2025.8.5
日本語で言うところの「ああ」「おお」に相当する間投詞 ah は悲しみ、嫌悪、喜び、驚きなど様々な感情を表す。古英語には用例がなく、中英語から a(h) の形で使用されている。OED の a int. (1) の項によると a はおそらく自然な発声を模倣したものに由来するとされており、『英語語源辞典』は他言語でも同様の語形が用いられている例として、ドイツ語の ach、フランス語の ah、イタリア語の ah、ギリシャ語の á を挙げている。ah の <h> は発音されず、Upward and Davidson によると ah や oh などの間投詞と、shah(ペルシャ語由来)や cheetah(ヒンディー語由来)などの外国語からの借用語で語末に黙字の <h> が見られるとのことで(p. 121)、ah などはある種特殊な位置における黙字の <h> なのかもしれない。また、OED によると ah の語形はフランス語の語形を基にしたものだという。
英語ではおよそ1400年から1700年の間に、強勢のある長母音に起こった「大母音推移」と呼ばれる現象があり、大母音推移が起こる条件を満たす ahも理論上 /eɪ/ と発音が変化した可能性が考えられるが、実際には変化しておらず、/ɑː/ と発音されている。OED は ah に大母音変化が起こらなかった原因として、自然な発声との結びつきを示唆している。ただし、『英語語源辞典』によると、大母音推移を経た /eɪ/ の発音はイングランド北部方言に残り、ay! eh! と綴られることがあるという。 間投詞は他の品詞と比べて、発音に関して特殊な振る舞いをするものなのか、また自然な発声を反映するとされる間投詞の発音は、方言によって変化の有無や普及の仕方が異なるものなのか、気になるところだ。
参考文献
「Ah, Int.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“A, Int. (1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/a_int1?tab=etymology#33683983. Accessed 5 August 2025.
“Ah, Int. & N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ah_int?tab=etymology#8068577. Accessed 5 August 2025.
Upward, Christopher, and George Davidson. The History of English Spelling. Wiley-Blackwell, 2011.
キーワード:[Great Vowel Shift] [dialect] [French]