2025.8.8
aigrette は「シラサギ」を意味し、フランス語の aigrette から1645年以前に借用された。(古)フランス語の aigrette は古プロバンス語の aigreta から借用されたもので、「サギ」を意味する aigron に遡る。これはさらにフランク語の *heigro, haigro から借用されたもので、ゲルマン祖語で「サギ」を意味する *χaiȝarōn に遡る。aigrette の <ai> を /eɪ/ と発音することについては昨日の記事「89. aid ―なぜ<ai>は/eɪ/と発音するのか―」を参照されたい。
しかし、英語には aigrette の他に「シラサギ」を表す語として egret がある。egret は aigrette よりも早い1353年頃に現れており、アングロ・フレンチの egrette から借用された。 egrette は(古)フランス語の aigrette に対応するものであり、フランス語以前の語源は共通している。つまりegret はフランス語の北部方言に、aigrette はフランス語の中央方言に由来しており、フランス語の異なる2つの方言から英語が異なる時期にそれぞれ借用した結果、「シラサギ」の意味を表す2つの語が現在の英語に共存しているということになる。OED を見ると aigrette と egret で意味が重なる部分が多いようだが、aigrette は「シラサギの羽を使った頭飾り」や「羽毛のようなふさ」などの意味があり、「シラサギ」の意味で使うことは現在まれであるようで、「シラサギ」の意味は主に egret が担っているようだ。同じフランス語ではあるが、既に借用していた北部方言由来の egret に加えて、中央(パリ)方言が持つ威信や洗練されたイメージから aigrette を借用し、主要な意味を2語で違えることで英語の中で使い分けが進んでいったのかもしれない。
参考文献
「Aigrette, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Egret, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Aigrette, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/aigrette_n?tab=meaning_and_use#7878507. Accessed 8 August 2025.