelling] [confusion] [French] [Latin] [Indo-European]