2025.8.7
aid は動詞の「援助する」の意味でおそらく1400年以前に初出した。名詞としては1412年頃から使用が見られ、最初に確認された語義は「王室への献金」であった。その後「援助」の語義は1430年から、「助力者」の語義は1450年頃から、「助けとなるもの」の語義は1598年から現れる。
aid は動詞と名詞のどちらもラテン語で「援助する」を意味する adjuvāre を語源に持ち、adjuvāre は接頭辞 ad- と「助ける」を意味する juvāre から成る。juvāre は一説によると印欧祖語で「助ける」を意味する *au- に遡る。中英語期に動詞の aide(n) は adjuvāre の後期ラテン語の反復相 adjutāre から発達した古フランス語の aidier から借用され、名詞の aide は adjuvāre の後期ラテン語の過去分詞 adjūtam から発達した古フランス語の aide から借用された。
語源記述から読み取れるように aid の語形は借用元のフランス語の語形を受け継いだものであるが、表題に掲げた <ai> の綴字と /eɪ/ の発音の関係もフランス語での綴字・発音の変化と大きく関係している。Upward and Davidson (p. 90) によると、特定の音声環境でラテン語の強勢のある /a/ の発音(綴字は <a>)が古フランス語で /aɪ/ に変化した。綴字も <ai> に変化し、この綴字が中英語に取り入れられた。しかし、古フランス語ではさらに /aɪ/ から /ɛɪ/ に発音が変化し、綴字も <ai> から <ei> に綴り直されていった。そのため、中英語でも <ai> と <ei> で綴字に揺れが見られ、aid は eide とも綴られていた。結果的に英語では綴字は <ai> が、発音は /eɪ/ が標準となり、綴字と発音にずれが生じることとなった。
Upward and Davidson には aid と同様の綴字と発音の対応関係を持つフランス語借用語として、bail, claim, grain, saint, tailor, traitor を挙げている (p. 90)。
参考文献
「Aid, V. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
Upward, Christopher, and George Davidson. The History of English Spelling. Wiley-Blackwell, 2011.
キーワード:[French] [Latin] [spelling-pronunciation gap]