2025.8.3
agony は「死の苦しみ」(1384年頃初出)、「苦悶」(1390年頃初出)を意味する名詞で、1384年頃に(古)フランス語の agonie または後期ラテン語の agōnia から借用された。これらはギリシャ語で ‘struggle for victory, anguish’ を意味する agōniā から借用されたもので、同じくギリシャ語で ‘contest’ を意味する agṓn、‘to lead’ を意味する ágein に遡り、さらに印欧祖語で ‘to drive’ を意味する *ag- に遡る。ちなみに同じ印欧祖語の *ag- に遡るラテン語の agere ‘to drive’ の過去分詞 actus を語源に持つのが act である。agony の派生語 agonistic(1648年初出)の「(古代ギリシアの)懸賞競技の」の意味とも関連するが、agony の語源であるギリシャ語では「勝利のための戦い、苦痛」を意味したようだが、英語に借用されるまでに「死の苦しみ」の意味を表すようになったのが興味深い。また、『英語語源辞典』によるとフランス語の agonie では「苦悶」の意味は文語として用いられ、「死の苦しみ;最後」が現行の意味であるようだ。
さて、(古)フランス語の agonie または後期ラテン語の agōnia から借用した中英語での語形は agonie や agonye であった。現代英語では -y の綴字になったこの語尾はラテン語系の抽象名詞語尾で「状態・性質・行為(の結果)」などを表す名詞を造るもので、comedy, glory, history, remedy, -logy, -pathy などに見られる。OED の語形欄には -y の綴字が中英語期からあると記載されているが、MED の用例では9例中8例が agonie や agonye で1例のみ agony (a1500 Craft of Dying (Rwl C.894) 407) が用いられており、また(今後より詳細な調査が必要であるが)OED の用例を見る限りでは -y の語形は16世紀から現れ始めているようである。
参考文献
「Act, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Agony, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Y (1), Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Agony, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/agony_n?tab=forms#8334768. Accessed 3 August 2025.
“Agō̆nīe, N.” Middle English Dictionary, quod.lib.umich.edu/m/middle-english-dictionary/dictionary/MED876/track?counter=1&search_id=2156770. Accessed 3 August 2025.
キーワード:[suffix] [French] [Latin] [Greek] [Indo-European]